小説 | ナノ


  変化した呼び名



※セカイが違う確証の続き


このままではこの世界での立場が確立できないと判断された名前とリョウは、調査兵団の一員として迎えられることになった。
リョウは科学班だったことから、ハンジとともに巨人の研究に勤しむことに。
名前はエクソシストという戦闘員だったため、即戦力になるということで一時的に調査兵団になるための訓練兵として訓練にあたったのち、リヴァイの特別補佐、即ち調査兵団の副兵士長とすることがエルヴィンによって決定された(実力がものをいう調査兵団ならではというかなんというか)。
調査兵団に所属するということで、必然的にエルヴィンたちの下につくということになるが、二人は特に反感することはなく、素直に受け入れた。


「名前、君には共に壁外へ同行してもらいたいが…嫌だというなら拒否することもできる」


『私は壁外に出ることに何の抵抗もありません』


「…危険だぞ?」


『どんなところかはもう十分に理解していますから』


目覚めたリョウに会いに行く前、彼女は壁外で、たった一人で生き残った。
それも、怪我一つすることもなく。
何も言葉にしなくとも、その事実さえあれば名前の言葉はとてつもない説得力を持ち合わせた。
はは、と苦笑を浮かべたリョウは、「相変わらずっスね」、とあまり困ったとは感じられない声色で笑った。


其れから約半年。
普通の訓練兵なら音をあげるような訓練でも名前は一切音を上げず、かつ完璧にすべての過程を終了し、首席という成績を残して解散式を終えた。
少なくとも1年はかかるだろうと思っていた彼らを驚かせた名前は、正式に調査兵団に入団、副兵士長を任命され、リヴァイとともに、彼の特別班を率いる存在となった。
初めのころは築けなかった信頼関係も、彼女の戦闘技術だけでなくその人柄から、あっという間に"信頼に値する人物"として認識されるようになり、チームワークの問題もなくなった。
そして、人類最強を支える副兵長として順調に仕事をこなしていたある日の夜。


『訓練兵の指導、ですか…?』


「ずっとリヴァイの手伝いだけじゃあ飽きるだろう?」


自分で書類を作ることもあるが、副兵長に任命された名前は、エルヴィンの言うとおり、ほとんどの時間をリヴァイと共有するようになっていた。
別にリヴァイといる時間は苦痛ではないし、むしろ心地よいと感じる、が…。


『(…そういえば、最近他人に会ってないかもしれない…)』


名前に会いにくる人間をリヴァイが牽制しているとは知らない彼女は、そんな呑気なことを考えていた。
リヴァイの働き全てを見抜いていたエルヴィンは、彼の意図に気付いていないであろう名前に苦笑を浮かべながらも、彼女にもっと他人と関わってほしいとの考え故に今回のこの話を持ってきたのだ。
名前は短いながらも訓練兵の過程を一通り終えているし、成績も、他人に指導をするに申し分ない優秀なものを残している。
ただ、この壁内の出身でないことや、特例として訓練兵の訓練を半年間しかしていないことから、彼女と親しい人間はリヴァイたちを除けばあまり数は多くない。
いくら死亡率が高い調査兵団だとはいえ、チームワークが重要となる任務がほとんどのために互いの認識は重要なのだ。
同年代、というわけにはいかないが、後輩に彼女の存在を身近に感じさせ、年が近い分何か分かち合えることがあるのではないかというエルヴィンの配慮がそこに隠れていた。
何より今回の訓令兵は粒ぞろいだから、今まで多くの修羅場を潜り抜けてきた彼女ならば彼らの技術などをさらに伸ばしてあげられるだろうという期待も込められていのだが。


『私は構いません』


「そうか、ありがとう。基本は調査兵団の仕事がメインだから、訓練兵の指導に当たるのは臨時でだ。臨時の時間帯は後ほど伝えよう」


『了解しました』


「名前には彼らに剣術や体術を中心に指導してもらうことになる」


『はい』


「手加減はしなくていい。命がかかってるのだから」


『重々承知しております』


す、と目を細めたエルヴィンの言葉にしかと頷いた名前は、そうだ、と声を漏らす。


『リヴァイさんには…』


「あぁ、私から話しておくから、くれぐれも、」


くれぐれも、話してしまわないように!


なぜ2回も言った…と首を傾げつつ名前は一礼した後、ぱたん、と団長室の扉を閉めた。
人の気配の感じられない廊下を抜け、明かりが零れている兵士長室へ足を踏み入れれば、カリカリとペンが紙をひっかく音が響いていた。


『、リヴァイさん、コーヒー飲みますか』


「あぁ、頼む」


名前の今日の分の物は終わっているが、兵士長という立場であるリヴァイにはやはり多くの仕事が回ってくるらしい。
名前は彼の仕事を手伝いつつ自身の仕事もこなし、余った時間でリヴァイの世話もしていた。
ひとえに多忙に多忙を極めていた科学班の手伝いを時折していたために身についた技術と言っても過言ではないこの処理能力のおかげで、リヴァイの負担も以前よりは軽減されている。
名前が動くたびに揺れる艶やかな黒髪を疲れた目でぼんやりと見ていると、視線に気づいたのか、彼女は苦笑を浮かべながら振り返る。
その手にはミルクや砂糖などがすでに入れられているコーヒーの入ったカップと、蒸しタオルが一つ、冷めてしまわないように保温ケースの中に入れられているものがトレイが乗せられていた。


『どうかしましたか?』


「いや…」


かちゃ、と小さな音を立てて置かれたカップに手を伸ばし、口に含む。
自分好みの味に入れられたそれに、疲れた脳がじんわりとほぐれていくのを感じた。


「…上手くなったな」


『もうミルクと砂糖の分量も覚えましたから』


「そうか…」


名前の何気ない一言に機嫌を良くしたリヴァイは、カップの中のそれを全て飲み干す。
はあ、と一息ついているリヴァイに上を向くように言えば、彼は怪訝な表情を浮かべながらも彼女の言葉に従った。
ぎし、と小さな音を立てて少し倒された上体を支えている椅子に近づき、保温ケースの中から蒸しタオルを取り出しながら、片手でリヴァイの前髪を軽くよけた。


「、なんだ」


『疲れ目に効きますよ』


適温に冷ましたそれを、リヴァイの目元にそっと載せる。
じんわりと温かいそれは、彼の凝り固まった目元の筋肉を解す様にリラックスさせる。
無意識のうちに零れた吐息がその証拠だ。


『…あまり無理しないでくださいね』


お先に失礼します、といってリヴァイから離れた名前はそのまま彼の部屋から退出する。
声を出さずに、ひらひらと手を動かすことで答えたリヴァイは、目元を温める蒸しタオルを載せたまま、ぼんやりとした。


「……好き、だな…」


何が、とは明言しなかったリヴァイの声は、誰にも聞かれずに溶けて消えた。



((翌日))
(…なんで名前がいねぇ…)
((あああああ、兵長の機嫌が悪い…!))
((おい!副兵長どこに行ったんだよ!?))
((知らねぇよ!いつもなら兵長と一緒にいるだろ!?))
(あぁ、リヴァイ)
(何だエルヴィン俺は今(名前を探すので)忙しい)
(名前なら、訓練兵の指導に借りたからな)
(…………)
(((何てことしてくれたのエルヴィン団長ぉぉぉおおお!!!)))

(っくし…)
(風邪ですか!?副兵長!)
(大丈夫だよ、エレン…(誰かが噂してるのかな…?))


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