※真・帝国


 俺はずっと、鬼道に憧れてきた。中学生にしては達観した姿勢、冷静な判断力、天才的なゲームメイク、どれもこれも俺が持ってないものばかり。最初は"鬼道さん"なんて尊敬の念を込めて呼んでいたけれど、同い年だからタメ口にしてくれと言われて呼び捨てるようになったし、敬語もやめた。だけど俺は今だって鬼道に憧れている。鬼道はいつも、チームの先を行く。俺はどうしても隣に並びたくて必死で練習して、漸く参謀と言われるまでにはなった。それでもまだ、見えるのは鬼道の背中。俺なんかじゃ隣には一生並べないのかもしれない。

 そして世宇子戦で、俺は自分の無力さを身を持って知ることになった。鬼道は足を軽く負傷していたから大事をとってベンチスタート。ずっと憧れてきた鬼道にやっと自分の力を見てもらうことができる、そう思った。

「見ていてくれ鬼道、必ず勝ってみせるからな!」
「ああ、頼んだぞ佐久間」

 "頼んだぞ"、その一言がただ嬉しかった。しかし結果、俺達は惨敗した。頭がぐわんぐわんして、全身の感覚がない、何も聞こえず視界が霞む。ふと、ベンチの鬼道が目に入った。立ち尽くしたまま動かないで呆然とピッチを眺めている。すまない鬼道、やはり俺にはできなかった。お前が試合にいないと俺達は、まともにサッカーをすることさえできないんだ。

 次に目が覚めたときは病院のベッドの上にいた。情けない、悔しい、鬼道に合わせる顔がない。鬼道はどんな思いをしているんだろうか、そう考えていたある日、鬼道が見舞いに来てくれた。何かを決意したような表情をしていて嫌な予感がした。

「俺は、雷門に行こうと思う」

 脳が理解を拒んだ、今、何と言った?

「お前達の敵(かたき)は絶対にとる」

 敵?そんなのどうでもいい、帝国として一からやり直せばいいじゃないか、そう言いたかったけど鬼道にはもう、俺達は見えていなかった。俺達が弱いから、鬼道は俺達を捨てるんだ。鬼道に俺達は必要のないものになったんだ。

「ここで、見ていてくれ」

 結局俺は鬼道の背中を見送ることしかできなかった。

「……弱いな、俺達は」

 源田がそう呟いた、そうか、源田もきっと俺と同じことを考えていたんだ。俺は、ただ強くなりたいと願った。

 そうして俺と源田は真・帝国になった。強くなるためなら影山の力でも何だって利用する、鬼道の隣に立つためなら練習の痛みにだって耐えられる。体が悲鳴を上げる度、鬼道に一歩一歩近付いている気がして、俺達は今日も禁断の技を繰り返す。

 ねえ、鬼道さん。あと何回叫んだら、あなたの隣を歩けますか?




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