小説 | ナノ


  魂喰×進撃



死武専の中に設けられた死神の部屋、デスルームの中に浮かぶ鏡の一つの奥の空間。
死神の力により実現しているその空間には、燕尾服のような黒のノースリーブジャケット、中には白のノースリーブブラウスを着ており、黒のネクタイが綺麗に締められ、すらりと伸びた下肢はホットパンツと、ピンヒールとサイハイソックスが一体化したような不思議な靴に包まれている一人の女性と。
そしていつものふざけた仮面を外し、素顔を晒している死神がいた。
死神は疲れているのか、ふかふかのソファに腰掛けた彼女の太ももに頭を載せ、小さな寝息を立てている。
彼女は片手に本を持ちながら、白いラインの入った彼の髪を優しく梳いていた。


「…、ん…」


『、お目覚めですか?』


「名前…どれくらい寝ていた」


『2時間程度です。生徒が報告する様子がなかったので起こしませんでした』


「ん、助かった」


ちゅ、と頬に感じる短いぬくもり。
それに小さく笑った名前と呼ばれた銀髪の、赤い眸をした美しい女も死神の頬にその艶めかしい唇を寄せた。


『あまりご無理をなさらぬよう…』


「あぁ…分かっている」


二人きりのその空間に、確かに穏やかな空気が流れていた。
それから幾日か経った頃、名前は図書館にいたのだが、シュタイン伝手に、死神様が呼んでいるからデスルームに行く様にと言われる。
何事だろうと首を傾げる彼女に後ろから抱き付こうとしていたシュタインを持っていた本で沈めるも、表情一つ変えずにピンヒールを廊下に響かせる。
昼休みのため、すれ違う生徒たちが名前に元気にあいさつをしてきた。
滅多にデスルームから出てくることのない彼女に会えるのがうれしいのだと、その表情にありありと滲んで見て取れるが、残念ながら彼女が気づく様子はない。
小さく笑って返事をしながら歩き、辿り着いたそこに足を踏み入れる。


『、スピリットさん』


「ひっさしぶりぃー!」


また美人になっちゃってー!と叫びながら飛びつこうとしたスピリットを襲う2つの衝撃。
死神の脳天直撃死神チョップと彼の愛娘であるマカから仕込まれたマカチョップ、この場合は彼女が繰り出しているので名前チョップと言ったところだろうか…。


『そんなんだから離婚されるんです。いい加減学習したらどうですか?』


「ぐはっ!心に刺さった!相変わらず俺に辛辣だな名前!」


『自覚があったんですね。それならまだマシです』


未だにぎゃいぎゃい騒いでいるスピリットから視線を外し、死神に視線を向ける。
その顔にはいつも通り、表に出てくるとき専用の仮面がされており、彼の表情は読めないものになっていた。


「ごめんねぇ本借りてたのに。1冊しか借りれなかった?」


『大丈夫です、読み終わったらまた行けばいいだけですので』


「…名前、ホント死神様と俺の扱い違い過ぎるだろ」


『どうしてスピリットさんの扱いを死神様と同じにしなきゃならないんですか?』


至極不思議そうに尋ねる名前のその視線に再びダメージを食らったスピリット。
学習しないなと呆れつつも満更でもなさそうな様子の死神は、早速だけど、と話を切り出す。


「名前ちゃんにはね、“異世界”に行ってほしいんだ」


『、異世界、ですか?』


きょと、と首を傾げる。
スピリットなら何か知っているだろうかと思ったが、彼は未だに彼女から食らったダメージに蹲ったままだ。
直ぐに使い物にならないと判断した名前は、その赤い眸を死神に向ける。


「そ。どうやらいろいろ事情はあるみたいだけど、あんまりにも彷徨っている魂が多いみたいでねえ…中には鬼神の卵になっちゃったのもあるみたいなんだ。本当は人海戦術でいっぱい送り込めたらいいんだけど。それじゃあ世界のバランスが崩れちゃうだろうし」


『彷徨っている魂ですか…』


「そ。普通の量だったら問題ないんだけど、なんせ多くて自然魂送が行き詰まり状態。だからね、君に頼もうと思って」


『死神様の命とあらば』


「うんうん。ありがと。ホントは行かせたくないんだけど、一人で戦えるの、ウチじゃあ名前ちゃんだけだからさ」


ジャスティンも一人で戦える武器だったが、彼は死武専を裏切った。
今は一体どこで何をしているのか、生きているのか死んでいるのかさえ、消息は不明のままである。


『善人の魂は回収。鬼神の卵と化した魂は食べても構いませんか?』


「うん、全然オッケー」


飄々としてつかめないその口調。
鏡の中で2人きりの時とは全く違うそれにも文句ひとつ言うことなく、名前は了承したとばかりに頷く。


「制御の魔法具、あんまり外しちゃだめだよ?周りがびっくりしちゃうからねぇ」


『承知しております』


「あと、軽く下見はしたけど…名前ちゃんを扱えそうなのは一人だけかなあ」


「わ、いるんですか扱える奴」


驚いたような表情を浮かべているのはいつの間にか復活したスピリット。
どうやら死神の話によると、彼は人類最強と呼ばれ、英雄視されているらしい。
さほど興味がないのか、はあ、と曖昧な返事を返して流した名前に、無関心だなー、と声を上げるスピリット。


「向こうでのパートナーになるかもしれねえんだぞ?もうちょっと関心持ったらどうだ?」


『パートナー、ですか…死神様やシュタインさんとしか組んだことがないんですけど大丈夫ですかね』


「あー…どっちも扱いが上手えっつうか、名前は扱いにくいもんなあ」


スピリットのその言葉に少しムッとした名前。
ふい、と視線をそらすと、唇を若干尖らせた。


『合わせようと思えば合わせられます。疲れちゃいますけど』


「ふはっ、可愛いっ!」


んっちゅー!と唇を尖らせながら再び飛び上がったスピリットの脳天に、先ほどよりも強力な死神のチョップが食い込む。
ぴゅー、と噴水のように噴出している血液から視線をそらし、名前は死神を見た。


「魔法具をはずちゃダメとは言ったけど、まあ、君の判断に任せるよ。魔法は使ってもいいけど、あまり大っぴらはダメだよ?」


『はい』


「あと、寄ってくる虫は容赦なく叩き潰しなさいね」


『虫?』


「スピリット君みたいのだよ」


いいのだろうか、と頭の中で試案はしたが、死神がいいというのだから問題ないと自己完結した名前は、するすると頬を滑る死神の大きな手に眸を細める。


「一日一回は必ず連絡すること。必要なら巨人の討伐に武器化してもいいよ」


『連絡の件承りました、が…巨人?』


「あぁ、言い忘れてたね」


君がこれから向かうのは、


「人と巨人が戦う世界だよ」


***
夢主ちゃんはひたすら死神様至上主義です。しかしそこに恋愛感情はありません。
あくまで尊敬、安心して背中を預けられるという絶対的な信頼で2人の関係は成り立っています。
夢主設定
銀髪赤眼の美人さん。服装は記述通り。スピリットに対して辛辣な死神様至上主義者。死神様の父親が幼いころに保護した武器で、職人の想い通りの形状に変化することが出来る。死神様がキッドくらいの時に武器としてパートナーを組んでおり、死神自身がデスサイズとした唯一の武器。威力が強いだけに扱いが難しく、使いこなすことが出来るのは今のところ死神様とシュタインの2人だけ。現在は正式なデスサイズをスピリットに譲っているが、死神が最も力を発揮することが出来るのは夢主が武器化した時。

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