「不動」
「あ?」
「一緒に死のうか」

 源田は窓の外をぼうっと眺めながら、まるで日常会話のようにそう零した。

 FFIが終わり日本に帰ってきた俺はやっぱり家に戻りたくなくて、仕方なく鬼道くんに勧められた帝国学園に通っている。特待制度があるから金の心配はあんまりしなくて良いけど、お蔭で勉強する羽目になった。学校の近くにボロアパート借りて、生活費も学校側がある程度払ってくれる。まあ、それなりに学校生活を謳歌しているし、サッカーも楽しいし、それにこうして源田が世話を焼いて家に来てくれる。洗濯だとか飯だとか、母親代わりって感じで。

 そんで、いつの間にか俺と源田の関係は恋人になってたんだけど、別に嫌じゃなかった。今日だって、学校が休みだから昼飯を作りに来てくれて、食い終わった後、皿洗いくらい俺がするかとシンクでスポンジを握っていた。それだけの穏やかな日常だった。天気も良くて、テレビでは昼ドラがあってて、源田はくつろいでいた。それなのに、どうしてあんな非日常的な言葉を吐いたのか、俺には理解できなかった。洗い物を中断してテキトーに手を服で拭いながら源田の傍に寄った。

「何かあったのかよ」
「……いや、何もない」

 源田は俺を見ようとはしなかった。いつもならすぐに抱きすくめてきて俺が本気で放せと言うまでそのままのくせに。源田の纏う雰囲気が真・帝国の時を思い起こさせて背中がぞくりとした。源田はいつもふにゃりと笑っていて、悩みなんてなさそうで、だからこいつが"死ぬ"という単語を口にするのがどうしようもなく恐かった。

「悩みとか、あんの?」
「特にない。………ただ、」

 こっちを向いた源田の瞳は、暗く沈んでいた。

「疲れたんだ、生きることに」
「疲れたってお前、死んだらサッカーできねぇんだぜ?」
「…もういいんだ、何もかも、疲れた、飽きた。誰も悪くない、悪いのは俺だ。明日も生きなければならないかと思うと、面倒で」

 どうしてこうなったんだ、いつから源田はそんな風に感じていたんだ。少なからずこの日常に安息を覚えていた俺の隣で源田は日に日に消えそうになっていたなんて。バカな俺は同じ気持ちだと勘違いしていた。

「だけど、こんなつまらない世界でも、俺は不動が好きで、だから死ねなかった」

 こんな時にそう言われてもどう反応したら良いか分からない。俺は源田を見つめることしかできず、自分の無力さを呪った。

「今まで死ねなかったけど、限界だ。辛くて、面倒で、疲れた。この世界が俺とお前だけになればいいのに。俺たち以外みんないなくなればいいのに」

 源田が俺に手を伸ばし、頭を優しく撫でた。源田は少しだけ笑ったけど、いつもの源田とは全く違う笑い方だった。

「でもみんなはいなくならないから、俺たちがいなくなろう。誰にも邪魔されない二人だけの世界に行こう」

 どっかの国のお伽話にそんな台詞があった気がする。俺の頭は既にはたらかなくなっていて。どうすれば源田が笑ってくれるか、幸せになるかだけを考えていた。

「一緒に死のうか、不動」

 だから俺はコクリと頷いてしまったんだ。




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