小説 | ナノ


  にゃんこの日



相変わらず肌寒い冬の日。
いつもと変わらぬ時間に、隣で寝ている名前が動いた。
沖縄とは違い、遮光カーテンではない普通のカーテンからは既に朝日が零れている。
段々陽も長くなってきたな、と感じ始めた本日2月22日。
いつもと同じように、身体を起こしてから暫くはパジャマを整えたり髪を整えたりしている名前の動きが、ふと止まった。


「、?」


『っ、!?』


ふわ、ピクピクッ


重い瞼を上げた先には、頭に黒い三角を乗せた名前が酷く困惑しているようにわたわたしていた。
普段落ち着いている名前にしては珍しい反応。
寝起きで視界がぼやけているためよく分からなかったから、しょうがなく身体を起こす。
ふわああ、と欠伸をしてから、もう一度名前を見れば。


『……』


ピクッ、


「…動いてるな」


猫の耳、に見えるがそんなものが人間の頭に生えているわけがない。
そもそもそんな冗談を言うような人間ではない名前が自分でこんなものをつけるわけがないし、第一作りものならこんなリアルに動いたりしないはず。
それに、一つ気になっていることがあった。


「喋れねーの?」


名前がまだ一度も言葉を発していないことだった。
いつもなら起きて顔を合わせたら直ぐに挨拶をするのに、ベッドの上で今こうして顔を合わせていても、彼女は一向に喋ろうとしない。
ぁ、う、と小さく声は漏らしているが、いつもの滑舌のいい言葉が聞こえてこなかった。


「?どした」


わたわた、と慌てていた名前は落ち着きを取り戻し、今度はしゅん、と落ち込み始めた。
頭に生えている耳はへな、と垂れ、恐る恐るといった様子で俺を見上げてくる。
あーくそ、そんな目で見んな…襲うぞ…
暫くパクパクと動いていた唇が、漸く音を発する。


『…にゃー…』


「!」


『にゃー、なうー、なぁー、』


喉を抑えながら何度も声を出すが、それは人間のものとは程遠いもので。
必死な名前には悪いが…正直言ってかなり可愛い。
考えても見ろ、普通にしてても可愛い彼女が猫耳はやしてにゃーにゃー鳴いてるんだぞ。
これにこなかったら男じゃ、


『…ふみゃ、』


「!!」


うる、と名前の紺碧が涙ぐむのと同時に零れる弱弱しい泣き声。
ぞくりと何かが背中を駆け巡った。
それは悪寒なんかじゃなくて、もっと別のもの。


「…とりあえず、起きようぜ」


耳の生えていない部分の頭をぽすぽす、と撫でてやれば、こくん、と頷いた名前。
鳴き声を聞けないのは残念だが理性を保つにはそうしてもらったほうがありがたい。
それからいつもどおりに顔を洗って、着替えて。
朝食を終えてリビングでコーヒーを飲む頃には、漸く一息ついていた。


『み゛っ』


「熱かったか?」


『にゃー…』


いつもなら平然と飲んでいる熱さのコーヒーを口にした瞬間、小さな悲鳴を上げた名前。
見れば舌先をちろちろ、と口から出して冷やしている。
…舌まで猫舌になってしまったようだ。
その舌の動きが妙にいやらしく見える…。
気を取り直した名前は何度もコーヒーを冷やすように息を吹きかけ、俺が半分飲み終える頃から漸くコーヒーを飲み始めた。
それから暫く、自分のと彼女の手にしていたマグカップが空になったのを見て、名前の後ろでゆらゆら揺れてるそれに手を伸ばす。


『に゛ゃっ!』


ぎゅ、と強く握ったのがまずかったか、名前は朝の可愛らしい泣き声じゃなくて若干野太い声で鳴いた。
俺の手が少し緩んだ隙を見て、#name#の髪の色と同じ濡れ羽色の長い尻尾が俺の手から遠ざかる。
こういうのっていかがわしいのだと尻尾って性感帯じゃなかったんじゃねーのか?…まぁいいか。
俺に握られた尻尾をかばうように遠ざけた名前は、今日はショートパンツをはいている。
尻尾の根元がズボンの中にあるのか、酷く窮屈そうに見えるな…


「脱いじまえ、っよ」


『!?』


するっ、と名前のショートパンツを脱がす。
こいつも窮屈だと感じていたのか、ベルトはしていなかったし、ボタンも緩めていたそれは簡単に脱げた。
取り返そうと手を伸ばしてくる名前の届かないところにそれを放れば、下は下着しかはいてないこいつはそう簡単に動けない。
緑のストライプのYシャツの裾を伸ばして何とか隠そうとする名前が酷くいじらしくて、思わず口角が上がる。


「さっきは酷いことしちまったからなぁ」


『っぁ』


名前の頭にあるピクピクとしたそれに息を吹きかけるようにささやけば、びくっ、と名前の肩が跳ねた。
あぁ、どうやらこっちはちゃんと性感帯らしい。
真っ赤になった顔を見れば一発で分かる。


「気持ちイイこと、してやるよ」


『っにゃぁあああ!』


ぶんぶんと首を振りながら嫌がってるように鳴き声を上げるがそんなことは関係ねぇ。
折角こうなったんだ。


「楽しもうぜ、なぁ?」


かぷり、とその耳を甘噛みすれば、にゃ、ぁ、ぁっ、なんて甘い声が上がってきたから。
いつもどおりしなやかで細い身体を引き寄せた。



(あぁ、そうか、今日は)
(、に…?)
((猫の日、だったな))


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