小説 | ナノ


  誓いは唇に、想いはこの手に



人気新人作家、苗字名前。
天才外科医、トラファルガー・ロー。
公私ともに人気の高い彼らを悩ませるイベントの一つが、今年もやってきてしまった。


「っつーわけで、これ、今年の分っす」


『……シカマル、』


「いやっすよ…すでに俺も名前さんの分2袋引き受けてるんすから…!」


『ぐ…』


それじゃ!と名前の書き上げた原稿を片手に逃げるように名前(とローの)家を後にしたシカマル。
いつもならば彼女お手製のお菓子をお供にお茶をしていくのが普通なのだが、ここに拘束されたらこの目の前の大量のチョコレートの消費に付き合わされるということを察してしまったのか…ぽつん、と玄関に佇む名前は足元に置いていかれた大量の袋に視線を落とした。
どこかの高級品店のものから、恐らく手作りと思われるラッピング、大量の板チョコ…彼らは鼻血を出させるのが目的なのだろうかと疑ってしまうほどチョコレートがひしめいていう。
いつまでもそれを見下ろしているわけにもいかないのだろうが、何せ此処まで量が多いと一体どうすればいいのやら。
はぁ、と溜息を吐き出した名前に、後ろからのしっ、と何かがのしかかって来た。


「ふぁ…なーにやってんだ」


『、ロー、起きた』


「おー」


むにゃむにゃ、とまだ眠そうではあるが、受け答えはしっかりしているからそのうち眠気も覚めるだろう。
後ろからのしかかってきているローをそのままに、再びチョコに視線を落とし、どうしようか、と考える。


『(お店の奴は一応確認して…手作りは……)』


「おい、手作りのは食うなよ」


『、へ?』


「…忘れたわけじゃねぇだろ」


落としていた視線を上げれば、こちらをのぞき込むローの端正な顔。
まだ少し眠そうではあるが、その眼光は鋭さを帯び始めている。
ローのその言葉にぐ、と口を噤んだ名前の頬をするり、と滑るローの指。
そのまま包み込むように手の形を変えたかと思うと、細い顎と首へとその指を這わせる。
くすぐったくて反射的に体を捩ると、もう片方の腕が体を拘束してきた。


「…もう、あんな思いをさせたくはない」


『ロー…』


「大学の頃でさえあんなことがあったんだ…顔の知れねぇ相手から貰うのは危険だろ」


『…ん、』


純粋に想いを伝えるようなものもあるだろうが、中には悪意や、行き過ぎた好意が込められたものも含まれている。
苦い経験を経て、それ以来手作りは極力受け取らないようにしているし、それを知っている知り合いは彼女に既製品を送るようになった。
手作りのものを送るのは、長い付き合いがあって絶対的な安全が保障されているナミやビビ、ロビンやシェフであるサンジくらいだ。


『板チョコは…どうしよ…』


「チョコフォンデュでいいんじゃねぇか?」


『チョコフォンデュ?』


「あぁ」


『そんなにフルーツ、あったっけ』


「何もつけるのはフルーツだけじゃねぇだろ?」


『…?』


その時はクッキーとか、そう言った類のことを言っているのだと思った。
しかしローの言葉が指していたのがそれとは全く別物であると思い知らされたのはその日の夜、軽い夕食を済ませた後に待ち構えていたチョコフォンデュの時間だった。


