小説 | ナノ


  春に出逢う



※三成が人間

半兵衛様と秀吉様、刑部と種族が違い、人間である私は小学と中学は違う学校に通わなければならなかった。
しかし、この学園だけは高等部から吸血鬼と共学することが出来る。
ずっと同じ学校に通うことが夢だった私は迷わずここを志望し、入学した。
私と同じように吸血鬼と同じ学園に通うことを望むものは多いらしく、倍率は他の高校に比べてはるかに高いが、それに臆する私ではない。
半兵衛様に見てもらいながらもずっと勉学に励んだ私は、この学園に通う権利を勝ち得た。
そして今日はその婆娑羅学園の入学式。
生徒会長を勤めていらっしゃる入学式での秀吉様の話は一言一句聞き逃さず記憶した。
嗚呼、流石秀吉様、いいことをおっしゃる…!


「続いて、新入生代表挨拶」


秀吉様の話を十分堪能した私は、顔も知らぬ誰かの話を聞く価値は、


『はい』


ない、そう確かに思っていたのに。
今まで聞いたことがないくらい澄み切ったその声を聞いた瞬間、私の視線は自然と壇上へと向けられた。


「っ…!!」


高い位置で一つに括られた艶やかな黒髪、海のような美しい蒼、白磁の陶器を連想させる白い肌に桜の花びらを乗せたかのような美しい桜色の唇。
漆黒の制服に包まれた華奢な体は、すらりと伸び、その頂にある顔はあまりに美しく。
私の目は完全に奪われた。


『桜の花が、』


伏せられた睫毛は長く。


「(苦、しい…)」


らしくもなく顔が熱くなるのを感じる。
目をそらせば落ち着くだろうが、視線を外すことも出来ない。
あぁ、私は、一体…!


「ふふ、どうやら三成君にも春が来たようだね」


「ヒヒッ、ようやっと主にも春か、ハル」


「春…?」


入学式での出来事を半兵衛様に話せば、何処となく嬉しそうな表情を浮かべられている。
刑部も似たような反応を見せているが…何故だ。


「三成君は見る目があるね。名前君はとてもいい子だよ」


ねぇ秀吉、と半兵衛様が椅子に座っていらっしゃる秀吉様に声をかけれれば、秀吉様も「うむ」と頷いた。


「名前は決して約束は破らぬ。人間であろうと混血であろうと眷属であろうと、等しく接する」


「それに、僕がこうして学園に通っていられるのは彼女のお陰なんだ」


「そうなのですか?」


半兵衛様の思わぬ告白に刑部と私の目が丸くなる。
「そうだよ」と柔らかい笑みを浮かべた半兵衛様の代わりに、秀吉様が詳細を説明なさった。


「半兵衛は純血種だが体が弱い。しかしそのような純血種は珍しく、薬が用意できなかったのだ」


「長い間寝たきりだったけれど彼女が僕のために薬を作ってくれてね。今なら軽い運動なら出来るくらいまで回復したよ」


「その名前とやらは、我と同じか、それとも竹中殿と同じか」


「僕と同じさ」


半兵衛様の言葉に、思わず固まる。
なんと、どうやら私は凄い相手に一目惚れしてしまったらしい…は、半兵衛様と同じ種族など恐れ多い…!


「さっきも言っただろう?名前君は種族を気にするような子じゃないよ」


苦笑を浮かべた半兵衛様だが、私にとってはそれはとても大きな問題。
種族が同じというだけでなく、半兵衛様の恩人でもある彼女に対して、私はこんな感情を抱いてもいいのかと。
不安になる。


「し、しかし…」


「まぁそれよりも、あの子鈍いからね…」


「?」


半兵衛様の言葉がよく分からない。
鈍いとは一体、と考えている私に対して笑みを浮かべた刑部はどうやら半兵衛様の言葉を理解したらしい。
どういうことだと尋ねようとすれば、それを遮るように生徒会室の扉がノックされた。
半兵衛様が許可を出された後、静かな音を立てて扉が開く。


『失礼します、』


「!」


「やあ名前君、入学おめでとう」


『ありがとうございます、半兵衛さん』


「制服、よく似合ってるよ。でも君にはちょっと堅苦しいかな?」


『ふふ、分かりますか?』


「先ほどぶりだな、名前」


『秀吉さんもこんにちは』


私の目の前で、尊敬する半兵衛様と楽しげに会話をする苗字名前。
はあぁ、う、美しすぎる…!
不躾だとはわかっていても、目をそらすことなど出来ない。
ふと、彼女が手に持っていた白い袋を半兵衛様に差し出した。


『明日からはカーディガンで来ますよ。あ、これお薬です。少し成分変えましたから、前のほうが良かったら言ってください』


「ありがとう、君の薬はよく効くからね」


がさ、と大きめのそれを受け取った半兵衛様は、そうだ、と彼女に向けていた視線を私達のほうに向けられた。


「紹介するね。銀髪のほうが名前君と同級生の石田三成君。その隣にいるのが二年生の大谷吉継君だよ」


『初めまして、苗字名前です』


嗚呼、知っている。
今朝の入学式で見てから、ずっと私の頭の中は貴方に支配されて、


「やれ三成、はよ自己紹介せよ」


「っ!、わ、私は石田三成…す、好きに呼べ」


「大谷吉継だが刑部とも呼ばれているゆえ我のことはなんと呼んでも良いが、此奴のことは名前で呼びやれ。その方が三成も喜ぶ、ヨロコブ」


「なっ、刑部!」


『じゃあ、吉継先輩と三成君、でいいですか?』


こて、と傾げられる小さな頭。
小動物を連想させる祖の小さな動きに、身悶えそうになるが耐える。
もう隣の刑部の若干呆れたような視線など全く気にならないくらいに、私は目の前の名前に溺れていた。



(やれ、名前よ)
(はい)
(主には迷惑をかけることになろうなぁ)
(へ?)
(名前君の周りをどうにかするほうが大変だと思うよ、大谷君)
(ヒヒ、やはりそう簡単にいかなんだ)
(ご安心ください半兵衛様、私はそんなことで諦めたりはしません)
(ふふ、頑張ってね三成君)
(?、??)
(名前、飴をやろう)
((皆どうしたんだろう…)ありがとうございます、秀吉さん)


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