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  無慈悲な神に願う



※オとされた神の仔羊の続き


「兵長!!」


壁外調査から帰還中のリヴァイ班。
馬に乗って壁内を目指していた一行の表情は、リヴァイ以外疲労に染まっていたが、エルドがはっとした表情を浮かべて声を上げる。
呼ばれた彼は何事かと少々面倒くさそうに振り返った。


「何だ」


「馬、というか…人が…」


「人ぉ?」


エルドの言葉に反応したのはリヴァイではなくオルオだった。
不信感をあらわにした声色だったが、エルドの指さす方向を見たオルオは目を見開く。
真っ黒な黒馬の上に力なく、体を預けるように乗っている白衣の男。
太陽に当てられて煌めく金髪も、風によって舞う白衣も、まるで闇夜のように漆黒の黒馬も、その荒野には全くと言っていいほど似つかわしいものではなかった。


「壁外の人間か…」


「まだ生きてたんだな!」


馬の足を止めたリヴァイ班に駆け寄るかのように、黒馬は迷うことなく彼らのもとへ。
訓練されている馬なのか、遠目に見てもたくましいと分かるその馬は、普通の馬よりもずっと速く走ったため、すぐに彼らのもとに辿り着いた。
ぶるるっ、と鼻を鳴らした馬は、背に乗っている男を見せるように彼らに身を寄せる。


「けが人かしら…」


「意識がないな…出血自体はそれほど多くないみたいだが…」


頭部を強く打ったのだろうか、と推察する2人をよそに、エルドが兵長であるリヴァイに命令を求める。


「如何します…?」


「…連れていく。壁外で生きていたなら、何か知っているかもしれない」


先ほどこの世界に落とされた彼が話せることなど万に一つもないのだが、それを知らぬ彼らは、突如自分たちの目の前に現れた男に一筋の光を見た。


『…なるほど、弱点はうなじか』


リョウを逃がした後、名前は自分に襲い掛かってくる巨人たちを一手に相手していた。
どうやら知性はないらしく、こちらの行動を先回りして考えるということはしないらしい。
進化すれば力も知性もアップするAKUMAに比べたらずいぶんと楽な相手だが、いかんせん数が多い。
一瞬、ここは巨人の国かと考えたが、彼らが自分に襲い掛かってくるところを見ると、そういう習性があるのかもしれないと考えられる。
つまり、


『私以外にも人間を食い殺してる可能性があるってこと、か』


黒い靴(ダークブーツ)で高速移動を続けながら次から次へと切り殺していく。
急所をえぐられたそれらは蒸発して消えていく。
それをなんとなく見つめていた名前の視界に入ったのは、巨人が、おそらく食らったであろう人間と思しきそれらを吐き出すところだった。
ほとんど未消化のまま出てくるそれは、見ていて決して気分のいいものではないが、向こうでも人の死は身近なものだった彼女は、少々顔をゆがめる程度にとどめた。


『未消化のまま吐き出すってことは…つまり生命維持のために人間を食べてるわけじゃない』


快楽か、それともまた別の…


ふむ、と考えながら、次々切り殺していくうちに、周りを囲っていた巨人はすべて蒸発してしまった。
ざっと40体ほど切り殺しただろうか…さっさと終わらそうと思っていたのに、次から次へとあらわれるせいで切り上げられなかった。
リョウを乗せたイノセンスを探知するが、もうだいぶ遠い。
周りももう暗いし、下手に動いてもこの世界じゃ何があるかわからない。


『…一人で野宿か』


向こうじゃそんな機会も多かったが、初めての世界でとなると少々心細い。
地上で寝ていては襲われる可能性も否めないので、イノセンスで地下シェルターを作り出してそこで眠ることに。
とりあえず地下深くだったら気づかれないだろうと考え、なるべく深くに作り出したそこで一晩過ごすことにした。


『…リョウ、ちゃんと人に会えたかな』


かと言って、今の自分は治療できるものなど何も持っていない。
せめて、彼が誰かに保護されていることだけを祈って、名前は眠りについた。



(無慈悲で残酷な神よ)
(ここでも私に戦えというのならば)
(どうか、彼を)


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