小説 | ナノ


  RE!×イニD 02



※86対FC前

『……』


通信教育で課せられた今日の分の課題を終わらせ、後は寝るだけとなった名前は、少々浮かない顔でミルクティーを飲んでいた。
そんな彼女の傍にはいつもどおり涼介の姿が。
啓介は妙義山に走りに行っているためここにはいない。


「どうした、浮かない顔して」


するり、と頬をすべる涼介の指。
白くて綺麗な指だけれど、男らしく骨ばっている。
次第にそれは頬から顎のラインをすべるように動いて、少しくすぐったい。


『…うん、ちょっと、ね』


「?」


言いにくそうに口ごもる名前に首を傾げる。
普段からはっきりしているわけではないが、こう口ごもるのは


「(…超直感か)」


常人である自分たちには理解しがたい力。
だがそれは確実に名前の中にあって、その力のせいで名前は狙われ、その力のお陰で幾度の困難を回避した。
これと同じものを持っている彼女の弟のことを思うと、羨ましくて仕方がない。


『…土曜日、出かけるの?』


「、あぁ。秋名に、な」


『…そっか』


「何か良くないことでも起こるのか?」


『なんていったらいいのかな…事故とか、そういう命に関わるものじゃないけど』


…ごめん、よく分からない、といって口を噤んだ名前の手からマグカップを取り上げ、テーブルの上に置く。
2人で腰掛けていたソファの上で隙間を更に詰め、上半身をぴたりとくっつけた。


『、涼介兄さん?』


「事故じゃないなら、いいさ」


蜂蜜色の頭に手を添えて、自分の身体に凭れ掛らせる。
いつの間にか息を詰まらせていたらしく、涼介に触れると名前は息を吐き出した。
啓介が出かける前に一緒にいたときはいつもどおりだったのに、涼介と二人きりになった途端にこのように浮かない調子。
名前の特殊な力を知っているのは、ここでは涼介と父親だけ。
本当は涼介も知ってはいけないのだが、生憎ボンゴレに抜擢された彼の父親は医者ということもあり名前にずっと一緒にいてやることは出来ない。
涼介も医大生ということで決して暇ではないのだが、論文などは家で片付けられるし、そうすれば名前と一緒にいてやれる。
万が一名前に何かあったとき、傍に居るのが涼介ならば何かと対処もしやすいかもしれないとの配慮だ。


「…いずれ世代交代はしなければならないからな」


『?』


走り屋の世界にそう詳しくない名前は、涼介の意味深な言葉に首を傾げる。
彼女が知っていることといえば、車で速さを競う、ということだけだろう。
たまに涼介に連れて行ってもらうだけで、そう他の人間と接触することもない。
話せたのは浩史ぐらいだろうか。
健太については涼介が接触を許さなかった。


「さあ、そろそろ寝る時間だ」


『涼介兄さんは?』


「直ぐに行くから布団を暖めてくれ」


そう笑いながらいえば、『暖房器具じゃないのに、』と少々不満そうな言葉を残して部屋に戻っていった。
もちろんお休みのキスを忘れずに。


「(86に天候は関係ない、か)」


そんなことはとうの昔に知っていたことだ。
別に今日知って驚くことじゃないし、啓介だってそれは同じだろう。
未だ止まぬ雨を大きな窓から眺めた涼介は、来る土曜日に思いを馳せる。


「(名前の超直感が外れることはないが…)」


それでも


「…負けられない」


今度ばかりは、彼女の超直感が外れることを不謹慎にも祈った自分に苦笑を浮かべた涼介は、啓介のために小さな明かりだけを残して自分の部屋に戻る。
名前も一緒に寝るためにと購入したそれは、2人が寝転がっても十分な広さを確保してくれる。
さらり、と名前の蜂蜜色を軽くすいた涼介にわずかに目を開いた彼女は、ゆるりと小さく笑って目を閉じた。
年相応とは言いがたい、どこか妖艶なその仕草に、ずくりと己の欲を掻き立てられそうになった涼介の視線は、彼女のペンダントに落ちる。
すやすやと小さな寝息を立て始めた名前は気付かないだろう。
氷のように冷たくキラキラと輝くペンダント。
その氷を融かしてしまいそうな、暖かなオレンジ色が時折灯っていることなど。


「……」


何度、捨ててしまおうと考えたことだろう。
何度、叩き割ってしまおうと考えたことだろう。


それでも、それがいつでも名前の首ににあるのは。


「……家族、か…」


いつか、彼女が本当の家族の元に戻れたときのことを考えると。
どうしようもなく苦しくて、悲しくて。


「…おやすみ、名前」


全ての感情にふたをしてしまおうと。
涼介は、いつもどおり、名前の唇に自分のそれを落とした。

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