『ちょ、ロー、!』


「なんだ?」


『なんだじゃ、ん、ぅ、』


まずはスタンダートな苺から、とトロトロに溶かされたチョコに苺を浸したものを口に運んだ名前の唇をすぐさま奪いにかかったロー。
完全に夜の雰囲気を孕んだ口付けに若干流されかかった名前の視界の隅に映ったのは、とろりと溶かされたチョコレートの海へと突っ込まれたローの指。
ちゃんと手を洗ったし、決して彼の手が汚いわけではないがフォンデュの中に手を突っ込むのは頂けない。
ぷはっ、と解放されたその唇でローを咎めるような声を上げた名前のその口に、チョコに塗れたローの指がくちゅ、と侵入してきた。
流石にチョコをそのままにしているわけにもいかず、そろり、と伸ばした小さな舌でローの指に絡みついたチョコを舐めとっていく。
決して強制されたわけではなく、自分でそんなことをし始めている自分が凄く厭らしい人間に思えて、羞恥に顔を染めながらも舐め続ける名前。
ローは自分から顔を逸らしながら、もごもごと小さな口の中で舌を拙く動かす名前にぞくり、と背筋を震わせた。
こくん、とチョコを含んだ唾液を飲み込んだ名前の上顎を褒めるように擽ってやれば、びくり、と体を震わせる。
キスをするときも上顎をなぞってやればあっという間に顔を蕩けさせるのだ…きっとここも彼女の性感帯。
ちゅるっ、と小さな口から指を引き抜けば乱れた息を整える名前。
そんな彼女を待たず、ローは上に着ているニットの下へと手を侵入させ、薄い腹に触れたかと思うと、そのまま上を脱がせてしまった。
ニット系のふわふわしたものと、ぴっちりしたものではなく、ぶかっとしたサイズに余裕のあるものを好んで着る傾向のある彼女のそれを脱がすことは容易い。
あっという間に上半身は下着一枚になってしまった名前は展開についていけていないようで、一瞬きょとん、とした後、胸元を両手で隠して金色で彼を睨み上げる。
しかし、完全にスイッチの入っているローにとってはそれは煽りの材料にしかならず。
顔を逸らそうとする名前の顎をとらえて唇に噛みつきながら、ぷちっ、とブラのホックを外してしまう。


『ん、…ちゅ、』


「フフ…大人しく食われとけ」


『ま、さか…』


ローのキスに蕩け、体から力の抜けた隙をついて、ブラを奪って遠くへ投げてしまうロー。
自身のパーカーも脱ぎ捨てたローに胸元を隠している腕を片手で頭上にまとめ上げられれば、彼がこれからしようとしていることは嫌でも分かって。
顔を真っ赤にして震えている名前を見下ろしつつ、ローが伸ばした腕の先には先ほど彼が指を突っ込んだチョコフォンデュ。
手で器を形作り、器用に掬い上げた分を名前の美しい形をしている胸の上へ。
垂れては困るからと、まるで塗り込むようにチョコを伸ばすその手は厭らしい動きを繰り返す。
両手を使うために拘束は外れたが、胸を弄るその指に抵抗するだけの力は奪われてしまった。


『ふ、…ぁっ』


「くく…」


柔らかな全体を揉み上げ、まるで擦り込むように頂を執拗に弄る。
捏ねたかと思えば擦られて、弾かれて。
初めは咎めるようにローの胸を押していたが、次第に縋るように、彼女のよりもずっと厚みのあるその肩にかけられた名前の小さな手。
名前の好きな強さで、好きな刺激の与え方で。
ぴくっ、と体を震わせるたびに手にはいる力が強くなるのに小さく笑うと、今度はチョコに塗れた胸元に顔を寄せて。


『ひゃっ、』


べろりと舐め上げた。
柔らかな胸に舌を喰いこませながら、頂を避けてチョコを舐めとる様に舌を這わせていく。


「フフ…甘ェな」


『は…ぁあっ、』


きっと名前に触れたから、こんなに甘ェんだ。


甘いものは苦手なはずなのに、名前に触れたチョコを流してしまうなんてもったいないことはしない。
粗方舐め終えたローの舌は、ついに期待に震え、立ち上がっている頂へ。
はむ、と、まずは歯を立てずにやわやわと唇で挟み込む。
名前はこれが好き、ということをすでに把握していたローは、歯を立てずに頂を銜え、引っ張ったりして刺激を与えた後。


――かりっ、


『あぁっ!』


突然、軽く歯を立てる。
名前はこういった突然の刺激にも弱い。
塗られた分のチョコは舐めとったはずなのに、なんだかチョコの風味が残っているような気がして思わずいつも以上に執拗に舐めまわしてしまったせいか、ちゅっ、とローが離れた名前の胸の頂は、いつもより赤く腫れている様に見えた。


