小説 | ナノ


  何故なら君に首っ丈



『…学園、行きたい…』


はぁ、と小さくため息をついた名前はお腹にタオルケットを引いてソファに寝転がっている。
そんな彼女の頭を優しく小突いた三成は、はちみつを溶かしたホットミルクを名前の目の前のローテーブルに置き、自分はコーヒーを持ったままラグの上に腰を下ろす。


「そんな状態で行けるものか」


『痛いのは初日と二日目だけなのに…』


そう言いつつ起き上がった名前の顔には、確かに苦痛の色は見られない。
彼女が学園を休んで早三日。
所謂"女の子の日"というやつだ。


「今学園に行ってみろ、襲われるぞ」


『…それは、うん』


「…経験済みなのか」


『中学の時に、学校で来ちゃって…そのときは市が庇ってくれたからなんとか下校したけど』


えへへ、と困ったように笑う名前にため息が隠せない。
三成は呆れたような表情を浮かべながら、自分が居ても彼女の傍にべったり居る幼馴染を浮かべた。


「……幼馴染はどうした」


『理性を保つので精一杯だったみたい』


ふーふー、とホットミルクを少し冷まして口にする名前は、苦笑を浮かべながら三成に答える。
あの幼馴染も所詮は男か、と息を吐いた。
この女の子の日の一週間、名前を含める純血種の女吸血鬼は、強制的に出席停止になる。
とは言え名前が知る限り自分と同じように出席停止させられるのは市以外に居らず、それぐらい女吸血鬼が希少であるということが伺える。
では何故、彼女らが出席停止になるのか。
答えは至極簡単、彼女らの血液に関係している。


「吸血鬼に対しては至高の血、人間に対しては凄まじい色気、か」


『…フェロモンって言ってくれないかな』


色気って生々しい…と名前はため息をつきたくなる。
まぁ、色気もフェロモンも大して変わらないが、確かに三成の言うとおり。
いくら生理用品を活用しても、もともと血の匂いに敏感な吸血鬼には隠し通せないし、フェロモンは制御装置が意味を成さないくらいに増える。
その為、名前と市はこの女の日に突入したら学園にいけなくなり、勿論外も出歩けない。
必然的に眷属である三成も学園に行けず、彼女の世話に徹することになる。
名前命である三成にとっては何の苦にもならないのだろうが。


「中学の頃はどうしていたのだ?」


『その頃はお父さんとお母さんと一緒に暮らしてたから…でもお父さんは近寄らないようにしてたよ。お母さんは私と同じだからなんともなかったから、お母さんが色々してくれたの』


「純血種の女吸血鬼同士ならなんとも無いのか」


『そうみたい』


そういえば、と瞳を瞬かせた名前が三成に視線を向ける。
視線に気付いた三成が名前を見上げた。


「なんだ」


『三成君はなんとも無いんだね』


「…まぁ、そうだな」


少し間を空けて考えてから三成が言う。
眷族は効かないのだろうかと思ったが、同じような市には眷族が居ないから比べようが無い。
とはいえ、同じように学園に通っているかすがも佐助も、名前がこの状態のときは訪ねてくることも無い。
やっぱり影響があるのか、でも三成を見ている限りはそんなこと無さそうなのに、と一人でぐるぐると考える。
そんな名前の思考を打ち切ったのは、三成の何気ない一言だった。


「私はいつもお前に首っ丈だからな」


『…へ?』


えと、それはつまり…


「色気などに惑わされずとも、私は何時でもお前に夢中だということだ」


さらり、と恥ずかしい言葉を言ってのけた三成。
真顔の本人を目の前にして、名前は一瞬呆けた後、かああ、と顔が赤くなるの感じた。
両手で持っていたホットミルクのマグカップをローテーブルの上に置き、自由になった両手で熱い頬を押さえる。
そんな彼女に首を傾げた三成は空になったマグカップを同じようにテーブルに置き、名前が起き上がったことで空いたスペースに腰を下ろした。


「どうした?」


『…恥ずかしいことさらっと言わないでよ』


「恥ずかしい?何がだ、私は思ったことを、」


『もー!それが恥ずかしいの!』


三成が無意識にそれらを口にしているなんてことは分かっている、が。
本当に恥ずかしくて仕方ない。
冗談も建前も、嘘をつけない正直者である三成は、本当に思ったことしか口に出さない。
嘘も方便なんて諺を作り出した日本人とはかけ離れた存在よ、と笑っていた刑部の姿が目に浮かぶ。
三成は両頬を抑えていた名前の手首を掴み、彼女の顔を覗き込んだ。


「林檎みたいだな」


『…三成君が恥ずかしいこと言うから』


「ふ、そうか」


優しい顔で笑った三成は、名前の唇に小さくキスを送った。



(あれ?伊達の旦那、名前ちゃんは?)
(今日から一週間はrestだぜ)
(…あぁ、もうそんな時期か。だから石田の旦那もいないのね)
(Shit!なんであいつは一緒にいれるんだよ!)
(さあね。まあ石田の旦那平気みたいだし)
((その原因が一体何なのかを彼らは知らない))


prev next

[back]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -