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  近くにいた君が遠く感じたから



「名前さんの仲間って、どんな感じの人たちだったんですか?」


エレンのその何気ない質問に、名前はそうだな、と視線を宙に向けた。
今日は調査兵団にも与えられる数少ない休日。
旧本部にはエレンに会いに来たミカサやアルミン、名前に会いに来たリョウや、暇をつぶしに来たハンジなど、何時もならここに居ない面々もそろっていた。
リヴァイももちろんいるが彼の部下は仕事が残っているらしく、休日返上でそれらに勤しんでいるためここにはいない。
名前が何と答えようか考えている傍で、リョウがエレンの質問に答えた。


「大食いと無愛想とストライクゾーンが広大な奴とヤンデレだな!」


「え?」


『リョウ…それじゃあまともな説明になってないよ…』


リョウの簡潔すぎる答えに溜息をついた名前。
案の定、ぽかーん、という反応を見せてくれた一同に、名前が苦笑を浮かべた。


「でも誰が誰だかわかるっスよね?」


『まあね…』


彼の言っているのは案の定、アレンと神田とラビ、そしてリナリーの事だろう。
首を傾げている彼らに、今度は名前が詳しく説明を始めた。


『え、と。とりあえず今リョウが言ったのは、私と同じ戦闘要員のエクソシスト達かな。年は多分君たちより少し年上なくらいかな?18歳前後だし』


「まあ、勿論若者だけじゃねぇけどな。元帥格になると、流石に年くってる」


まあ、勿論年齢にばらつきはあるんだけど、というリョウ。
名前自身がまだ若いということで、よく話をしていたりというのはエクソシストでは若いメンバーが多かった。


「大食いって、どれぐらい食べるんですか?」


アルミンの素朴な疑問に、リョウと名前の目が遠くなる。
あのある意味素晴らしい食事量を思い出しているのだろう、が、その量が全く想像できない一同はどれくらい食べるのかと顔をひきつらせた。


「えー、と?」


『20〜30人分は軽く食べるんじゃないかな…』


「…名前さんが寄生型エクソシストじゃなくてよかったと心底思います」


「なにそれすごく研究してみたい!!」


「おい、ハンジの研究心に火をつけるな。後々面倒だ」


『はは…』


そう苦笑しながらティーカップを傾けた名前に、新たな質問が飛んだ。


「あ、じゃあ名前さんと一番仲の良かった人って誰です?」


「そりゃあおr「リョウさん以外で」そりゃねえだろおい!!」


ミカサに言葉を遮られたリョウは若干涙目だが、誰も彼を慰めようとしないあたりから彼の扱いが垣間見えるというかなんというか。
ぐすん、と鼻をすすったリョウは気を取り直し、名前をポンポンと上げていく。


「そうだなー…本部で名前と一緒にいたのは神田だったかな?」


『常にってわけじゃないけどね…剣術を磨くには打ってつけの相手だったからじゃ?』


「それにしちゃあ、食事のときとか談話室にいるときだって一緒にいたじゃないっスか」


『…確かに』


「カンダ?」


「あ、こいつね」


何処から出したのか、紙とペンでさらさらと絵を描いていくリョウ。
向こうでも何かと図を書いていたからか、見たことのあるものを見たままに描くのは上手かった彼は、あっという間に神田を描き終え、他にもアレン、ラビ、クロスといった主要な面々も描き上げた。


「うわあ…なんか、顔の整った面々ぞろいだな…」


「あー、俺それも思ってたなあ…エクソシストには顔面偏差値もあるのかなって」


『何それ』


名前の呆れたような声にへへ、と笑ったリョウは、話を続けた。


「ラビもよく話聞きに来てたっスよね?」


『記録のためだよ。ブックマンからも頼まれてたし』


「アレンなんて会うたびにハグだのなんだの…」


『まあ…なんだかんだクロスを通じてしばらく一緒に旅してたから』


「…あぁ、あの女ったらしっスか」


チッ、と舌打ちをしたリョウは、余程クロスの事が気に入らないらしい。
確かに彼の性格にはなかなか癖があるが、それなりに付き合ってみればなんてことはなくなるとは思ってる。
が、彼も名前同様元帥であり、教団には全く連絡を入れないという困った放浪者だったため、教団の人間は彼を”扱いづらい人種”と判断している節が見受けられる(実際間違ってはいないのだけれど)。
そういえば、とリョウの視線が名前に突き刺さった。


