小説 | ナノ


  セカイが違う確証



※セカイから切り離された二人の続き


「異世界の人間か…」


ふむ、と顎に手を添えたエルヴィンは、リョウに向けていた視線を、彼のベッドに腰掛けている名前に向けた。


「何か証明するものはないか」


『証明…』


そうですね、と考えた名前に、リョウがこれじゃあだめですか、と彼女との連絡に使用したゴーレムを取り出した。
ぱたぱたと自分で羽ばたいて空中に漂っている其れはじゃれるように彼らの回りをぐるぐると旋回している。
其れに視線を向けたリヴァイは、確かに、と声を漏らした。


「…俺たちには、そんな通信技術なんてないな」


「これを俺たちは日常的に使ってるんスよ。一定の距離だったら、ゴーレムの探知機能で互いの場所の確認もできるようになってるっス」


ね!と誇らしげな表情を浮かべるリョウに小さく笑みを浮かべた名前。


『私たちは彼らの技術に支えられているといっても過言ではありません。彼らの技術は本物ですよ』


「…他には、何かないか?」


確かに、この世界にはこれほど高度なゴーレムを作る技術はない。
しかし、それ一つだけでは2人の存在がこの世界のものではないと証明するには少し弱い。
それならば、と名前が声を上げた。


『イノセンスでは、どうですか?』


「武器なんだろう。危険じゃないのか」


『武器として扱おうとしなければ問題ありません。それに、あなたは既にイノセンスを見てるはずです』


「既に…?」


一体いつ、俺はそんなものを見ただろうかと首を傾げるリヴァイ。
エルヴィンは見ていないだろうから、こればかりは自分で思い出さなければならない。
黙り込んだリヴァイに声をかけたのは名前ではなく、彼女の話を聞いていたリョウだった。


「あの、俺が乗ってたっていう馬…飯、食べてるっスか?」


「あぁ、お前を乗せてた馬か…そういや、全然草を食ってくれないって世話係が報告しに来てたな」


「あ、じゃあそれっス」


「は?」


けろっとそう言ってのけたリョウに、ぽかん、とリヴァイとエルヴィンの顔が呆ける。


「…う、馬…?」


『正確には違いますけど…確かに、リョウを乗せた馬は私のイノセンスで作り出したものです』


「作り出した?」


???、と頭の上に疑問符を浮かべた2人に、つまり、とリョウが話をまとめた。


「名前さんのイノセンスは、”自分の影をイメージ通りに変化させる”能力を備えた”影の支配者(シャドールーラー)”っス」


『あの時は巨人に囲まれてしまったから、リョウを庇いながら戦うのは難しいだろうと思って…イノセンスでとりあえずリョウだけを逃がそうと思ったんです』


戦ってどうにかなる相手なら自分は一人だけでも大丈夫でしたし、と言った名前に、「もっと自分を大事にしてくださいっス…」と嘆いたリョウの様子から、彼女がこうした判断を下すのは初めてではないのだろうと分かった。


「それは今ここで?」


『出来ます』


「…何でも作れるのか」


『栄養源や燃料にはなりませんが…有機物でも無機物でも』


「なら、椅子」


『椅子ですね』


ベッドの影と一体化していた名前の影が、ぐぐっ、と、まるで意志を持っているかのように動き出す。
影の主である名前は全く動いていないのに、影だけが勝手に動くだなんて、今までこんな現象を見たことがない2人は、目の前で起こっていることが信じられなかった。
それでも動き続けていた影は、むく、と床から離れ、一瞬で椅子を作り出す。
きちんとした立体で、こんこん、と叩いてみても何の問題もない。
色が真黒なこと以外は、どこからどう見ても完璧な椅子だった。
試しにリヴァイが座っても、その椅子はしっかりとリヴァイを支えており、軋む様子も壊れる様子もない。


「…すごいな」


『巨人に対して使えるかどうかは不安でしたけど…ちゃんと使えてよかったです』


名前のその言葉に、リョウの視線が彼女に向けられる。
が、彼女の言葉の通り、確かに彼女には何の怪我もなく、いつも通りらしい。
ほっと安堵の息を漏らした。


「…まあ、認めざるを得ないようだな」


少々渋い顔をしているエルヴィンだったが、どうやら2人の言い分を受け入れるらしい。
やはり少々信じがたいものではあるが、それでも彼らの技術に、一切見たことのないイノセンス、彼らの話から、そう認めざるを得ないと判断したのだ。


「で、どうしてお前らはここに落とされたんだ」


「どうして、って…」


それは、と少々言いにくそうな表情をしていたリョウの代わりに、名前が口を開く。


『私が、邪魔だったからです』


「、邪魔…?」


『私たちの組織は、千年伯爵と呼ばれる男を筆頭とした組織と戦争をしていましたが…どうやら私はとくに邪魔だったようで』


そう告げた名前の脳裏には、自分をこの世界におとす千年公の禍々しい眸と、吊り上がった口角がよぎる。
いつも見ていた奇抜な恰好ではなく、一見すれば感じのいい紳士だというのに。
あれが世界を終焉を導こうとしている黒幕の一人だなんて何も知らない人間に言っても、きっと信じてもらえないだろうと断言できるぐらい、その時の千年公はいつもの格好とかけ離れていた。


『リョウは、私の力不足で巻き添えを食ってしまっただけなんです』


「そんな…俺は、名前さんがこっちに連れてきてくれてなかったら…きっと殺されてました」


彼女のおかげで生きていられるけれど、彼女のせいでこの世界におとされた
その表裏一体の言葉から、彼らには選択肢などなかったのだと。
察しの良い2人は、確かにそう感じ取った。



(たとえ、運よく向こうで生きていられたとしても)
(名前さんがいないのなら)
(俺にとってそれは、)
(死んだも、同然だから)
((だから悲しまないで))
((愛しい人、俺は幸せだから))


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