小説 | ナノ


  翻った黒衣



※無慈悲な神に願うの続き


翌日、自分も連れて行けとうるさいリョウを(物理的に)黙らせてから南に面している門へと移動したリヴァイとエルヴィン。
門を開ける必要はないといったが、この高さの門を本当に超えられるのだろうかとエルヴィンは何度も見てきたそれを見上げる。
目の前の門はずっと自分たちを守ってきてくれたが、それでも、突如現れた超大型巨人や鎧の巨人の前では無意味で、あっけなく崩壊した。
もしかしたら、昨日男と話していた彼女も同じ類なのではと勘繰り男に尋ねたが、直後、男はあり得ないと憤慨した。


「名前さんはな!とっても美人で可愛いんだ!まるでお人形さんのような(強制終了)」


彼の話を聞く限りでわかったのは
・見た目は人形(ビスクドール的な)
・とんでもなく強い
・おしとやかで料理上手
・とりあえず何でもできる万能人間
…らしい、が…本当にそんな人間がいるのだろうか、とエルヴィンは苦笑した。
リヴァイは全く歯牙にもかけていなかったが(どうやら興味がなかったらしい)


「リヴァイ、どう思う」


「何がだ」


「あのリョウとかいう男の話、本当だと思うか?」


「本当なら、今に現れる」


リョウの言うとおり、本当に強いのならば。
巨人に食われることなくここに辿り着き、この堆い壁だって自身の力で越えてくる。
もしリョウの話が誇張されたものでないのならば、それくらい容易いはずで、其れが成しえないというのならば、彼の話は嘘っぱちだということになる。


「まあ、彼の話が嘘でもないなら…」


俺たちにとっては、希望の光か


そう発する前に、リヴァイとエルヴィンの耳に届いたのは、コンクリートを固い何かがたたく音。
それははるか上空から聞こえてきていて。
見上げた先は、壁の上。
そこにいるのは、漆黒の人影。


「…本当に、来た」


そんな彼の声は一陣の風にさらわれ、人影は躊躇いもなく壁から足を踏み出し、重力に従ってリヴァイたちの目の前に落ちる。
普通の人間の足ならば折れていても仕方ないというのに、黒衣が翻って現れた女性らしいほっそりとした足は、ふわり、と一瞬だけ重力に逆らうかのようにして地面を踏みしめた。
こつん、と鳴った小さな音は、それでもはっきりと目の前の存在が有ることを示していて。
何も言えずに馬に跨ったままのリヴァイとエルヴィンに対し失礼だと思ったのか、フードを被っていた彼女は、ぱさり、とそのフードを外した。
現れたのは、絹糸のように手触りのよさそうなつややかな黒髪に、白磁の肌、新緑と海が混ざったような不思議な色をした眸、桜色の唇、つんとした小さな鼻、それらがバランスよくはめ込まれた、ビスクドールのような顔。


『初めまして、苗字名前と申します』


丁寧にお辞儀をしたその姿は、いつか読んだ、東洋にある日本という国に住んでいる人間のする仕草そのもので。
再びあげられたその双眸は、壁外で見てきた、あの美しい風景を彷彿とさせる。
呆けていた2人のうち、先に意識を取り戻したのはエルヴィンのほうだった。


「はじめまして、調査兵団団長のエルヴィンだ。で、こっちが、」


「兵士長のリヴァイ」


「君のことは簡単にだけとリョウ君から聞いてるよ」


『あぁ、リョウの話は聞き流してくれて構いません。ほとんど彼の脳内変換ですから』


どうやらなかなかはっきりしたことを言う人種らしい。
そうさらっと言ってのけた彼女に思わず苦笑を浮かべるエルヴィンと、ほう、と少々驚いた様子のリヴァイ。
簡単にあいさつを済ませた3人は、名前をそろそろ目覚めているであろうリョウのところに連れていくために移動することに。


「リヴァイ、一緒に乗せてやれ」


「…あぁ」


『あ、お気になさらず』


エルヴィンの言葉にリヴァイは短く答えたが、名前は日本人らしく小さく断る。
リョウのことをバッサリと切り捨てたり、つつましくなったり、なかなか不思議な人間だな、とエルヴィンが心中で笑っていると、リヴァイは馬に乗ろうとしない名前の腕をつかんで軽々と持ち上げた。


『っ、』


「!(ずいぶんと軽いな…)」


つかんだ腕の太さも、自分の班のペトラよりも細い。
黒衣からのぞいた足も、むしろその全身が筋肉など知らぬかのように細くて。
本当に彼女は、この壁の向こうで巨人と戦い生き残り、この堆い壁を登ってきたのだろうかと、自分の目で見届けたくせに本気で疑いたくなる。
リヴァイのほかに、もう一人乗せることになった彼の愛馬は文句を言うこともなく、エルヴィンに続いて、まだ誰も家から出てこない街中を駆け抜けた。



(彼らの出逢いは)
(人類にとって吉と出るか)
(はたまた、凶となるか)
(それはまだ、誰にもわからない)


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