小説 | ナノ


  苦しみの中で導いた答え




「大切な人を守れる人間、ね…」


「はは、馬鹿にしてんだろ?」


「いや、至って真面目だけど」


「目が笑ってるぞ、「らしくねぇ」って!」


「あーあー、被害妄想も甚だしいな」


「あああそんなにウザがんなって!俺泣きそう!」


「さっきまでの真面目な雰囲気何処行った」


「ふ、俺は世界一シリアスと言う言葉が似合わない男なんだぜ!」


「それ格好つけて言う台詞じゃねぇし」


「毎度の事ながら冷静な突っ込みありがとう純!」


「嬉しくねぇ…」


僕のその呟きを可笑しそうに笑うアイツ。
もし僕がもっと真面目に聞いていたなら、アイツはその答えをくれたんだろうか。
今、一番欲しい答えを。


「なあ、僕はどうしたらいい?」



チュンチュン…


あぁ、なんてこった。


「電気、点けたまま寝ちまった…」


クッションに顔を埋めていたお陰で光に邪魔されることは無かったけど、些か寝苦しかった。
まぁ、ちゃんと寝れただけよしとしよう。
昨日入りそびれた風呂の代わりにシャワーを浴びに浴室に行けば、ほんの少しだけ目の脹れた顔が鏡に映った。
そういえばクッションが濡れてたような…寝てる間も泣いてたのか。
練習までには引くだろうと楽観的に考えることにして、とりあえずシャワー。
いつもよりも熱めの湯を被れば、もやもやとした目覚めの不快感が吹っ飛んでいくような気がした。


「臆病者、か…」


彼女との関係の崩壊を恐れた男。
本編には、彼女に相談を持ちかけられ、彼女の好いた男との架け橋になった男。
そいつの心情なんて、欠片も語られてなかった。
唯一は、最後のメッセージのような物。
誰かに宛てられたものじゃない、唯自分の想いを吐き出しただけの。



「誰かの幸せを願えるのは、臆病者なんかじゃないと思うぜ」


「けどなぁ…好きな奴だったら自分で幸せにしたいと思わないか?」


僕のその答えに困ったような顔をするアイツは、カラカラとカルピスの入ったグラスに氷をぶつけた。


「それだって一つの手さ。けど、答えはひとつじゃないだろ?」


「まぁ、勿論…」


それはそうだけど、と言いよどんだ僕にアイツは笑って見せた。
いつものふざけたような笑みではなくて、心の底から優しさを滲ませるような。
あの時の哀愁に満ちた顔を彷彿とさせるようなその顔に、僕は少し悲しくなった。
その言葉を、本当はあの男にしてやりたかった。
今よりも、もっと早くに。
きっとそう思っているあいつはいつまでも引きずりながら生きて行くのだろう。
忘れようと思って忘れられる物ではないし、忘れてはならないものなのかもしれない。
僕はアイツじゃないから、アイツが一体何を思っているのかなんて事は分からないけれど、これだけは分かっていた。
僕も誰もいないとアイツは思っていただろうけれど、僕だけがアイツの寂しすぎる呟きを聞いていたから。


幸せにしたくて、自分のものにしたくて
そればっかり考えてると、本当に


悲しい生き物に、なってしまうんだろうな



「…聞いてみよう。名前さんの気持ちを」


いつまでもうだうだ悩んでいるなんて僕らしくないし、このままじゃあ試合に影響が出てしまう。
それだけは何とか避けたかったし、いつまでもこの苦しい思いをするのは、僕が辛かった。
名前さんの答えが僕の望んだものであってもそうでなくても、僕は。
彼女の想いを、真っ直ぐ受け入れられるだけの心の準備をしなければならない。


「間違ってないだろう、なぁ…」


誰でもいい。
僕のこの判断は逃げじゃないって。
誰も傷つけないためには、一番いい方法だって。
そう、言ってくれないか。



((誰も言ってくれないその言葉を、彼は自分に言い聞かせた))
(間違ってない、大丈夫)
((その言葉に、自分が一番傷付いているとは気付かぬまま))



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