小説 | ナノ


  014



その日の夕食。
この島にいる間は酒場にはいかないということになっていた為、ほとんど全員が船に戻って来た。
名前が船に戻ってくるときに一緒に戻ってきたペンギンは一度念のためにと再び情報収集に出ていたために一番遅い帰りとなった。
コックであるクジラと共に準備に追われていた名前が解放されたのは、皆が食事をとり終え、その食器を洗い終わった後。
ローとペンギンによって大量に買い込まれた服は、一部はローの部屋に新たに備え付けてもらったクローゼット(船大工のシュモク作)に入れてあるが、それでも入りきらなかった分は、ローの医学書類が保管してある倉庫の中に入れさせてもらっている。
明日、何か巻き物のような物を買って収納しようかな、と考えながら手を拭いていると、シャチにこっちこっち、と、甲板の方に手招きされる。
?、と首を傾げるものの、いいからいいから、と笑みを浮かべながら腕をとられ、そのまま彼についていくと。


「「「俺達からのプレゼント!」」」


『!?』


がちゃり、と、少し重い扉が開けられるのと同時に飛んできたクルーたちの声。
そんな彼らの中心には、山のように積まれたプレゼントが。
驚きにただ呆然とするしかなかった名前の頭に、ぽん、と手が載せられた。


「あいつら、相当嬉しいんだよ」


『、ペンギン』


「今までずっと男所帯だったからな。妹みたいな存在が入ってくれてうれしいんだろう」


受け取っておけ、と口元に笑みを浮かべているペンギンからも、プレゼントが渡された。
そんな、昼間にあんなに山のように服を買ってもらったばっかりなのに、と申し訳なさそうな顔をした名前だったが、遠慮するなよ、とクルーたちが口々に言う。


「これから一緒に航海していく仲間だろ?」


「俺名前に似合いそうな服買ってきたんだー!今度着てくれよ!」


「あと帽子!持ってなかったよな?船長とお揃いの柄探すの大変だったんだぜ?」


「おー、反転色のか。お前よく見つけたなー」


「へへ、まぁな。なかったらオーダーメイドにする予定だったんだけどよ」


「俺はこっち!消耗品がいいと思って、ノートとかの文房具な!」


「俺からは化粧品!バタバタしすぎて持ってきてないだろ?」


「俺髪留!名前髪長いしな!きっと白銀の髪によく映えるぜ!」


わいわい、と、ブレゼントの内容を嬉しそうに、楽しそうに報告するクルーたち。
開けてからのお楽しみじゃなくていいのか、と苦笑するペンギンが、黙ったままの名前へと視線を戻すと、そこには。


『……っ、』


「名前?」


『、ごめ、…』


うる、と金色を涙で滲ませている名前。
片手で口元を抑えたかと思うと、ぐすぐす、と鼻を鳴らし始めてしまった。
涙を流さないようにしているのか、ぱちぱち、と瞬きする回数も多い。


「名前?」


「おい、大丈夫か?」


「具合悪いのか?」


『ち、ちが、』


「おい、何泣かせてんだ」


後ろから、まわされた腕に引き寄せられる名前。
とん、と背中に当たった温もりは、ローのものだった。


「せ、船長っ、い、いや、俺達は泣かせるつもりなんてっ、」


「ぎゃー!バラさないでー!」


「うるせぇ」


『まって、ローさん、』


持ち上げかけた手を抑えて、名前がローを見上げる。
その拍子に、目じりからポロリ、と涙がこぼれていくのを見て、ローが親指でそれを拭ってやれば、猫の様に目を細める。
そのままするり、と頬に指を滑らせれば、少し戸惑いがちに名前が口を開いた。


『久しぶり、だったから…その、嬉しくって、』


「久しぶり?」


『こう…沢山の人に、祝ってもらうの』


へにゃ、と笑って見せた名前は、どこか懐かしい、けれども哀しい色をその金色の奥深くに秘めていた。
隠す気はなかったのか、ローがそれに気付くのは容易く、思わず彼女を抱いていた腕の力が弱まる。
その隙にと、するりとローの腕の中から抜け出した名前は、涙を拭って、未だに心配そうに見つめるクルーたちを見た。


『ありがとう、ございます。大事に、するね』


猫の様に目を細め、桜色の唇は弧を描き、頬は嬉しさからか、紅潮している。
長くはない付き合いだけれど、今まで見た中で一番の笑みでそう言った名前。
クルーたちは、その心が温まるような笑みを見て、照れ臭そうに笑った。


「開けてみてよ!」


ベポに腕を引かれ、プレゼントのところまで連れて行かれる名前。
あっという間にクルーたちにもみくちゃにされてしまった名前を、ローは雪空のような眸で見つめた。


「ひさしぶり、か」


「、ペンギン」


「まだ、何か抱えてるんだろうな」


「…俺たちが聞いたのは…忍の事、だけだったか」


「多分それ以外にも何かあるんだろ…聞けば、忍は向こうじゃポピュラーらしいしな。それが原因とは考えられない」


「…そうだな」


出逢って数カ月は経ったが、全てを曝け出して、腹を割って話すにはまだ時間がかかりそうだ。
まぁいい、時間はまだある。


「グランドラインに入ったばかりだ…焦る必要はねぇ」


「、そうだな」


名前が抱えているものが一体何なのかは分からないが、きっと、自分たちが思っている以上に重いものを背負っていたのだろう。
ペンギンが名前とともに船に戻ってきた際、彼女が幻滅されるのではないかと、ローたちにとっては無駄な心配とも取れるようなことを言っていたとの報告も受けている。
心の準備が出来たなら、ペンギンにはローと共にその話を聞いてほしいとは言っていたが、其れが成されるのは直ぐなのか、はたまたずっと先なのか。
見当もつかねぇな、と心の中で溜息を吐き出したローは、クルーにもみくちゃにされているせいで、その姿の見えない名前の後姿を思い浮かべた。
ハードな働きを要求される忍とは思えないほど華奢な体、そんな彼女が背負っている、大きな闇。
その細腕で、小さな背中で、狭い肩で、何かを抱えて、鹿みたいに細い足で必死に踏ん張って。