『うぅ…はずかし……』


「くく、そう恥ずかしがるな」


くったりと力の抜けた体をソファに預けている名前の上に跨っているローは、テーブルの上の濡れタオルで手を拭い、今度は彼女のショートパンツに手を掛ける。
顔を赤らめながらもその行為を止めたりなんてことをしない名前の目元は赤く染まっていて、それが扇情的に見えてならない。


「…抱くたびに色っぽくなってく」


『っ…』


「あぁ隠すな…いいだろ、見るのは今もこの先も俺だけなんだから」


嬉しそうにくつくつと笑ったローは、羞恥で今にも泣きそうな表情を隠した名前の細腕を掴んでどかすと、額、目元、頬、鼻先、唇、と短いキスを落としていく。
ローに捕まれていた腕から力を抜けば、それが伝わったようで、ローも腕を離した。
そのまま腕を下に持っていって、途中だった彼女のショートパンツを脱がせる作業に戻る。
名前は離された腕をローの首と頭に持って行って、くしゃり、と彼の髪を掻き撫でながら短い口付けを繰り返した。
ぱさり、と床に落とされたショートパンツとショーツ。
細い足を包み込んでいるサイハイソックスはそのままに、ローはもう一度深く名前の唇を奪うと、首筋や鎖骨に、ちく、ちく、と小さな痛みと共に痕を残す。
名前の白い肌に映えるそれを満足そうに見つめると、鎖骨、胸、その頂、あばら骨、腹、内腿、と短く吸い付く。
ローを挟み込んでいる状態の細い脚は、大きく開かされている脚を閉じようと動くが、その間にいるローがそれを許さない。
名前の体が柔らかいのをいいことに、大きく足を開いて、一度離れた体を再び彼女に接近させる。
テーブルに伸びたローの腕は、今度はチョコを掬うのではなく、融けたチョコの入っている入れ物を掴んだ。


『ぁ…だめ、ソファ…汚れちゃう…』


「大丈夫…一滴も無駄にしねぇよ」


そう笑ったローは、徐々に傾けられる入れ物に目を閉じようとした名前に「見てろ、」と言って目を開かせ、その光景を焼き付けさせた。
傾けられた容器からこぼれた深い茶色は、名前の白い身体を汚していく。
じゅるっ、と生々しい音を立てながら、ローの赤い舌が名前の身体を這いまわる。


『は、ぁ…ろー、』


「ん、」


名前がローに向かって伸ばした手。
ローはその指に自分の指を絡めて、ぎゅっと握った。
それに安心したように顔を緩めた名前は、ローから与えられる快楽に素直に身を任せ、その奥に欲を孕ませた金色を、涙で滲ませた。
涙でぬれた白銀の睫毛がきらりと光る様が、ローの唾液に濡れた白い肌が、ふるり、と震える淡い桃色をした頂が――何もかもが美しくて。
このまま、融けたチョコみたいに2人融けて、混ざり合えたら。
離れ離れになることが無いように、一つに成れたならいいのに。
去年のバレンタイン、そんなことを言ったローに、私はやだ、と名前が笑った。
私達は別々だから、愛し合えるのだと。
きっと一つに成ったら、愛し合うことを忘れてしまうと。
一緒に居ることが当たり前になれば、それほど幸せなことはないかもしれないけれど、想いを忘れてしまうほど、悲しいことはないのと。
だったらこのチョコが、一生くっつき続けてくれる接着剤になってくれたら。
いや、二人を隔てるものなら、それがたとえ二人をくっつけている接着剤としても、やはり邪魔なものに変わりない。
ならば、


「(俺とコイツを、包み込んで)」


そのまま固まってしまえば、いい。
決して壊れることのないそれに閉じ込められたとしても、名前と一緒なら、それは苦痛では無く幸せに変わるから。



(ふにゅ…こし、いた…)
(くくっ…美味かったぜ?)
(…なんか、もうしわけない…)
(食ってもらっただけ感謝してもらいたいぐらいなんだが?)
(…(ほとんどローが食べちゃったじゃない…))
title:識別

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