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  猫科×猫写真集!



ラミアに呼び出された名前は、彼女に企画書を手渡される。
そこには既に承認済の判子が押されており、実行することが決定された企画らしい。
せめて実行する本人である自分にも一応話を通してほしいとは溜息をつきたくなったが、まあ仕方ない。
今の自分の雇主は彼女なのだ。
はあ、と小さくため息をついて、名前は一通り目を通した企画に頷いたのが数日前の事。


「おー、宜しくな」


『よろ、しく…です』


ひらひらと手を振りながら現れたのは、ワイルドタイガーこと虎徹。
ヒーロー時の様にスーツではなく、普段の服装にアイパッチをつけるだけどいう普段と変わらない格好で現れた彼と同様に、名前もYシャツに黒のショートパンツといったラフな出で立ちでその場にいた。
二人で用意された椅子に座り、バタバタと動き回るスタッフをぼんやりと見やっていると、なあ、と虎徹が声をかけてきた。


「今回、何の企画なんだ?」


『、え?』


知らされていないのだろうか、いやでも、ちゃんと企画書はまわされているはず…
そんな疑問が表情に出ていたのか、虎徹は苦笑を浮かべながら頬を掻いた。


「いやあな?俺の上司がさ、どうせ言っても何の意味もないだろうからとりあえず現場には遅れずに向かえとしか言ってくれなくてさあ…バニーちゃんも聞いても顔をしかめるだけでどんな企画課全然教えてくれなくて…」

〜数日前〜

「いいですか?今人気急上昇中のブラックキャットとのお仕事、しかも向こうからのご指名です」


「まじで!?いやあ、俺も捨てたm「本当ならバーナビーと一緒に仕事をしてもらいたかったのですが…向こうからのご指名では仕方ない」ちょ、最後まで言わせてくれよ!!」


「何はともあれ、この機会を野がず訳にはいきません」


「お、おぉ…」


「いいですか、仕事の内容は言ってもどうせ忘れるし企画書も失くすでしょうから説明はしませんのでくれぐれも、くれぐれも遅れることなく現場に向かってください!いいですね!?」


「わーったよ!!」


ロイドの部屋を追われるように退出した虎徹はデスクに戻り、机の上に積まれている書類に手を伸ばす、が。


「…なんだよ、バニーちゃん」


「バーナビーです!…ったく、どうしておじさんにブラックキャットとの仕事が…」


「え、なにバニーちゃん知ってんの?」


「当然です!!というか、僕だってブラックキャットさんと仕事がしたいのに!!」


「おぉ…バニーちゃん、いつにも増して気迫が…というか、どんな仕事か知ってんなら教えてくんね?俺教えてもらえなくてさー」


「フン、ロイドさんが必要ないと思ったのなら必要ないんでしょう。僕もあえて教えはしません」


「ちょ、なんでそんなに機嫌悪いのさバニーちゃん!!」

〜回想終了〜

「…という訳だ」


『大変、ね』


「まー大分慣れたけどなあ」


にへ、と笑う虎徹に、名前も小さく苦笑を浮かべる。
そんな彼女に目を丸くした虎徹はすぐににっ、と笑い、彼女の小さな頭をわしわしと撫でた。


「ちゃんと表情、あるじゃねーの」


『、』


「いつものいいけど、そっちのほうが可愛いぜ?」


いつもの、というのはカメラに向ける笑顔の事だろうか。
虎徹の言葉にぱちぱち、と瞬きをしていた名前は、『あり、がとう』とぎこちなく返事をした。
ほのぼのとした雰囲気を醸し出している2人に周りのスタッフも和んでいたが、カツカツとヒールを鳴らして入ってきたラミアに2人の視線が向く。


「ハァイお二人さん、気分はいかが?早速だけど、これに着替えてくれる?」


相手の返事も聞かぬままラミアが二人に突き出したのは紙袋。
きっとこの中に今日着る衣装が入ってるのだろう。
結局虎徹に今日の企画の内容を説明することができぬまま、ヒーロー二人は急かされるように更衣室に入った。


〜数分後〜


『にゃー』


「まあ、名前は普段から猫耳尻尾はつけてるから問題ないわね」


『タイガー、大丈夫、?』


「お、おー…」


「いいわ!似合ってるわよタイガー!がおーって言って!」


「が、がおー!」


若干やけくそだったがラミアは満足したようで。
早速撮影に入るわよ!と言われた2人は、煌々とライトが眩しいスタジオに足を踏み入れた。
そう、今回の企画はラミアが前々から企画していたもの、名付けて


