小説 | ナノ


  オとされた神の仔羊




『くそっ…千年公!!』


「我輩の計画に貴女は邪魔でしてネ。ダカラ、」


消えていただこうト


傍らには傷つき意識を無くしたリョウの姿が。
科学班の証である白衣は彼自身の血で赤く塗れているが、出血自体がそれほど多くないのが幸いだろうか。
そんなことを考えているうちに、私の体は確実に闇に飲み込まれていて。
もう、イノセンスで無理やり引きずり出すことも叶わない。
かと言って、この状況で私が千年公に攻撃すれば、リョウが確実に殺られる。
しかしそれは、私がこのまま闇に飲み込まれてしまった後も同じ。
だったら。


『っ、許せ、リョウ…!』


「!?」


唯一自由だった右手で変形させたイノセンスを伸ばし、離れたところにいたリョウも同じ闇に引きずり込む。
千年公が驚いたような表情をしていたけれど、そんなこと知らない。
今、確実に生き延びることだけを考えるしか、無いのだから…


『…ぃ、ったぁ』


じりじりと、肌が陽光に焼かれる感覚で目を覚ました。
周りは一面荒野で、砂漠化と思ったが、砂漠だったらもっと熱いだろうし、砂ももっとさらさらとしているだろう。
見たところ、転々とはしているが、ところどころ草が生えていることからここが砂漠ではないことは確か…だが、可笑しいくらいに人の気配がしない。
目に見える範囲に人がいないというわけではない。
まるで、何処にも人間がいないかのような錯覚に陥っていたその時。

…ずしんっ、ずしんっ


『、!?』


地鳴りのような大きな音。
振り返ったとこには、とても人間とはいいがたい、けれど姿かたちは人間の、


『きょ、じん…!?』


お伽の国かここは、と逃避しそうな自分を叱責し、こちらに向かってくるそれらをみる。
それらの目はぎらついていて私たちを餌かなにかとしてみることはすぐに分かった。
見る限り動きは鈍いから、しとめることは簡単だろう。
だが、私が前方のあれらを相手している間に、リョウに別の巨人が襲い掛かってきたら?
前方からだけでざっと7体、一方向からそれだけ来るってことは、多かれ少なかれほかの方面からも来る確率は十分に考えられる。
ならば、リョウをここから遠ざけなければならない。
せめて気配の感じられない方向に、イノセンスを馬に化かして逃げさせれば何とかなるだろう。
あれと同じものなら、リョウに危険が迫ればイノセンスが勝手に足でもなんでも切り裂いて逃げきってくれるはずだから。
影から作り出した馬にリョウを落ちないように乗せて、縄で縛りつける。
意識を失っているため、これくらいしなければこの馬から振り落とされてしまう。
未だ苦しそうに眠っているリョウの頬を撫でた。


『せめて人間にあって…治療してもらって…』


イノセンスさえリョウと一緒にいてくれれば、彼の場所が特定できる。
大丈夫、また絶対に会える、会いに行くから
おそらく聞こえていないであろうリョウにそう語りかけて、馬を目を合わせ、やさしく頭を抱えた。


『リョウを頼むよ、』


わかった、と言わんばかりに一鳴きした馬は、リョウを乗せたまま力強く走り出す。
あの馬はイノセンスであって生命体ではないから、疲れることも、食料を必要とすることもない。
逃げるにはうってつけだろう。
徐々に遠ざかっていく彼らを最後まで見送ることはせずに、迫ってきた巨人に向き直る。
ぼたぼたと垂れる唾液に、理性の全く感じられない瞳、何処かだらしなく弛緩しているように見える肉体。
なぜだろう、何から何まで不愉快だ。
そう考えていると、イノセンスが勝手に刀に変化する。


『…なるほど、倒せ、と』


私のイノセンスは少々異常なのかもしれない。
自分の意志で発動することもできるけれど、AKUMAが近くにいるだけで勝手に発動してしまうことがたびたびあった。
そして、今こうして勝手に変化したということは。


『イノセンスで倒していい相手、ってことなんだろう?』


カチャッ、と小さく鳴った刀はまるでその言葉を肯定するかのように、太陽の光をその黒刃に煌めかせた。



(脳裏を駆け巡ったのは)
(力なく伏す、この世界で)
(唯一の"家族"だった)


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