小説 | ナノ


  小さな違和感と残った蟠り



じー…


「……」


じぃーーーーー…


「……///」


じぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…


「?何赤くなってんだ、ベルトルト」


「あ、いや…その…」


何もないのに赤くなったりと不審な行動を繰り返していたベルトルトに首を傾げたライナーは、彼がちらちらと視線を送る先に自分も視線を向けた。
そこには、


「、副兵長じゃねぇか」


「なんか…さっきからじっと見られてるような気がして…」


気のせいかな、と苦笑を浮かべるベルトルトに、一歩引いたライナーが彼らを観察する。
暫くそれが続き、ふむ、と腕を組んだ。


「確かにじっと見られてるな」


「うぅ…///」


美しい色をしたくりっとした双眸がこちらをじっと見ている。
しかし、見れば見るほど美しい顔をしている、とベルトルトは感じた。
雪のように白い肌には傷一つ見られないし、唇は品のある桜色で、ツンととがった小さい鼻に、整った眉、何もかもが綺麗にバランス良く配置されている。


「(人形、みたいだ)」


昔流行ったようなビスクドールじゃなくて、今どきの美しいそれ。
自分が見詰めるのはいいが、逆にこちらをじっと見られるのは落ち着かない。
ごくり、と生唾を飲み込んだベルトルトに向けられた視線は、名前のものだけではなかった。


「ベルトルトぉ…!!」


「…エレン、協力する」


「おっ、落ち着いてよ2人とも!」


一目ぼれに近い形で名前に好意を抱いたエレンとミカサが、彼女の視線を一身に受けるベルトルトに対して(理不尽な)殺意を抱いていた。
それを何とかして止めようとしているアルミンだが、2人は彼よりもはるかに体術に優れているため、本当にそうなったら止めるなんてことはできないだろう。
彼女の前でいざこざを起こすまいと何とか自制はしているが、このままでは本当に暴れだしそうだ。
なんとかしなきゃ、と焦ったアルミンの視線に入ったのは、ベルトルトの傍にいるライナー。
彼なら、と思ったアルミンは何とかライナーに2人の事を伝え、彼らを抑えるのに協力してもらうことに成功する。
…ベルトルトはいまだ名前の視線にとらわれたままであったが。


「おいおい、落ち着けって二人とも!」


「うるせえライナー!畜生羨ましいなベルトルトぉ!」


「……」


「ミカサ無言で凄むな!ベルトルトが泣きそうだ!!」


「ご、ごめんライナー、僕だけじゃ止められなくて…」


「あぁ気にすんな!にしても、副兵長は何でベルトルトを…」


「さあ…でも、何か気になることがあるんじゃないかな」


エレンとミカサを押さえつけているライナーの視線と、アルミンの視線が名前に向けられる。
何かを観察するようにじっと向けられた視線は全く変わらず、ベルトルトに突き刺さったままで。
突き刺されてるベルトルトも居心地悪そうにしながらも頬を染めている。
一体いつまで続くんだ、と彼らが傍観していたのち、名前が座っていた椅子から立ち上がり、ベルトルトへと近づいた。


「(うああっ、こっちに来た!)」


彼女が自分に向かって歩いてきているということが分かっている以上逃げることもできず、ベルトルトはオロオロとするばかり。
その最中も名前の視線は彼に突き刺さったまま。
こつん、とはっきりとした音を立てて彼女の足音が止まったのは、ベルトルトの目の前だった。
彼は104期生の中でも背が高く、彼女はリヴァイと同じか、其れよりも若干小さいぐらいの身長で、名前がベルトルトを見るとなると自然と上目遣いになる。


「なっ、何でしょうか?(かっ、可愛い…)」


『…ベルトルト君、だっけ』


君、背大きいね


「………へ、?」


『ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、今いいかな?』


「あ、はい…」


『ありがと。じゃあついてきてくれる?』


「はいっ」


ん、いい返事、と小さく笑った名前に顔を赤くしながらも、くるりと背を向けて歩き出した名前に素直についていくベルトルト。
彼らのいる部屋から姿を消した二人に向けられていた視線は結局何の意味も果たさず、エレンとミカサは気落ちしていた。