「猫×猫科写真集!!」


「…趣味丸出しですね、社長…」


「いいじゃない!今回はこんな体位も…」


「って、これ交尾じゃないじゃないですか!!」


「え?不味い?」


「タイガー下にしてその上にキャット乗せたらどうだ?」


「あ、それいい」


「(だめだこの人たち…)」


そんな名前とスタッフたちの傍らで進む撮影。
足を組んでソファに座り込んだ虎徹の膝の上に名前が乗った構図や、2人で顔を寄せ合ってカメラ目線、もしくは額と鼻先をくっつけた近距離の顔をドアップで撮ったり。
名前も虎徹もカメラに慣れておらず、恥ずかしさを少しでも紛らわそうと小さく会話をしながらでの撮影が許可されたため、何気ない話を繰り広げていた。


「名前、綺麗な顔してるなー。ほんとの猫みてー」


『ラミアさんにも、初めて会ったとき、言われ、た』


「あ、そうなの?」


『うん、スーツ見に行ったら、もう、今のができてて』


「あー、イメージで即決しそうだもんなああの人」


会話を繰り広げながらの撮影が功を奏したのか、2人の表情は自然で、ところによっては本当に動物がじゃれあっているようにも見える。
はぁ、と鼻血をティッシュで押さえながら撮影を傍観しているラミアは、次から次へと2人に構図を指示する。


「次、名前、タイガーの上に乗って!」


『ぇ、でも…』


ちら、と心配そうな視線を虎徹に向けるも、虎徹も苦笑で返して。
早くと急かすラミアに負け、名前はうつ伏せになった虎徹の背中に自分もうつ伏せになった。


「(あー…胸やわっけえ…)」


『重く、無い?』


「へーきへーき!寧ろ軽すぎ、ちゃんと食ってっか?」


『うん…』


「心配だなぁ…今度チャーハン作ってやるよ!」


『チャーハン…!』


「おう!美味いんだぜ?」


楽しみにしてろよー、と笑う虎徹に、うずうずとした表情を浮かべる名前。
会話をしているせいか、2人の顔がとても近いが、どうやら張本人たちは気にしていないというか気づいていない様子。
パシャパシャと瞬くカメラも最早気にならない。
その後も指や腕、足を絡めた構図や、一人掛けソファに2人で座る窮屈なもの、首輪や手錠などと小物を使った撮影など、数時間ぶっ通しでの撮影が終わった。


「お疲れ様―、って、あら?」


ほくほくとした表情を浮かべながら機材を片付けるスタッフたちの代わりに、ラミアが最後の撮影に使用したベッドの上で真っ白な毛布に包まったまま動かない2人に近づきながら声をかけるが。


「すぅ…」


『…すー』


「…ふふ、幸せそうな顔しちゃって」


見事に寝落ちてしまった2人もカメラマンを呼び戻してしっかり撮影した彼女は、1時間ばかり寝かせてあげようと2人の傍を離れた。

〜後日〜

「名前!大成功よ!!」


『、はあ…?』


「あのタイガーとの写真集!販売1週間で100万部突破よ!」


『っ!?』


ラミアからの報告と同じように、ロイドの言葉に驚く虎徹の姿がアポロンメディアでも見られたらしく。
トレーニングルームに集まったHERO達も、早速購入した写真集を広げていた。


「あらぁん、虎徹も名前もいい表情してるじゃない」


ふふっ、と笑うネイサンに、羨ましいです…と写真集をのぞき込むイワンと僕も写真撮りたいなーとホァン。
キースは「私も是非!キャット君やタイガー君と写真を撮りたい!」と高らかに声を上げ、アントニオは「虎徹…締りのねぇ顔して…」と呆れ乍らも楽しそうな表情を浮かべる彼に嬉しそうだ。
若干2名を除いて、トレーニングルームは2人の写真集に和んでいのだった。



(あら、)
(なんで隠すのー!)
(あんたにはまだ早いわ(なかなか際どいのもあるのね))
((虎徹さんと名前さん…猫みたいにじゃれあってる))
(((猫のじゃれあいって人間に置き換えると恐ろしいな…)))
(なあ、じゃああの二人が機嫌悪いのって…)
(まぁ、虎徹が好きなカリーナと名前が好きなバーナビーだったら、当然写真集も買って既に見てるわねぇ)
((別に羨ましいなんて思ってないんですからね!!))
(まだ何も言ってないわよ…)


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