小説 | ナノ


  高らかに鳴るは帰還の鐘



※人類の勝利後

「名前さん、」


『うん』


リョウの言葉に短くそう返した名前は、金の装飾が施された黒衣を身に纏っていた。
その上からさらに大きめのフードのついている、足首まである長いケープを羽織り、ごそごそと内ポケットを漁った。
かちゃ、と小さな音とともに取り出されたイノセンスには傷一つないが。


『…?』


輝きが、強く…?


久しく見たせいだろうと自己完結した彼女は、それを懐に戻して、私物の何もなくなった部屋を一瞥し、ぱたん、と静かに扉を閉めた。


「…行くのか」


『、エルヴィン団長』


「私はもう団長ではないよ」


人類が巨人に勝利したあの日から、エルヴィンは普通のエルヴィンに、リヴァイは普通のリヴァイに、ハンジも、普通のハンジに。
人類の存亡をかけて戦った彼らの散った命もすべて、報われたのだろう。
、だから今度は、今度は。


「分かってる。ただ、一つだけ願いを聞いてくれないか」


『、願い?』


「…リヴァイを、連れて行ってほしい」


エルヴィンの言葉に目を見開く名前。
リョウは向こうの世界とを繋ぐ装置を準備しているため、ここには二人しかいない。
名前は悲しそうに目を伏せ、小さく首を振った。


『リヴァイはもう十分戦った。私はこれ以上、彼に』


「バカ言え」


『、リヴァ』


イ、 と彼女が声を発する直前、懐から強い光が差す。
まさかと思いながらそれに手をかけた彼女は、恐る恐るそれを取り出した。


『イノセンスが…』


その輝きは、まぎれもなく適合者が傍にいるということを示していて。
リヴァイが近づけば近づくほど、その輝きは強まり、彼がそうであることを明確にした。


「…決まりだな」


不足してんだろ、戦闘要員


そう意地悪く笑ったリヴァイは、茫然としている名前の手を取って、着々と準備を進めているリョウのもとへ。
全て準備万端、と言わんばかりで、あとは彼女がイノセンスを発動すれば転送が開始する。


「…エレンたちに会っていかなくていいのか?」


『帰り辛くなってしまいますから』


彼らによろしく伝えてください、そう笑みを浮かべた名前は装置に向き合い、キィ、とイノセンスを発動させた。
彼女の腰を抱いたままのリヴァイはそっとエルヴィンを振り向き、口を動かした。


「…”あとはたのんだ”、か」


実際、頼まれるものなど何もないけれど。


「…人類最強の男がいたということぐらいは」


後世の人間に、語り継いでいこうか


温かい何かに包み込まれるような感覚から覚め、名前は静かに目を開ける。
リヴァイとリョウも同じように目を開けたところで、ここはどこだとあたりを見回した。


「…どこっすかね、ここ」


『ちょっと出てみようか』


彼らがいるのは人目につかない路地裏。
向こうに転送されるだけでまったく場所の検討はつけられなかったのだが、運よく他人に見られるということは避けられたらしい。
本当に別世界なのかと未だ実感のわかないリヴァイは、進む二人にとりあえずついていくだけで。
明るい陽射しに目を細めた彼の視界には、活気づいている市場が色鮮やかに映った。


「うぅん、中国っスかね、言葉的に」


『そうだろうね』


「チューゴク?」


「あー…、東洋の国の一つっスよ」


地図があればなあ、とぼやくリョウだったが、ちょうどよくそんなものが置いているはずもなく。
とりあえず教団に向かおうかと落ち着いた3人は


『走ってー』


「いいいいいいんスか!?こんなどふぁっ!」


「…鉄が走ってる…」


どういうわけか走っている列車を上から追いかけていた。
彼らが走っている橋のちょうど真下を通った瞬間に、その列車に上手く飛び移る。
普段から体を動かしていたリヴァイと名前は平然としているが、リョウだけは疲れたようにぜえはあと息を切らしていた。
もっとも、まだ中に入っていないので安心できる状況ではないが。


「いてて…いつもこんな無茶してるんスかー?」


『いや、トマと一緒になった時だけ』


そう言いながら、勝手に屋根についている小さな扉を開ける名前。
まずはリョウがリヴァイによってそこに突き落とされ、今度はリヴァイが。
最後に降りた彼女を抱きかかえるように支え、ゆっくり床に降ろした。
何なのその差!とぶーぶー文句を言っているリョウを尻目に、駆け付けた車掌が口を開く。


「困りますお客様!勝手に乗られては…」


『すみません。教団のものです』


そう言ってケープを捲り、胸元のローズクロスを見せれば車掌は表情を変え、どうぞこちらへ、と彼らを案内してくれた。
変わり身の早さにぽかん、としたリヴァイの肩をたたき、リョウも名前と車掌の後をついていく。


「なんなんだ…」


「名前さんの団服にあるローズクロスのおかげっスよ」


あれのおかげで、エクソシストはたいていのところに入れるんス、と得意げな顔をしたリョウ。
そのまま3人は一等室に通され、そこでご飯を食べることにした。
中国語の読めない2人のために名前が簡単な説明をしたがよくわからず…とりあえず腹は減ってるからと適当に注文し、並べられていく料理にリヴァイの顔色が悪くなる。


『どうしたんですか、具合でも…』


「…お前ら…高級食材ばっかりじゃねぇか…!!」


「こっちじゃ割と普通っすよー?」


ね、と言って早速箸を持ったリョウは、目の前の料理を口に運び始めた。
平然と食べる彼に信じられない、と言わんばかりの表情を浮かべたリヴァイに名前は小さく笑いながら、彼にも食べるように促す。


「ところで、何処に向かってるんっスか?」


『アジア支部に。そこなら教団に連絡もできるし、アレンの箱舟ですぐに本部に帰れる』


「なるほど、列車を使うよりずっといいっスね」


もぐもぐと食べ進めていた名前はいつもと変わらぬ量しかたべながったが、リョウもリヴァイもさすが男と言わんばかりの食いっぷりですべての料理を完食してくれた。
もう少しだからそろそろ降りる準備でもしようか、となったその瞬間。


ドンガシャーンッ!!


凄まじい音とともに車両が揺れる。
リョウは呆気なく窓に顔面を強打していたが、名前はイノセンスを発動させるとすぐさま部屋を飛び出し、リヴァイもそれに続く。


「何だ」


『…AKUMAです』


カンッ、と足を止めた2人の先には、鎧を纏った大男のようなものが1体。
後ろからバタバタと駆けてきたリョウが、焦ったように声を上げる。


「名前さん!囲まれてるっス!って、ゲッ!!Lv.3!?」


『雑魚が…何体もうじゃうじゃと…』


「す、少なくともLv.3は雑魚じゃないっスよ…」


『リョウ、リヴァイさん、乗客の避難を。AKUMAの砲弾にはできるだけ触れさせないでください』


「了解っス!」


「あぁ」


言葉を交わした彼らは各々で動き出す。
名前は目の前にいるLv.3に向かっていき、2人は車掌と協力して人命救助。
その合間でちらりと見やった名前は、Lv.3のすさまじい攻撃を簡単にいなし、既に相手を追い詰め破壊するところだった。
ドォンッ、という音とともに、今度はLv.1を始末しにかかる。
数自体はそれなりにいたが、一体一体は弱く、あっという間に名前にすべて破壊しつくされた。


「…すげぇな」


「やっぱりすごいっスよねぇ〜、惚れちゃうっス!」


くねくね、と気色の悪い動きをするリョウに呆れた視線を向けていたリヴァイは、近づいてきた一人の子供に気付く。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


「、あぁ」


「ついでに、」


死ンデくれナい?