「うぅ…手伝いなら俺が…!」


「……」


「エレン、お前相当副兵長に惚れ込んだな…」


「……だって、超可愛いじゃねぇか…全然年上に見えねえし、性格もいいし…」


「…名前さんは渡さない」


「……まさかのミカサもか…(ジャンが泣くんじゃねぇの?)」


ちら、とそこらにいるであろうジャンに視線を向ければ、彼は悔しそうな表情を浮かべて


「副兵長とミカサ…あぁくっそ…!俺はどっちを好きになれば…!」


…なかった。


ところ変わって名前はベルトルトを連れて、そう遠くない書庫に彼を連れてきていた。
本はきっちりと本棚に整理されているが、いかんせん、その本棚は高く、名前には到底届かない一番上の段にまできっちり入れられていた。


「あの、何を手伝えば」


『そこのEの棚からHの一番上の資料が必要なんだけど、届かなくて』


梯子はこんなんだし、と名前の視線が向けられたそれは細く、いくら名前が軽いからと言って足を掛けるのは少々気が引けるほど弱々しい。
…年季が入っている、というよりは明らかな設計ミスで今まで使われなかったものだろう。
僅かな間ならまだしも、取り出す資料は多い為に時間がかかりそうだ。
なるほどそれで、と納得したベルトルトは快く引き受け次々に資料を運び出す。
名前も頼りない梯子に足を掛け、作業を進めていたのだが、


べきっ、


『あ、』


「副兵長っ…!」


頼りない木が遂に折れ、がくんっ、と名前の体が宙に浮く。
両手に資料を抱えていたため、本棚をつかむこともできないというのに彼女の声には全く緊張感がなく。
逆に焦ったのはベルトルトのほうで、手にしていた資料を放り投げて名前を支えようと腕を伸ばした。


ぽすっ、


『力持ちだね、ベルトルト君』


「…副兵長が軽すぎなんですよ」


お姫様抱っこで何とかキャッチした名前は、その見た目通りに軽くて、逆にちゃんと食べてるのかとか、巨人と戦えるのかとか心配になってくる。
名前を床に降ろしたベルトルトは今一度彼女にけがをしなかったか問い詰め、放り投げた資料を机の上に乗せると、再び本を取り出す作業に戻った(名前にじっとしているように言って)。
暫くすれば本はすべて机の上に揃えられ、その量はなかなかのものに。


『ありがとう、助かったよ』


「いえ!お役に立てたなら」


『道は大丈夫だよね?』


「はい、ちゃんと覚えてます」


名前に再び礼を言われ照れ臭そうに笑ったベルトルトは、頬を染めたまま書庫を退室する。
そんな彼に小さく手を振って見送った名前は、静かに閉じられた扉を見ながら、その手を下した。
その彼女の眸は、先ほどまで彼に向けていたものよりもずっと鋭いもので。


『…気のせいか?』


僅かに胸に残ったわだかまりを気にしながら、積み上げられた本を見つめた。


「…柔らかかった」


こつこつ、と足早に動かしていたそれを緩め、窓の外の風景に目を向ける。
手のひらや腕には、まだ彼女を支えた時に触れた熱と感触が残っていて。
忘れたくないな、と、ベルトルトはその手をぎゅっと握りしめた。



((ガチャ))
(、資料、もう出したのか)
(うん、訓練兵に手伝ってもらった)
(…梯子)
(あ、ごめん、私が乗ったら壊れちゃって…)
(怪我は?)
(訓練兵の子が支えてくれたから大丈夫だったよ)
(支えた…?)
(横抱き、っていえばいいのかな)
((……その訓練兵、あとでシバく…))


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