小説 | ナノ


  あなたと共にいられるだけで



※ローは外科医、夢主は主婦設定です。

二人の出会いは大学生の頃、ルフィの誕生日を祝う誕生パーティーだった。
有名人であり恐ろしいほど人脈の広いルフィだったが、そのパーティーに呼ばれたのは彼と本当に親しい一部の人間のみ。
ルフィと中学からの付き合いであった名前は毎年恒例のそのパーティーに呼ばれ、そこでローと出会った。
ローはルフィとは大学で知り合ったものの、ルフィの人柄に押されるような形で仲が深まり、このパーティーに呼ばれる一員に。
それまで、名前は一方的に“ある意味で”有名な存在としてローのことは知っていても、大して興味もなかったため、初めて会った目の下に隈をこしらえた彼がローだとは知らぬまま、初めはたどたどしかったものの、次第に博学な彼と文学について話が盛り上がった。
後に自己紹介をして、彼がかの有名なトラファルガー・ローだと知った時は、『なんだか話と違いますね、』と朗らかに笑って見せた名前。
今になって彼は語る。
自分はあのパーティーで、初めて彼女を見た時から運命を感じ、あの時の笑みで見事に心臓を持っていかれたのだと。


ピピピピ、ピピピピ――…


『ん、ぅ…』


耳元で響いた目覚まし時計。
眠りの浅いローがよく眠れるようにと引かれたカーテンは遮光のものだが、わずかに開けられた隙間からは朝日が差し、部屋を微かに照らしていた。
未だに眠いと訴える頭を叱咤し、未だになり響く目覚まし時計を止めると、緩慢な動きでベッドから起き上がる。
ふわあ、とあくびを一つ零し、ベッドから降りるとカーテンをレースのものを残して全開に。
柔らかな朝日に包まれ明るくなった室内だが、光に背を向けるように眠るローが目を覚ます気配はない。
ベッドに戻り、眠っているはずなのに残る隈をなぞり、頬を撫でても僅かにまつ毛が揺れただけで起きる気配はない。
彼が眠っている間に朝食を準備してしまおう、と未だに気持ちよさそうに眠るローを残し、準備をしに寝室を後にした。


仕度を終え、微かに鼻歌を歌いながら朝食に取り掛かる名前。
ローはパンと梅干は嫌いだが、それ以外に嫌いなものは特にないため食事を作る上で不自由することはほとんどないし、名前もどちらかというとご飯派の人間であるため、趣向の違いで困ることもなかった。
みそ汁に入れるねぎを刻み、包丁を置いたところでぬっ、と両手が伸びてきて後ろから名前を緩く拘束する。
腹の前で組まれた浅黒い肌のしなやかながら筋肉のついた男らしい骨ばった手に触れた。


『おはよ、ロー』


「ふぁ…はよ…」


一通りの仕度はしたのか、既に寝間着ではないが未だに眠そうなローは、ちゅ、と名前の頬に口付けると、名前の頭に頬を押し付けるようにキッチンを見渡した。


「今日も美味そうだな」


『旦那様には美味しいもの食べてほしいもの』


「料理のうまい嫁さんで幸せだ」


『ふふ、』


「くくっ、」


ひとしきり笑いあった後、ローは離れてふぁ、と再びあくびをしながらリビングのソファに移動した。
離れて行く彼の後姿の後頭部の髪がおかしな方向にはねているのを見て、後で直してあげようと思いつつ、ふふっ、と笑ってしまった。
それから出来上がった朝食を2人で食べ、ローは出勤するために準備に取り掛かる。
基本的にもっていかなければならない荷物は、書類以外はほとんど詰めてしまうので、ローの書斎のテーブルの上に散らかっている書類さえつめれば準備は万端なのだが…。


『、あれ…?』


ローが出勤して2時間、そろそろお昼時、ローから借りていた本を戻しにきた名前は書類がテーブルの上に散らかったままであることに気づく。
いつもなら簡単にでもファイリングでもして個人情報は見えないようにしているのだが、今日は作業途中のように散らばっている。
もしかしてこれは必要な書類なのでは、と、個人情報は見ないようにしつつ本を本棚に戻していると、リビングに置いたままの携帯の着信音が響いた。


『もしもし?』


≪あぁ、名前、≫


電話の内容は、やはりあのテーブルの上の書類のことで。
今日必要な書類であるとローが言ったため、特にすることもないし届けに行こうか?と言った名前に≪いや、≫と発するロー。
そう言えば、ローの勤めている病院は知っているし、健康診断などで訪れたことはあるものの、それ以外でローに会いに病院に行ったことはなかった。
そもそもローが忘れ物をしてしまう事態珍しいことなのだが、そんな日にはシャチがわざわざ名前たちの住むマンションまで忘れ物を取りに来ていた。