「っ!!」


がちゃっ、と少女の顔が一瞬で変形して現れるピストルのようなもの。
その銃口が火を噴く前に、少女はその場に崩れ落ち、しばらく後に爆発した。


『油断は大敵です、リヴァイさん』


「…子供が」


『AKUMAは基本人の皮を被って人間の中に紛れ込んでいます。たとえ子供がAKUMAになったとしても、』


それは何ら不思議なことではない


そう言い放った名前に、リヴァイは固唾を飲み込んだ。
列車の破壊された部分より後を残し進んだおかげで、何とかアジア支部に到着した3人。
リョウが本部に連絡してくる間、名前とリヴァイは支部長であるバクに会っていた。


「名前元帥…!」


『お久しぶりで、バク支部長』


「ご無事で何よ、っげふあぁ」


「名前!無事だったか!」


『フォー…バクの心配をしてあげて…』


名前に駆け寄ってきたバクは彼女に触れる前に横から飛び出してきたフォーに吹っ飛ばされる。
その華奢な体からは想像でいない力に苦笑を浮かべつつ、久しぶりに会った彼女の抱擁を受けた。


「アレンたちが酷く心配してたぜ?」


『あー…やっぱり』


「ま、名前なら何があっても帰ってくると思ってたけどな!」


にしっ、と笑ったフォーは、傍にいるリヴァイに視線を向け、奴は、と短く問うた。


『詳しいことは後で話すけど…おそらく適合者だ』


「そうか…お前もこの戦争に駆り出されるのか」


ぼそ、と小さく呟かれた彼女の言葉は届かなかったのだろう。
リヴァイは首を傾げるが、「名前に手を出すなよ」というフォーの言葉に顔をしかめる。
その後、漸く復活したバクと連絡を終えたリョウが揃い、早速だが本部へ移動を開始することに。
アジア支部にはまた挨拶に来ると一言残し、目の前の白く発光する箱舟に足を踏み入れた。
広がる入り組んだ人気のない綺麗な街並みを抜け、一つの扉の前で足を止めた名前。


「箱舟の中ってこうなってるんスね…っと、そこが本部のゲートっス」


リョウの言葉に小さく笑った名前は、無機質なドアノブに手をかけた。


「「「お帰りなさい!!名前!!」」」


パァンッ、という小さな破裂音をとともに降りかかる紙吹雪。
目元を真っ赤にしながらも笑顔を浮かべている多くの面々が、箱舟の前に集まっていた。
エクソシストから科学班、捜索部隊や医療班、そして室長であるコムイが、嬉しそうに笑った。


「お帰り、名前」


『、ふっ…』


じわ、と握んでくる涙を抑えきれず、彼女の頬を綺麗な涙が伝う。
ぽんぽん、と背中を優しく叩かれ、名前は嗚咽を抑えて、何とか。


『ただ、いまっ!』


わぁぁ、といろんな人から揉みくちゃにされ、彼女の帰還を祝福される。
止まらない涙をいろんな人に拭われながらも、彼女は嬉しそうに、幸せそうな笑みを浮かべた。


あぁ、帰って来たんだ
私達の、ホームに



(名前がいなくなってから大変だったんだぞー?)
(、?)
(アレンも神田も、みーんな可笑しくなっちゃってな!)
(((なっ///リーバー(さん)!!))
(まぁ、何はともあれ帰ってきてよかった)
(…ありがとう、リーバーさん、皆)
(((あぁー…可愛い、癒される…)))
(…で、君がリヴァイ君、かな)
(あ?)
(室長…この人は君って年じゃないっスよ)
(え?)
(リヴァイさん!)
(、名前)
(今日からここが、リヴァイさんのホームです)
(…そうだな)
(なんなんですかあれ、なんで名前なんかちっちゃい男と一緒になんかいい感じの雰囲気醸し出してるんですかリョウさん説明お願いしますよねえ)
(私の名前があんなガラの悪いいけ好かない男となんで一緒にいるのねえリョウさん教えて?)
(おい…分かってんだろうな…?)
(うぉぉぉおおおおおおお落ち着けお前らああああ!!!)
(リョウさん、ファイトさぁ)


prev next

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -