小説 | ナノ


  020



※鳴門の世界の設定として原作と相違があります。
 1.大蛇丸が完全に死亡している(夢主が葬りました)
 2.夢主が殉職した時点で暁も始末し終えている
これらの設定が許せる方だけ自己責任にてどうぞ…!


まず何から話そうか、と自分の手に視線を落とした名前は、静かな船長室の中で、口を開いた。


『…私の里は、特殊な里でした』


「、里…?」


彼女は懐かしいものを思い出すような眸で、広大な海を臨むことが出来る分厚いガラスの向こうを眺めた。


――名前の里は、火の国にあり、木ノ葉隠れの里に近いところにある、本当に小さな里だった。
名は、神隠れの里。
アカデミーや物資の調達などといったものは、木ノ葉隠れの里で行っていた。
木ノ葉隠れの里に頻繁に出入りすることはあっても、木ノ葉隠れの里の人間が神隠れの里に出入りすることは火影の息のかかった精鋭たちを除き殆どなく、そのせいか、彼女の里の存在はそこまで知られたものではなかった。
特に迫害されることもなかった為、気に留めることもなかったが、傍から見れば不思議な里だっただろう。
なんせ、その里の人間は全員が生まれつき銀髪、もしくは白髪で、里の中の人間同士の結婚しか認められていなかった。
もし外の人間と結婚するならば、嫁に行くなり婿養子なり、神隠れの里から出ていかなければならなかったのだ。
そうして長年の間、他の里の人間の血を受け入れることなく、歴史を重ねてきた。
加えて、その里の中でも“本家”の人間と“分家”の人間と区別をされ、里の人間同士で夫婦となるならば、本家の人間は相手もまた、本家の人間でなければならなかった。
当時、まだ幼かったために詳しい事情は教えてもらえなかったため、こういった事実しか知らないのだが。


「良くそれで続いたなぁ…」


「下手したら近親婚することもあったってことだよな?」


『うん』


なぜそのようなしきたりが厳重に守られてきたのか。
普通ならば考えられないような事態でさえ発生しかねない縛りを守ってきたのは、必ずそうしなければならない理由があったに違いない。


「…なにか、血に理由があったのかもしれねぇな」


ふむ、と顎に手を当てたロー。
シャチが名前はどちらの人間だったのかと尋ねる。


『私は、本家』


「本家か…やっぱり何か役割があったのか?」


ペンギンのその言葉にコクリ、と頷いた名前。


『里には…守り神が、いた』


「守り神?」


『真の名を、知らない皆には、“大神”と、呼ばれてた』


神隠れの里が生まれたその時から、存在していると言われる偶像の存在。
名前が本家としての役割を担うまで、そう思っていた。


『本家の人間の、役目は…大神に選ばれ、器となること…』


「器…?」


神隠れの里の外にも、同じような存在があった。
それが、人柱力。
人智を超えた莫大なチャクラの塊である尾獣と呼ばれる魔獣はいかなるものにも制御することのできない存在だったが、人々はそれを生きた人間に封印することで処理しようとした。
その際の器とされたのが、人柱力。
本家の人間が担うべき役目は、それと相違ないものだった。
尾獣と同等、もしくはそれ以上の高エネルギー体であった大神を野放しにしておくことなど勿論許されないこと。
例え大神にその気が無かったとしても、大きすぎる力は破滅を呼ぶ。
本家の人間はその大きすぎる力を体内に封印し、里を守り続けてきた。
そんな強大な存在は、里の存在が然程認知されていないのと同じように、木ノ葉隠れの里においても、火影のみが知る事実だった。
――その、筈だった。


『3つの頃、選定の儀にて、私は、父の次の、器となることが、決まって』


「選定の儀、?」


『儀を受ける者が、器たり得るか、否か…それを、大神が判断する』


判断基準は、精神世界にて大神と対話し、大神の真の名を聞き取ることが出来るかどうか。


「で、お前は選ばれたと…」


『お爺様には、20歳になったとき、神遷の儀にて、大神を移すと、言われたけど…』


「けど…?」


きゅ、と唇をかみしめた名前は、わずかに眸を潤ませる。
何かを思い出しているのだろう…哀しい何かを。


『…5つの頃の、お父様の、神遷の儀…』


神隠れの里は、襲撃された。


名前が経験した選定の儀も、そして彼女の父親が器となる筈だった神遷の儀も、行われたのは初夏、梅雨の時期のとある新月の夜。
里で行われる大神に関連する儀式は、全てその日の行われることが決まっていた。
加えてその晩、里の人間は全員チャクラを練ることが出来なくなる。
もともと分家の人間はアカデミーに通っていない者も多く、戦闘向きでない人間が殆どであるが、本家の人間は必ずアカデミーに通い、里を守護するために戦う技術を身に付ける。
しかしその儀式の日だけは、どうしてもチャクラを練ることが出来なくなるのだ。
今まで何度もどうにかならないかという工夫は繰り返されてきたらしいが、結局はどうにもならず。
結果、そういった儀式の日には、木ノ葉から精鋭達が守護に駆けつけてくれるようになった。
しかし、その襲撃された日は、やけに守護の人数が少なかった。
里の人間は誰しもが違和感を抱いた。
人数はもちろんのこと、駆け付けたのは今まで一度も見たことが無い忍ばかり。
尋ねれば、全員が殉職したという。
確かに忍はいつ死んでもおかしくない存在ではあるが、果たして精鋭たちが全員死ぬなんてことが有り得るのだろうか。
それでも時間は待ってくれない、儀式は夜の間に、その夜が明けるまでに終わらせなければならないのだ。
残りの精鋭たちは後ほど到着するとの話を信じ、本家の人間は儀式に踏み切った。


それが、間違いだった。


守護に来ていた忍は、本当は木ノ葉からの忍なんかではなく。
儀式が始まって警備が手薄になったところを、一気に攻められた。


『術の使える相手と、術が使えず、身体能力が、突出しただけの、私達』


勝負は、見えていた。
加えて、殆ど大神を引きはがしていた祖父も、それを受け入れようとしていた父親も衰弱しており、戦える状況ではなく。
それが戦況をさらに明確なものにした。


そんな中、忘れもしない、せめて自分だけは逃がそうと奮闘した里の人間の背中。
その背中向こうに見えた、酷く血色の悪い顔。
ニタリと気味の悪い笑みを浮かべながら、獲物を捕食する蛇のようにギラつかせた眸は、確かに名前をとらえていた。


『皆、死にました…生き残ったのは、私だけ…』


そして彼女は、僅か齢5つにして大神の器…宿主となった。
神遷の儀には、元の器であった人間も、新たな器となる人間にも激痛が伴う。
強大な力を受け入れるため、体質が変化するのだ。
その為、神遷の儀にて唱えられる言葉には、僅かでもその痛みを軽減する効果と、宿主が意識を保っていられる程度の痛みを分散させながら少しずつ儀式を進めていく効果がある。
しかし、名前が大神の宿主となったのは里の人間が滅ぼされた後。


――里を襲撃された人間に奪われるくらいなら、自分が宿主になる


唱えられていた言葉なんて知らない。
ただ彼女が知っていたのは、選定の儀にて教えられた、大神の真の名のみ。



「大神の名を呼びなさい」


もし私達がお前から離れてしまうことがあっても、大神だけは、お前から離れはしないから



喉が裂けるほど大きな声を出した。
頭の中に、あの日、選定の儀の中で見た、白銀の美しい毛並をしたあの姿を思い浮かべて。
向こうの山の空が明るみ始めている中、響いたのはけたたましい悲鳴。
大人が気を失ってもおかしくない激痛を、その小さな体で受け止めたのだから、当然の結果だろう。
当然、痛みに耐えられるはずもなく、ひとしきり悲鳴を上げた後、その小さな体は地面に倒れ伏す。
気絶していた名前を発見したのは、彼女と一回りも年の違う幼馴染であったカカシだった。
暗部としての任務をこなしていたカカシだったが、名前の里へと向かわせた守護から何も連絡が来ないことを不審に感じた火影が里の場所を正確に把握している彼を遣わせたのだ。
名前が居るはずの里へと向かっている最中、森じゅうの空気を震わせた甲高い悲鳴のおかげでカカシは名前を発見し、保護することが出来た。
すっかり衰弱していた彼女はそのまま木ノ葉病院へと運ばれ、カカシと共に里へと向かっていた他の忍は粗方の場所をカカシから聞き、そのまま里へ。
彼らが見たのは、女子供関係なく、一人残らず殺されている里の者たち。
血に濡れ、人の肉の焼けるにおいが充満した、見るも無残な里。
何か手がかりになるものが無いかと、襲撃したと思われる人間を調べていけば、たった一人、瀕死ながらも生き残りが発見された。
すぐさま死なない程度の手当てをされた忍は木ノ葉へ連れていかれ、暗部により尋問、拷問された。
暗部の拷問のエキスパートと名高い男は、深刻な声色で、火影に告げる。
あの悲劇を生みだした、男の名を。


『大蛇丸…それが、私の里を、襲撃した張本人…』


そして、かつて、木ノ葉隠れの里にて、伝説の三忍と謳われた者の一人。
既に何年も前に里を抜けていた目的の為ならば手段を選ばぬ男は名前の里を、襲撃してきたのだ。
神隠れ里の守り神であり、尾獣のような存在である大神を狙って――。