≪昼飯はもう食ったか?≫


『え?あ、ううん、まだだよ』


≪なら南通りにあるイタリアン…そこで待ち合わせて、一緒に昼飯食おう≫


『抜け出して大丈夫なの…?』


≪今日は昼休憩なげぇ日だしな、問題ない≫


ローのその言葉に思わず顔がほころぶ。
平日、基本的にローは日中は病院にいるため、昼食を共にすることはないが、こうしてたまに一緒に食べられることになると、彼の休憩時間を奪ってしまって申し訳ないとは思いつつも、わざわざ時間を割いてくれているのだとうれしくなってしまう。


≪フフ、書類、忘れるなよ?≫


『一番最初に用意するから大丈夫!』


≪慌てなくていいから周囲に注意しろ≫


『もー、過保護』


≪お前はいつまでも危なっかしい≫


本当に気を付けろよ?と再び念を押されて切れた電話。
私ってそんなに危なっかしいか?と首を傾げつつも、彼に言ったとおり一番はじめに机の上に散らばっている書類をファイルにまとめ、それを丁度机の上にあった茶封筒にいれ、自身のカバンの中へ。
それから出かける準備をして、カーテンを閉め、火元の確認といつもローと共にしている確認をしっかりしてから部屋を出て、鍵をかける。
外は快晴だから雨の心配はないだろう。
もう一度ローへの届け物を持ったかどうかを確認してから、待ち合わせ場所へと歩きだした。


南通りのイタリアンの店は2人のマンションから近いところにあり、歩いて10分くらいの距離。
対してローの勤める病院は二駅先で少し距離がある。
ローに念を押されたこともあり、若干遅めの到着になったが彼よりは先に来たのかもしれない。
お一人様ですか?と店員が聞いてきたところで、大きな手が肩に触れる。


「二人だ。禁煙席で頼む」


『あ、ロー』


「かしこまりました、こちらにどうぞ」


にこやかな笑みと共に2人を先導する店員。
その後ろで、ローは肩に触れた手を彼女の腰にまわし、連れ立って歩く。


『早かったね』


「車ぶっとばしてきたからな」


『安全運転は?』


「んなヘマしねぇよ」


お前が乗ってるときは別だが、と口元を歪めたローと向かい合わせになる様に腰掛ける。
忘れないうちにと書類の入った茶封筒を渡せば、ありがとう、といってそれを受け取ったローが自身の隣に置いておく。


「なに食う?」


『うーん…パスタおいしそう』


「これか?」


『…すごい、パスタしか言ってないのに』


「くくっ、お前のことはよく見てるからな」


他には?と聞かれてサラダ、といえば、ローが手をあげて近くにいた店員と呼び止め、注文を読み上げていく。
メニューに視線を落としているからか、伏し目がちのその眸を覆うように、髪と同じ夜空の色をしたまつ毛が存在を主張する。
見れば見るほど蠱惑的な容姿をしている、と思いながらローを見ていると、そんなに見るな、と注文の終わったローが笑った。


『ローって、』


「ん?」


『…ううん、やっぱり何でもない』


「なんだそりゃ」


くつくつ、と笑いながらお冷を飲むその姿さえひどく様になって。
この人の欠点は、その難ありの性格だけだが、自分にとってはその性格さえ愛おしい。
ほんと、自分は溺れきってると思いながらも、ローが病院に戻るまでの間、穏やかな時間を過ごした。


その夜、キッチンに立つ名前の隣には、同じくキッチンに立つローの姿があった。
いつになく上機嫌な名前に、ローは小さく笑う。


「嬉しそうだな」


『うん!』


「くくっ、」


学生の頃ならば、今よりも時間があったためこうして並んでキッチンに立つこともあったが、今では社会人となり、中でもローの職業は多忙とされる医師だ。
そう簡単に時間は取れないため、こうして並んで料理をするのは、名前の楽しみとなっている。


「それ、疲れるだろ。俺がやるから名前はねぎ切ってくれ」


『ふふ、お願いします』


「任されました」


今日の夕飯はいつも以上に美味しいものになるはず。
名前はそう思いながら、額に柔らかく触れるローの唇に目を細めた。



(ん〜、おいしい!)
(くくっ、それはよかった)
(やっぱり、)
(ん?)
(ローと一緒に作った方が美味しい)
(俺は、名前が作る料理なら何でも一番うまいけどな)

To. 菜花様
初めまして菜花様!現パロの夫婦ものということで書かせていただきましたが、いかがだったでしょうか…?なかなか甘々の雰囲気が表現できずに若干苦しみました。ローの外科医設定と夢主の主婦設定をうまくいかせなくて申し訳ないと思いつつ、楽しく書かせていただきました。
改めてリクエストありがとうございました!これからもよろしくお願いします( ˘ω˘ )

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