小説 | ナノ


  眠り姫にご注意



三成が名前の眷属となり暫く。
眷属とってすぐに名前の一人暮らしをするには広すぎるマンションに共に住むようになった三成は、今日も朝食を作っていた。
日光が天敵である吸血鬼と違い、樋下を歩ける名前であっても、やはり朝は苦手のようで。
学校のある日はちゃんと起きてくるのだが、休日となるとなかなか起きてこない。
今日はいつにもまして遅く、三成が朝食を作り終えてもその姿を現すことはなかった。


「…まだ寝ているのだろうか」


そういえば、昨晩は元老院からの書類を整理していたな…


普段、学生である彼らのことを考慮してそのような仕事が回されることはないのだが、昨日処理していたのはどうしても彼女が見なければならなかったものらしい。
政宗や元就もに関しては詳しくは知らないが、以前半兵衛が同じような書類を処理していたところを目にしていたため、おそらく純血種である彼らが直接処理しなければならないものなのだろう。
いきなり家に送られてきた大量の書類に困ったような顔をしつつ、それを持って部屋にこもってしまった名前。
いつもならば二人でまったりするはずの時間が書類処理に奪われたため、その日の三成はあまり機嫌がよくなかったが、日が変われば流石に機嫌も元に戻る。
名前にあたっても仕方のないことだと分かっていたし、何よりもうそんな駄々をこねる子供のような年でもない。


「仕方ない」


とりあえず様子を見に行こう


ぐっすり寝ていたらそのままにしておけばいい、と三成はキッチンから出て名前の寝室へ。
告白をして晴れて眷属となった三成だが、名前と三成の寝室は別々だ。
すべては事件が落ち着いてから、という話で落ち着いたため、恋人らしいこともまだキスや手を繋いだりとそれなりに清いものばかり。
刑部が聞いたらあきれそうな内容だが、本人たちはいたって真面目なのだから余計な口出しはしないだろう。
スリッパを履いていても静かに歩く三成は、こんこん、と扉をノックして反応を見る。
が、扉の向こうからの反応は見られない。
本来ならばこのまま戻る予定であったが、しんと静まったままの向こう側に、むくりと興味が盛り上がる。


「名前の寝顔…」


病院で横たわっていた時の寝顔は、とてもじゃないが安らかとは言えないものだった。
どうせ見るならもっと穏やかで幸せなものがいい、と思っていたのを思い出す。
勿論ここで自身の興味を断ち切ることなど三成には容易いことではあったが、それはそれで後悔しそうで。
結局、部屋の主である名前を起こさないように、静かに部屋の中に入った。


「…真っ暗だな」


ひかれているカーテンは遮光性のものなのか、部屋の中はまるで夜のように真っ暗。
明るい時に見せてもらった名前の部屋の中の物の配置を思い出しながら歩き、ベッドの近くにあるスタンドに手を伸ばす。
かちり、と小さな音を立てて暖色系の明かりをともしたそれは、名前の寝顔を照らした。


「っ…」


ライトの位置の関係からか、名前の漆黒の長い睫の影が、頬に長い影を落とす。
漆黒の長髪は、白いシーツに不規則に散らばっている。
それだけでひどく扇情的に見えるというのに、さほど眩しくないライトの明かりに気付いたのか、ふるり、と震えたまつ毛がさらにそれをかき立てた。


『ん…?』


寝起きで意識が定まっていないのだろう。
わずかに目を開けて、両手をついてわずかに起き上った。
瞬間、三成の顔は一気に紅潮し、速攻でライトを消して部屋から退出する。
その間、折角たてないようにしていた足音をバタバタと立ててしまったのが残念だったが。
そんなことさえも考えられないくらい三成は混乱していて。
せめて名前が起きないようにとできるだけ静かに、それでも早く閉められた扉に背中を預け、ずるずると座り込む三成の顔はなおも赤く、バクバクと心臓はうるさいくらいに鳴り響いていた。


「っは」


あぁ、まったく!


「どうして裸で寝てるんだ…!」


裸で寝ることがいけないというわけでも三成がそのことに関して好ましくないと感じているわけではないが、そうならそうと早くいってほしかった。
別に女の肌を見てどうこう言うほど三成の精神は弱くない、が、名前の物に関してはそうは言ってられない。
彼女に対しては、初めて見たその時から恋慕を抱き、共に過ごすにつれてそれは大きく膨らみ続けていた。
それがようやく成就し、念願の彼女のたった一人の恋人となり、眷属となり。
三成も男である以上、それなりに性欲はあるが、それを理性で押し付けている今。


「…くそ」


はっきり言って、先ほどの光景はとんでもなく目に毒だった。
はあ、と息を吐き出した三成は、以前自分が寄りかかっている扉が押されたりノックされたりということがないことから、名前が再び眠りについたことを察する。
生活のリズムが崩れてしまうかもしれないが、眠いなら寝させてやりたいし、何より。


「今名前を見たら確実に襲ってしまう…」


彼女が起きてくる頃までにこの高ぶりを何とかしなければと冷静に判断した三成は、家を飛び出して。


「いぃぃえやすぅぅぅうう!!漸滅してくれるぅぅうううう!!!」


今回の件に関しては全く関係のない家康に八つ当たりしに行ったのだった。



(やれ、どうした三成)
(刑部…)
(…ヒッヒ、名前の裸でも見たか)
(!?)
(女吸血鬼は裸で寝る。だから起こしに行くときは注意せねばなあ)
(なっ…なぜもっと早くに言わない…!?)
(軍師殿に面白そうだから黙っていろと言われたのよ)
(は、半兵衛様…!!)


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