小説 | ナノ


  セカイから切り離されたふたり



※翻った黒衣の続き


ずきずきと鳩尾が痛む感覚をまとったまま目を覚ます。
あぁ、と心中でつぶやいたリョウは、不服と言わんばかりの表情を浮かべていた。」


「(あんにゃろ…容赦なく殴りやがった…)」


あの身長には見合わない力で鳩尾に入ったリヴァイの拳は、人類最強にふさわしい威力だったようで、まともに食らったリョウは一瞬でノックアウトされてしまっていたらしい。
はあ、とため息をつきながら起き上れば、ずきり、と痛みが増し、無意識のうちに顔がゆがんだ。


『大丈夫?』


「、ぇ…」


聞き慣れた、ずっと望んでいた声。
リョウがゆがめていた顔を扉のほうに向ければ、そこには少し心配そうな表情を浮かべた名前が、リヴァイやエルヴィンとともに立っていた。
名前の姿を少しの間ぽかんと見やっていたリョウは、リヴァイの拳をまともに食らった人間とは思えないほど俊敏に動き、ぶわっと涙を浮かべた状態で名前に飛びつこうとした。


「名前っぶっ」


「きたねぇ」


『わあ…』


…どうやら、涙と共に出てきた鼻水がいけなかったらしい。
リョウは名前に触れる前に、その端正な顔面をリヴァイの靴底に擦り付けることになってしまった。
あまりの一瞬の出来事にリョウ自身も何が何だかわかっていなかったらしく、しばらくもがもがとしていたが、がしっ、とリヴァイの足首をつかんで自分の顔から彼の足を引っぺがした。


「いってーなこの野郎!!」


「涙だけならまだしも鼻水はきたねぇ」


「潔癖症か!!」


ぎゃーぎゃーと(リョウが一方的に)騒いでいる2人に置いていかれた名前とエルヴィン。
2人はしばらく彼らを観察していたが、名前がリヴァイを見つめる。


『彼、潔癖症ですか?』


「…まあね」


『……』


なるほど、と小さく呟いた名前の声は未だ騒いでいる2人には届かず、隣に立っているエルヴィンにだけ届いた。
そうしてしばらく騒いでいたが、エルヴィンが苦笑を浮かべながら2人を止めれば、彼らは文句を言うことなく止まった。
…どうやらそろそろ止めようとは思っていたらしい。
ぜぇ、はぁ、と乱れていた息を整えたリョウは、先ほどまで浮かべていた険しい表情を消し、穏やかな、安心しきったような表情を浮かべた。


「…本当に無事でよかったっス、名前さん」


『リョウこそ、意識が戻ってて良かった』


「はは、名前さんのおかげっスよ」


そう笑いあう2人は傍から見ていても十分穏やかだが、彼らが壁外からやってきたという衝撃の事実は変わらない。
ただ単に壁外から来た、というには、彼らは異質な存在だったのだ。


「それじゃあ、リョウ」


エルヴィンは再会の喜びに浸っていたリョウに声をかける。
ぐすぐす、と涙を浮かべていた彼はぐい、とその涙を拭った。
エルヴィンは、リョウの横になっていたベッドのすぐそばにあった椅子に腰かけ、名前は彼のベッドに腰を下ろす。
リヴァイは壁に寄りかかり、何かあった時にすぐに動けるような体勢をとった。


「…詳しい話を、聞かせてもらおうか」


「詳しい話ですか…」


そうエルヴィンの言葉を反復したリョウは、その視線を名前に向ける。
彼女はコクリ、と頷いて、その瞳をエルヴィンに向けた。


『まず事実を簡潔に述べます…信じがたい話だと思いますが』


私たちは


『この世界の人間では、ありません』


「「!?」」


至極落ち着いた表情をしていた名前の口から出たのは、エルヴィンとリヴァイには些か信じられない言葉だった。
目の前の落ち着き払っている彼女が、まさかそんな突拍子もないことを言い出すとは考えられなかったし、彼女と同じ状況にあるであろうリョウも、エルヴィンやリヴァイほどではないものの、どこか驚いたような表情をしていたのが、余計に拍車をかけていた。


「やっぱり…ここは俺たちの世界じゃないんスか…?」


『巨人なんて初めて見たしね…あんな生物が向こうに居たら、向こうの人間はあっという間にいなくなってるよ』


「ここにはAKUMAの代わりに巨人がいるんスね…」


はあ、と頭を抱えたリョウは、あ、と小さく声を漏らした。


「だからここの人たちは壁の中で生活を…」


「…本当に、別世界の人間なのか?」


エルヴィンの怪訝な表情を向けられる2人。
リヴァイからは、先ほどよりもずっと鋭いものが向けられていて、居心地が悪い。
リョウの顔色はリヴァイの鋭すぎる視線のせいで若干悪いが、同じようにその視線を向けられている名前は至って平然としていた。


「…俺たちの世界には、少なくとも”巨人"なんてものは存在しないし、こんな壁の中で暮らしてる人なんていないっスよ」


「"巨人"が、存在しない…?」


「大体、そんなものが存在したら、俺たちが知らないわけがないんス」


『世界中で起こった怪奇現象にイノセンスが関わっている可能性がありますから…私たちのところには、そういった情報が必ず入ってくるようになってるんです』


変わらず落ち着き払った様子で述べた名前に、リヴァイの視線が向けられる。


「…イノセンス?」


『私たちエクソシストが使用する武器の事です』


「聖職者か?」


「そこらへんで聖書片手にしてる聖職者とは全くの別物ですけどね」


そういったリョウの視線は、少し悲しそうで。
その視線の先にいる名前は彼の視線に込められている意味に気付き、自分よりも高い位置にある彼の頭を優しく撫でた。


「名前さん…」


『大丈夫、私は後悔してないから』


名前たちにとって部外者であるエルヴィンとリヴァイには、2人の感情はよくわからないものだったが。
リヴァイは何となく、名前に自分と何か近しいものがあるのでは、と感じた。



(人類最強の兵士長と)
(人類を守る聖職者の元帥)
(出逢ったのは)
(偶然か)
(それとも)


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