小説 | ナノ


  僕は君だから選んだ



※この手は君を守るためにの続き

三成君と二度寝して目覚めた後。
彼が夕飯を作っている間に私は携帯をとった。


「?何かしたのか」


『お母さん達にまだ三成君のこと報告してなかったから。お父さんにもいい加減眷族決めなさいって、催促も来てたし』


「そういうのは直接挨拶したほうがいいのではないのか?」


そんな、お付き合いさせていただいていますだなんて言いに行くわけでもあるまいし…
三成君はそう呟き、キッチンに戻っていく。
自分ではさほど食べないのに、何故か料理が上手。
政宗の料理を食べてきたからそれなりに舌は肥えているのに、それでも三成君の料理は十分美味しい。
私も独り暮らしの時は自分で作って食べていたけれど、三成君が眷属になって私と一緒のマンションに住み始めてからはずっと彼が作っている。
…もしかしたら下手くそになってるかも。
女の子としてあまり好ましくない事態だけど、三成君の料理美味しいから断れなくて…。
結局、最近では料理は三成君の仕事になってしまっている。
代わりに洗濯とかは私がやっているけれど…いつの間にか手伝ってくれてたりするから釣り合いが取れていない気がしてならない。


『(やっぱりまずいよね…)』


はふ、と小さくため息をつきながら電話帳を開いて、お母さんに繋ぐ。
暫く続いた発信音の後、≪もしもし?≫と久しぶりの声を聞いた。


『久しぶり、お母さん』


≪久しぶりねぇ。元気にしてた?≫


『うん、元気だよ』


≪なら良かったわ!貴方小食だし、血も血液製剤しか飲まないから心配してたのよー≫


それから、政宗は元気か、とか、他愛もない世間話が続いた。
キッチンからのいい香りに、今夜はビーフシチューか…と頬が緩んだところで、漸く本題に入る。


『あのね、お母さんとお父さんに報告したいことがあって…』


≪なあに?≫


『私ね、』


眷属、つけたよ


私がその言葉を告げてから、何故か電話の向こう側が静かになってしまい。
あれ?と首をかしげていると、電話口の向こうから物凄い音がした。
咄嗟に耳から離したけれど、キーン…とわずかに耳が痛む。
キッチンから首を覗かせて「大丈夫か?」と聞いてきた三成君に苦笑を浮かべれば、少し心配そうな顔をしつつも首を引っ込ませた。
ビーフシチューの火加減を見なければならないから、三成君はキッチンから離れられない。


『も、もしもし…?』


再び耳がやられないように、わずかに携帯を話した状態で再びお母さんに声をかけた。
やっぱり暫く返事はなくて、勝手に決めたのはやっぱり不味かったかな、と不安になる。
でも、三成君以外の眷属なんて考えられないから、お父さんとお母さんに反対されても、私は三成君を、


≪何時、決まったの?≫


私の思考をさえぎったお母さんの声は震えていて。
でもその声が、恐る恐る、というよりは、どこか歓喜が含まれているように感じられた。
暫く会っていないけれど、長年一緒にいたのだから、この判断は間違っていないと思う。


『この前の、事件があったでしょ?その時に』


≪…その人は、≫


ちゃんと、貴方を見てくれる人?


『、ぇ…?』


お母さんの言っていることが一瞬よく分からなくて、私は間抜けな声を漏らしてしまった。
くすり、と電話口の向こうから笑った声が聞こえてきて、もう一度、今度は分かりやすいように言い換えてくれる。


≪貴方が"純血種"じゃなくても、"混血種"じゃなくても、貴方を選んでくれる人?≫


『、三成君は…』


そんなこと聞かれても、私は自信を持って"イエス"とはいえない。
三成君が私を好いてくれていることは分かっているけれど、種族がどうこう、ということは一切考えたことがないから。
もしかしたら、半兵衛さんとも、秀吉さんとも違う人間という種族だったら、三成君は…
そんなことをごちゃごちゃと考えていると、耳に当てていたスマートフォンが取り上げられる。
慌てて振り返ったそこには、エプロンを腰に巻き、シャツの袖を捲くったままの三成君がいた。


「私は、」


ぽかん、と三成君を見上げた。
三成君の手の甲が、私の頬をいつも家康君や政宗を雑に扱っている人とは思えないくらい優しく撫でる。
指先がまだ少し濡れているから、手の甲にしたのかな…。


「名前の種族が何であろうと、名前の隣にいるつもりです」


失礼します、と切られた通話。
そのスマートフォンを私に返した三成君は、ふん、と少し不機嫌そうな顔をしていた。


「名前の母親に告げたとおりだ。私はお前の種族など気にしない。例え人間だろうと、私は名前を選んでいた」


『、三成君…』


「私は地位が欲しくて、力が欲しくて名前の眷属になったのではない」


三成君の言葉に、目が熱くなる。
そうだ、彼が私の眷属になるときも


「名前を守りたいのだ…誰かの手ではなく、私の手で…」


そう、言ってくれた。


「名前、お前が欲しくて、私は眷属になることを決意した」


『っ…あり、がと…っ』


「…不安になったなら何度でも言ってやる」


スマートフォンを手に握ったまま、両腕を三成君に回せば、三成君も抱き返してくれて。
何処までもまっすぐな三成君の言葉は、いとも簡単に私を安心させてくれた。



(もしもし?)
(あ、お母さん…)
(ふふ、さっきの電話の子が眷族の子?)
(あ、うん…ごめんね、いきなり切っちゃって)
(気にしてないわ。それより、今度の休みの日にこっちに遊びに来なさいな)
(へ?)
(どんな人か気になるのよ。お父さんもさっきからそわそわしちゃってるもの)
(お父さん…)


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