夢に魘されて目が覚めるなんて、自分でも情けないと思う。イナズマジャパンに入ってからも影山は俺の頭に居座り続け、こうして夢に現れたりする。気紛れに拾われて、偽物の力を与えられ、二流と言われて捨てられた。それは俺のプライドを傷付けるには十分だった。サッカーを俺に教えたのは影山だ、今でも練習中に影山から教えられたコツやテクニックを実践しようとする自分に腹が立つ。あの男はサッカーを憎みながらサッカーを知り尽くし、俺たち選手に的確な指示を与える。その所為で俺はあいつから離れたとしても完全に忘れることなんてできないんだ。俺のサッカーの全ては、あいつに教え込まれたものだから。不快な汗が背中を伝った、眠れそうにもなく俺は水を飲むために静かに部屋を出た。時刻は午前二時、外の雨が煩かった。

 冷水機の水が喉を通っていくのを感じる。落ち着きはしたがすっかり目が冴えてしまっていた、とりあえず食堂の椅子にでも座り眠気が来るまで時間をつぶすことにして、既に電気が点いていることに驚いた。こんな時間に誰か起きてるなんて……監督だったら面倒だ、と思いながらこっそりと中を覗く。そこにいたのは鬼道くんだった。ただ一点を見つめたままぴくりとも動かない、故意的にそこを見ているんじゃなくて考え事をしているだけだろうけど。ゴーグルもマントもなく、ドレッドヘアーを下ろしている鬼道くんは鬼道くんじゃないみたいで、何だかおかしくて笑えた。

「よお、鬼道くん」

 声を掛けると鬼道くんは肩を跳ねさせ、俺を視界に収めると安心したように息を吐いた。

「……不動か」
「何だ、俺じゃ不満だったか?」
「いや、むしろお前で良かった」

 それはどういう意味だと思いながら鬼道くんの傍によると、テーブルに置かれた手が微かに震えていることに気付く。

「なあ、当ててやろうか?」
「何をだ」
「影山の夢を見たんだろ」

 "影山"、その名を口にすると一瞬だけ鬼道くんが息を詰まらせた。

「…は、何言って」
「俺も同じだから分かんだよ」
「………そうか、」

 未だ震える鬼道くんの手にそっと触れれば、痛いくらいに掴まれた。それはまるで縋るようで、せめて震えが止まるまで痛いのくらいは我慢しよう。

「怖い、んだ」
「俺も同じだって」
「怖いなんて、誰にも言えないだろ」
「あー、チームに頼りにされてる鬼道くんなら尚更なあ」
「プライドの高いお前だってそうだろ」
「はっ、鬼道くんにプライド高いなんて言われたかねぇよ」

 憎まれ口を叩きながら手を握ってる俺達はひどく滑稽だ、こうやって怯えることしかできないただの無力なガキ。

「似ているのかもな」
「あ?」
「俺とお前は」

 気持ちわりいけど、そうなのかもされない。似ているからこうやって惨めな本音を曝け出すことができる、でもやっぱりゴーグルにマントの変人に似てるなんて胸クソ悪いな。

「…まあ、似てるんじゃねぇの」

 時刻は午前二時半、雨はまだ止まない。




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