「(お前がもう、死んでいるのだというなら)」


いい加減、全部下ろしちまってもいいんじゃねぇか?
お前が抱えてるもの、全部。


もし、下せないものが、捨てられないものがあるというのなら、


「俺が一緒に、背負ってやる」


「、何か言ったか?」


「…いや。部屋に戻る。もらったやつはとりあえず倉庫に入れて俺の部屋に来いと名前に伝えろ」


「アイアイ、船長」


ペンギンのその返事を聞き届けたかどうかも曖昧なほど、ローはそう言い残すとコツコツと足音を立てて甲板を後にする。
特に機嫌が悪いわけでもなさそうだから、少し位遅くなっても問題はあるまい。
ペンギンはまだ、もう少し時間がかかりそうなクルーたちを見遣って、「大分打ち解けてきたな」と名前の小さな笑みを見て、少し安心したように笑った。


『(泣くつもり、無かったのにな)』


もうそろそろ風呂の時間、ということで、シャチやベポ、ペンギンに手伝ってもらって、受け取ったプレゼントを倉庫に運び込んだ名前。
ほんとにありがと、という名前に、次第にデレデレとし始めたクルーにさっさと風呂に行けと指示をしたのはペンギンだった。
どうやら彼女の教育上よろしくないと判断したらしい。
教育だなんて、そんな年じゃないという名前はさておき、よろしくないとはなんだ!!と反抗するクルーを一睨みで大人しくさせてしまうほど、ペンギンの眼光は鋭かった。
また明日なー!と声をかけることを忘れずに退散していった彼らの背中を見送った名前は、今現在、二人と一匹に運ぶのを手伝ってもらったプレゼントを整頓していた。
開けるのは明日にすることにしたらしい。
倉庫から出ていく間際、ローが呼んでいた、とペンギンが告げたため、整頓する手はどこか急いでいるようにも見える。
そういえば誰かが文房具を贈ってくれたっけ、と思い出し、明日にでも収納してしまおうと考えたところですべての整頓が終わる。
倉庫を後にし、すぐ隣にある船長室をノックする。


「名前か?」


『、うん』


「入れ」


ローのその言葉を聞き届けてから扉を開けた名前。
ソファに腰掛けて、膝の上に医学書を載せているローは、呆れたような視線を彼女に向けていた。


「ここはお前の部屋でもあるんだ。ノックなんて必要ねぇよ」


『、でも、ローさん、嫌じゃない?』


ぱたん、と医学書を閉じたローは、それをローテーブルの上に置く。
帽子は作業用の机の上に置かれており、今はツンツンとした髪が見えている状態だった。
ちょいちょい、と長い指を曲げることで名前を呼び寄せたローは、そのまま彼女を自分の隣に座らせたところで、「なにがだ?」と聞き返した。


『今さらだけど…その…いきなり、同じ部屋、なんて…』


長い付き合いがあるわけでもないし、ましてや、恋人だなんて特別な間柄でもない。
誰にだって個人的なスペースとやらは欲しい筈だろうに、ローはいきなり乗せることになった(と言ってもローが強引に乗せたのだが)名前を、何食わぬ顔で自分の部屋で過ごさせている。


「俺がそんなことを我慢する性質だと思うか?」


そう言われると何とも言えない。
過ごした時間は決して長くはないが、元々洞察力や観察力に優れている忍なのだ。
彼の考えていることは分かりにくいことはあるが、その性格は大体把握してしまっている。


――彼は自分を捻じ曲げてまで、現状に満足しようとする男ではない――


『……』


「無言は肯定、だな」


にや、と口角を上げたローは一度立ち上がると、ごそごそ、と机の引き出しの中を漁り、何かを手に再びソファに戻って来た。
?、と首を傾げる名前に動かないように言い、「ROOM、」と言って能力を発動させた。


「シャンブルズ、」


『っ、』


ローのその掛け声と同時に、首筋にヒヤッとした何かが触れる。
触れればどうやらネックレスのようだが、チェーンが短いせいで、上手く見ることが出来ない。
立ち上がって、近くの窓を鏡代わりに見てみると。


『、ハートの、ジョリーロジャー…?』


まるでパズルのピースのような形をしている盤に彫られた、どこか一風変わった形をしているハートのジョリーロジャー。
真新しい黄金色、というよりは、どこか鈍色に近く、ローの付けているリングピアスの色とほとんど同じ。
くるくる、とチェーンを回してみたが、不思議なことに留め具が無い。


「フフ…留め具はねぇよ」


『!』


「外すなよ。何があってもだ」


有無を言わさぬその手が、満足そうにチェーンに指を引っ掻けて、くいっ、と軽く引っ張る。
名前によく似合う細めのチェーンだが、頑丈なようで軋む様子はない。


「俺からの祝い品だ…これからよろしくな」


『、アイアイ、キャプテン』


こちらこそ、という意味も込めて、ベポの真似をして見せた名前。
ローは満足そうに笑うと、刻まれたハートのジョリーロジャーをもう一撫でした。



(そう言えば、ローは何か用意しているのか?)
(あぁ…シャチが態々伝えに来たしな)
(…アイツは、全く…)
(くくく…言われなくても準備してたってのに)
(!)
(、?なんだ、その顔は)
(いや?)
((ローが女に贈り物か…ねだられて買うことはあったが…))
((まさか、既に準備してるなんて、な))


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