『、なに?』


「…クロス元帥と二人っきりでの任務、大丈夫だったんスか!?」


『大丈夫だったって…?』


「だって!あいつ!ことあるごとに名前さんを抱こうとしてたじゃないっスか!」


『……あぁ』


なんでそんなこと覚えてるんだと言わんばかりの表情を名前はリョウに向けているが、彼はひかないらしい。
心なしかここに居る一同の表情も険しいものになっており、彼女は小さくため息をついて口を開いた。
彼の言っていることはおそらくあの江戸での任務だろう。


『あのね、あんな重要な任務の最中にそんなことするわけないでしょう』


「いいや分かんないっスよ!あのAKUMAも改造しちゃうような男!AKUMAに見張りでもなんでもさせていつでも名前さんとにゃんにゃんすることなんて容易かったはずっス!!」


『そうは言っても…実際何もなかったし』


「ほんとに!?晩酌とかは!?」


『、そりゃあ、それぐらいは…』


「したんスね!!?」


『別にそれぐらいいいじゃないか。あんなところに居たら心も荒むんだから』


そんな彼らを傍に、ハンジは「AKUMAって改造できるの!?じゃあ巨人でも、」という言葉を発していて、それを聞いたエレンの顔色が青ざめる。
しつこいリョウに若干投げやりに答えた名前は、手に持っていたティーカップをソーサーに戻しながら「女に晩酌される酒は格別だ。特にイイ女はな」と不敵な笑みを浮かべているクロスを思い出したのを皮切りに、次々に教団での出来事を思い出していた。

アレンがコムリンに追いかけられたこと
バクの頭に科学班が開発した育毛剤を掛けようとしたこと
アレンのイノセンスが復活したこと
リナリーがコムイにブチ切れたこと
元帥組で酒を飲んだこと(未成年だったが飲まされた)
イベントごとにパーティーを開いたこと
バースデーパーティーをしてもらったこと……


「、あれ、名前副兵長?」


「あぁ、あの人の癖だよ。いったん考えに耽ると自分の世界に入っちゃって…」


よくあったなあ、と笑みを浮かべるリョウのそれには、若干の懐かしさも混ざっていて。
彼も教団の事を思い出しているのだろうと思うと、今現在の仲間たちは複雑そうな表情を浮かべていた。
別の次元の仲間といっても、彼らにとってはきっと今でもかけがえのない仲間なのだろう。
けれど今、あなたたちと一緒にいるのは、


ぐいっ、


『、リヴァイさん…?』


名前の隣に座っていたリヴァイは無言のまま、彼女の腕をつかんで立ち上がらせる。
がたっ、と椅子が倒れかけたのをとっさにリョウが掴んだが、リヴァイはそれに気づいたそぶりは見せず。
?、??、と首を傾げる彼女をぐいぐいを引っ張っていくリヴァイと、戸惑いながらもついていく名前。
あ、と声をかけて引き留めようとしたエレンの肩に手を置いたのはハンジで、彼女はにこっ、と笑って見せた。


「リヴァイのちょっとした嫉妬だから、大丈夫」


「、嫉妬?」


「そ。名前の傍には自分がいるのに、ここにはいない仲間の事を思い出してあんなふうに思い出に耽られちゃねぇ」


君たちだって嫉妬したでしょ?と笑うハンジの視線の先には、ミカサやアルミンがいて。
そんな一同の姿を見ていたリョウは珍しく声を荒げることなく、緩く笑みを浮かべていた。


「(名前さん、大丈夫っスよ)」


たとえ今すぐ帰れずとも、俺達には、貴女には、


「(ちゃんと、”仲間”がいるんスから)」


そんな一同など知らず、リヴァイはぐいぐいと名前を引っ張り、自室に連れ込むと彼女を皮張りのソファに突き飛ばした。
どさっ、という音と同時に腰を打ったらしく、いたー…と声を上げている名前の上にリヴァイがのしかかる。
眼前に迫ったリヴァイの整った顔と、不機嫌そうに寄せられた眉に息をのんだ名前は、ただ彼の顔を見つめ返すしかなかった。


「今、お前の傍には誰がいる?」


『ぇ…?』


答えろ、と言わんばかりのリヴァイの視線に若干戸惑いながら『リヴァイさん、です…』と答える名前。
そんな彼女の顎をつかんだ彼は、ぐい、とさらに顔を近づけて。


「だったら、ここにはいねぇ誰かの事じゃなくて、」


俺の事だけ、見てろ


その言葉と同時に、リヴァイは名前の唇に噛みついた。



("ここにはいない誰か"も、名前にとって大事な奴だってことは分かってる)
(でも)
(お前は今ここに居るんだから)
(ただ、俺の事だけ見てればいいんだ)
((それは、彼女のセカイへの嫉妬)) 


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