『…復讐を、誓った』


他に、生きる気力を見出せなかったのが大きな原因だったかもしれない。
幼い名前の頭にあったのは、大蛇丸に復讐をする自分のビジョンのみ。
しかし、今の自分ではあの男には到底敵わぬなんてことは十分理解していた。
だから、力を欲した。


『忍として、順を踏めば、強くなれることは、分かってた…けど、』


時間が惜しかった。
一刻も早く力を手に入れて、あの男を殺したかった。
心に深い傷を負いながらもアカデミーを卒業し、下忍となった名前は、火影に頼み込んだ。
私を暗部に入れてほしい、と。


「暗部、?」


『…暗殺戦術、特殊部隊…通称暗部。火影…私のいた国の、トップ直轄の、組織だよ』


「…名前が綺麗な仕事じゃないって言ってたのは、このことか」


ペンギンのその言葉に頷いた名前は、話を続ける。


『何度も死にかけた…カカシにも、火影にも、止められたけど…それでも、暗部を続けた』


同年代が中忍試験を受け、上忍試験を受けたりしているのとは別に、名前は暗部にてその力を大きく伸ばしていた。
もし彼女が試験を受けたなら、上忍試験など裕に合格できるだろうという実力を、身に付けて数年。
生存率も二桁を切るような任務を任せられるようになった。
任務に向かうときは、基本的に幼なじみで同じように暗部に属していたカカシとツーマンセルを組んでいたが、それも次第に彼女単独で行われるようになり。
任務の成功率、その精密さ…何もかもが周囲から突出していた名前は異例の昇格を遂げた。
完全実力主義である暗部内だからこそだと言えるだろう。


『暗部に入隊して、10年…幼馴染が、暗部を辞めることに、なって』


火影からの願いだった。
暗部としてではなく、これからは上忍の一員として木ノ葉を支えていってほしいと。
名前は中忍試験や上忍試験を受けていないため、表向きには未だ下忍のままだったが、カカシは暗部入隊の前に上忍の試験に合格しており、表向きにも既に立場は上忍であった。
その為、暗部としての仕事が無いときは上忍として活動し、名前が単独で任務に出ることが殆どとなった頃は、カカシ自身も暗部として召集されることは滅多になくなっていた。
火影にはカカシに任せたい任務があったため、良い機会だと判断して彼を暗部から外した。
それと同時に、名前は暗部総隊長へと昇進。
実質、暗部のトップにのし上がった。


「暗部総隊長…」


『…それまで以上に、任務に、明け暮れた』


元々、長期任務もこなしており里を開けていることも多かったが、さらに多忙になり、家にはほとんど帰らなくなった。
一人になりたいからと稼いだ金で購入した家だったが、いっそその家を手放してしまおうかと考えたほどだ。
カカシにそんなことを零せば、じゃあ俺が名前の借り家に住む、と言い出した。
カカシも多忙ではあるが、自分ほど里を開けているわけではないし。
二人とも一般人とは比べ物にならないほど稼いでいるのに、二人で住んだ方が安上がりだなんて可笑しなことを考えたりして、結局、自分が里を開けている間、カカシに家を任せるようになった。


「…ちょっと待て、それって同棲か…?」


『?同棲…同棲って、いうよりは…同居…?』


「然程変わんねぇだろ!しかも男女だし!」


『でも、別に、付き合ってたわけじゃ、ないし…』


男女の関係ではなくて、兄妹のような関係だった…やっぱりあれは同棲ではない、と自己完結した名前は、話を続ける。
自分が総隊長になってから、様々なことがあった。
カカシが九尾の人柱力やうちはの生き残りの担当になったこと、大蛇丸による木ノ葉崩し、三代目の死、暁の出現、第四次忍界大戦…。
一つひとつ上げていけばきりが無い。
暗部に入った理由は、大蛇丸に復讐するために、一刻も早く力をつけるためだったけれど…任務で様々な地に赴き、多くの人と関わり、火影やカカシの話を聞く中で、僅か乍らの変化があった。
勿論大蛇丸への復讐を止める気はなかったが、そんな私情のためだけに培ってきたこの力を、里のために使おうと思うようになったのだ。
今更いい人ぶろうと思ったわけではない。
それでも私は、血に塗れることで何かを守ることしか、分からなかったから…私は私なりのやり方で、里を守ろうとした。
もう、自分のような思いをする人間が現れることが無いように――


『結果として、大蛇丸を、この手で殺し…忍界大戦にて…私は、殉職しました』


それからは、ローさんやペンギンに話した通り。
ふぅ、と少し疲れたように溜息を吐き出した名前は、すっかり冷えてしまったカフェオレを手に取った。



(こくり、と喉を流れたカフェオレは)
(酷く、冷たかった)


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