小説 | ナノ


  懐かしさへ思いを馳せて



忙しい団長、兵長、副兵長それぞれの仕事が終わり一息ついていたある日。
リヴァイと名前はエルヴィンに茶に誘われており、彼が内地で貰ったというそれを求めて、彼の執務室に向かった。
中に入ればすでに準備は整えられており、淹れられたであろう紅茶の香りが部屋全体を満たしていて。
その香りが懐かしいベルガモットの香りであることに、名前はわずかに目を細めた。


『え、教団、ですか?』


「そう。どんなとこだろうと思ってね」


君の思い出話でも全然構わないよ、と小さく笑みを浮かべるエルヴィン。
リヴァイも彼を止めないことから、聞こうという意思はあるらしい。
そうですね…と考えた名前は口を開く。


『とりあえず簡単に教団の構成を説明しますね』


そう言って、茶菓子などが乗っていたテーブルを影で持ち上げ、脇によける。
本当に便利だな…というリヴァイの言葉に小さく笑った名前は、しゅるしゅる、と影を文字や図のように変形させ、教団の構成図を綴っていく。
大元帥をトップに、そこから室長、元帥と続き枝分かれしていく構成図は、彼らが想像していたよりも長く、大きかった。


『ここは本部だから他の支部よりは少し大きいです』


「支部?」


『世界中に現時点で6つあります』


「世界…」


自分達が未だ目にしたことのない"世界"。
きっと彼女の言うそれとは町並みは違うだろうけれど、あるものはきっと変わらない。
外の世界を記した本と記述がそう変わらないといった名前の言葉から、それは分かっていたのだから。
エルヴィンの小さな言葉をあえて聞かないふりをした名前は、元帥のところをイノセンスで作り出した長い棒でカツカツと叩きながら、私はここに位置します、と説明した。


「随分上のほうの役職なんだな」


『でも、はっきり言って元帥に統率力などは求められません。実際にエクソシストや捜索部隊に指示を出すのは室長ですから』


ここでいうエルヴィン団長のようなものですね、と説明すれば想像しやすかったらしく、なるほど、2人は頷いた。


「名前は普段如何していたんだ?」


『エクソシストや捜索部隊などは任務が終われば本部に戻りますが、私達は基本本部には戻らず世界を巡り、新たな適合者を探します』


「適合者、」


『エクソシストの事です。その数はあまりに少ない為…一人でも多くの戦闘要員が必要なんです』


「訓練してどうにかならないのか」


『いえ…エクソシストになるには、イノセンスに選ばれなくてはならないから』


そういった名前は、自分の影に視線を落とした。
思い出す、自分がイノセンスに選ばれたあの日を。


『イノセンスにもいろいろあります。サポートタイプのイノセンスもありますが、現時点では攻撃のできるものが多いです』


「例えばどんな?」


『タイプは大きく分けて3つあります。寄生型と装備型、新しい型として結晶型が。寄生型はその名の通り、エクソシストの体にイノセンスが寄生するタイプで、このタイプのエクソシストは大食いです。装備型は、イノセンスを武器に加工したものを使用し、結晶型は彼らの血液から武器を生成します』


「血液…」


「…グロいな」


『まあ…あはは』


向こうとたいして変わらない反応に苦笑を浮かべた名前に、どんな奴らがいるんだ、と質問が飛ぶ。


『年齢層は様々ですし、数が多いので一部しか把握してませんが…。そうですね…一言でいえばキャラは濃いです』


「…そんなにか?」


『そんなにです』


頷いた彼女は、仲間たちの特徴を上げていく。
白髪で大食い、師匠が借金というかツケまみれのイカサマ師アレン。
毎食蕎麦ばかり啜っている、黒髪長髪でアレンに馬鹿呼ばわりされている神田。
綺麗な女を見たら簡単に惚れ込んでしまうストライクゾーンが広大なラビ。
普段は優しいがキレると恐ろしい美少女リナリー。
シスコン過ぎてリナリーに好意を抱いている男性に銃を乱射する室長室の汚いコムイ。
コムイを罵る部下で、お兄さん気質なリーバー。
疲労のあまり点滴を刺しながら仕事に勤しむ今にも死にそうな科学班。
オカマの料理長ジェリー。
酒と女があれば生きていけるような放浪癖のあるクロス。
芸術をこよなく愛すティエドール。
元死刑囚であり、名前の師匠であるソカロ。
他にも多くの人間が上げられ、そのキャラの濃さに2人は微妙な表情を浮かべた。


「なんというか…うん」


「すげぇな、ある意味」


『でも…楽しかったですよ』


あぁそう言えば、と笑った名前は、床に綴っていた構成図を消し、ベレー帽を被った長い足をした不思議なものを描く。
どうやらマシンのようだが、一体何なのだろう。


『”コムリンU”です』


「コムリンU?」


『室長がもともとエクソシストの治療用に開発したロボなんですけど…何故かコーヒーを飲んでバグってしまって…所謂"黒の教団壊滅事件"ってやつです』


「バグって壊滅事件って…笑えねえ…」


『最初はリナリーをマッチョにするって言い出して…』


「「マッチョ!?」」


はあ!?と言わんばかりの表情を浮かべた2人の反応はごく自然なものだ。
科学班だってそれを聞いた瞬間同じような反応を見せたのだから…。


『で、リナリーにどうしても手を出させたくなかった室長は、その場に居合わせたアレンに標的を変えたんです。壊れてもいないイノセンスを壊れたことにして、その修理をするようにと…』


「んなややこしいことしないで、破壊すりゃよかったじゃねぇか」


「破壊が難しかったとか」


リヴァイの言葉に冷静に分析したエルヴィンの言葉。
そんな2人の言葉にそれはそうだったんですが、と苦笑を浮かべた名前は、その細い指を組み合わせた。


『アレンは教団に入ったばっかりで、多分遠慮してたんでしょう。科学班も壊そうとはしたんですが、室長にことごとく邪魔されて…』


「…どんだけだ、その室長」


『優秀なんですけどね?』


まあ行動が残念というかなんというか。


『結局アレンはつかまって、手術室に連行される前に破壊しようとしたら…』


「「したら?」」


『室長に毒矢で麻酔されて』


「「……」」


『ギリギリのところで私とリナリーが破壊したんです』


おかげで包帯ぐるぐる巻きなだけで済みました、と笑う名前。
…それで笑える彼女は相当逞しい。
ぎゅう、と隣から名前を引き寄せるように抱きしめてきたリヴァイに、体がずれた名前はぱちぱちと瞬きしながら彼を見上げる。


『リヴァイさん?』


「…ここはそんなことはないから安心しろ」


『!、そうですね』


ここはゆっきりできそうです、と笑った名前に、エルヴィンも小さく笑みを浮かべたのだった。

〜後日〜

「名前ー!イノセンス研究させてー!!」


『なっ、昨日もやったじゃないですかっ!』


「そうっスよハンジさん!これ以上名前さんの柔肌に傷は「邪魔だよリョウ!」ぶべらっ」


ばたばたと調査兵団兵舎走り回るハンジと追い掛け回される名前、名前を助けようとしたが呆気なく蹴り倒されたリョウの姿が見られたそうだ。



((バタンッ))
(っ、名前?)
(リヴァイさん匿って!)
(あ、あぁ…)
((バタンッ))
(名前ー!)
((ぶんぶんぶんっ))
(…ここにはいねぇぞ)
(あーもう!足速いんだからー!)バタバタ…
(…大丈夫か)
(うぅ、リヴァイさん…)
((泣きそうだ…可愛いな))


prev next

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -