小説 | ナノ


  不安が駆り立てるから



※ブルーマーズ三連戦後

思わずひやひやさせられたが、なんだかんだで勝利を収められた。
ま、当たり前の結果だが気分はそれなりに良いし、周りの連中も同じなのか、騒がしい。
どうやらこのまま飲みに行くようだが…どうすっかな…名前に会いてーけど、今日はバーでの手伝いないって言ってたしな。


「、あれ?」


素っ頓狂な声を上げた出口。
いつも以上のアホ面だな、と思うのは仕方ないことだと思う。
出口のその声の原因にはさほど興味がわかず、俺の頭の中は名前がどうしてるかだけを考えていて。
出口が俺を振り返って声をかけるまで、何を見ていたか分からなかった。


「おい渡久地ー、あれって名前ちゃんじゃね?」


「は?」


「いや、ほらあの黒髪…あんな綺麗なの俺名前ちゃんしか知らねーし…」


そう言って出口が指差した先には、確かに見慣れた黒髪と華奢な体。
誰かしらねー男が近付くが、一向に靡く気配もない。
嗚呼、間違いない。


「うわ…なんか揉めてる…」


「ナンパじゃ、」


「名前!!」


ザワザワと騒ぎ始めるチームメイトなんて気にしてられない。

そいつに、俺の名前に、


『っ、東亜っ』


「えっ、"東亜"って…渡久地東亜!?」


「こいつは俺んだから」


触んじゃねぇよ


「ヒッ…!」


ぐいっ、と名前の肩を強く引き寄せて、こいつに触っている男の手を跳ね除ける。
目を細めてちょっと睨めば、男は情けない声を上げて逃げていった。
はっ、と鼻で笑ってから、自分の腕の中に居る名前に視線を向ける。


「…球場にはくんなって言っただろ」


名前が俺との約束を破るなんてことは滅多にない。
今まででも、思い出そうとしてもそう簡単に思い出せるものは一つもない。
俺の声に顔を上げた名前は、申し訳なさそうな顔をして再び俯いてしまった。


『ごめんなさい…接触とか色々あって、怪我してるんじゃないかって…』


不安に、なって


しゅん、としたこいつの頭に垂れた猫耳が見える…気のせいか…


「大丈夫だ、怪我なんてしてねーよ」


『本当?』


「疑り深くなったな…」


『…だって、東亜隠しちゃうことあるし…』


こちらを見上げてくる名前に思わず言葉が詰まる。
…確かに、前科はある。
最近は怪我などしていないから言ったりすることはなかったが、したらしたでちゃんと言うようにしている。
なら何故ここまで気にするのか。
…まぁ、こいつの場合は仕方ないんだけどな。


「だーいじょぶだって。接触はしたけどよけたし、ボールもそんなに強く当たってねぇよ」


『…そ、か』


よかった、と安堵のため息をついた名前の頭を優しく撫でる。
ゆるりと細められた目はわずか潤んでいて、あいつらには見せらんねぇなぁ、と内心ほくそ笑む。
そんな俺の肩を叩いたのは児島だった。


「飲むのはまた今度にしよう。今日は苗字さんと帰るといい」


「あぁ、わりーな」


『えっ、私の事は別に…』


気にしないでいいから飲みにいくといい、とでも言てぇんだろうが、そんなことは言わせない。
むに、と柔らかい唇に人差し指を押し付けて、言葉をさえぎる。
視線だけでなんだと問いかけてくる名前に小さくため息が漏れる。


「さっきここで絡まれてたのは何処の誰だったかなー」


『う…』


「連投したから疲れてんだ。マッサージしてくれよ」


『…うん』


ふわ、と漸くいつもどおりの笑みを浮かべた名前の腰に腕を回す。
「じゃーな、」と軽く声をかければあいつらはばらばらに声を上げて。
名前も上半身をひねって、後ろに居る児島やあいつらに『お疲れ様でした』と声をかけた。
…相変わらず柔らけーな。



(…あれが、渡久地の彼女?)
(おー、そうだよ)
(すっげぇ美人…!)
(モデルとかやってても全然違和感ねーよな…)
(しかも清楚系…渡久地っぽくねぇけどお似合い)
(児島さんの言ってたことが分かった気がするっス)
(しかもかんわいいー!!)
(フリーになったりしねーかな)
(……児島さん、俺一つ不安です)
(…奇遇だな出口、俺も一つ不安だ)
((渡久地にこいつらの考えてることがばれませんように…!!))


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