小説 | ナノ


  011



リヴァースマウンテンを越え、無事グランドライン入りしたハートの海賊団。
気が緩んだところに賞金首が潜んでいて直ぐに襲われるかと思いきや、そう言う訳でもなく。
まさか山を登るなんて現実的には考えられないような光景を目の当たりにした後は、比較的順調な航行を続けることができた。
そして、航海士であるペンギンの話では、グランドラインに入って初めての島、ノーマス島へもうじき到着するとのことだった。


『ノーマス島…?』


「特産品は…能面、らしいな」


「能面?」


「島には能楽っていう伝統芸能があるらしい。それに使う仮面のことなんだと」


「へー」


『仮面、』


ふむ、と少し考えているところで、肩に腕が回される感触が。
気配が近づいていたことは分かっていたのでたいして驚くことはなかったが、まさか肩に腕を回されるとは思わなかった。


「何はともあれ、春島だ。こいつの洋服とか一通り買わなきゃならねぇ」


「ログも数日のはずですし、祭りの時期でもないので特に何もありません。それに海軍もいますので、クルーたちも長居したいとは言わないでしょう」


「そうだな」


がさり、と位置を確認するために広げていた海図をペンギンが纏めていると、甲板の方からクルーの大きな声が響いてきた。


「島が見えたぞー!」


さあ、グランドライン入っての初陸上。
グランドラインに入って初めての島、ということで、ペンギンが言った通り海軍の駐屯地もしっかりと設けられているらしい。
駐屯地は港のすぐ近くにあるとのことであったため、そこと正反対の場所に停泊することになった。
港ではないため面倒ではあるが、危険に晒されない為だ。
ローの懸賞金もまだ高いという訳ではないが、低いという訳でもない。
ルーキーの中では上の方であるため、万が一海軍に見つかれば悪い芽は今のうちにと狙われる可能性がある。
極力目立つ行動は避けなければならないのだ。
という訳で、ローは基本的に上陸しないということになっていた筈なのだが…


「やっぱこっちの方が、」


「馬鹿言え、名前の綺麗な足を見せないでどうする」


「俺たちにとっては目に毒なんスけど!」


「見るな、シャチ」


「んな無茶な!」


「キャプテン、久しぶりに楽しそうだなー」


微笑ましいと言わんばかりの表情を浮かべているベポと、その隣に突っ立っているだけの名前。
2人の視線の先には、基本的に船にいる、といったはずのローの姿があった。
島に上陸した直後、物資の調達の指示をクルーたちに指示した後、ローはペンギンと名前、ベポを連れて服屋へと来ていた。
勿論目的は、彼女の服を購入するため。
何故シャチがここに居るのかというと、俺も一緒に選びたい!かららしい。
あれがいいこれはダメだと盛り上がっている3人の傍で、張本人であるはずの名前は彼らの様子を遠い目で見ていた。
ふと、彼女のそんな様子に気付いたペンギンが声をかけることに。


「名前、名前はどんなのがいいんだ?」


『どんなの…?』


ちら、と名前の金色が動いた先にあったのは、シャチが持っているひらひらとしたフレアスカートやペチスカート。
きゅ、と思わず眉を寄せてしまう。


『…スカートは、嫌』


「ええええ!?」


何で!というシャチの声。
折角綺麗な足なんだから!という彼の声に、ローが冷静に返す。


「足ならショートパンツでも見れんだろ。第一、今ホットパンツ履いてるじゃねえか」


「あ、そっか」


「なんでスカートはダメなんだ?」


そう聞きながらも、ペンギンは既にホットパンツの辺りを漁っている。
彼女が嫌だと言うのなら、と聞き入れたのだろう。


『スカートは、戦いにくい…あと、見える、から』


「いいじゃん!それが醍醐「シャチ、バラされるか調達組に合流するか…どっちがいい」いってきまーす!」


そんなこんなでシャチを追い払った一同は、再び彼女の服を漁ることに。下がホットパンツであればあともう何でもいい、と、自分よりも随分と熱心に選んでいるローとペンギンにどうでもよくなったらしく相変わらず無機質な声でそう言った名前。
ならば服は自分たちで選ぶから、下着を買ってくると良いといわれで金を渡された名前。
少しならば持っているからと渡された金を返そうとしたのだが、ローの視線に負けて受け取ることに。
ベポを連れて、服屋と隣接している下着屋に入っていった。


「いっぱい買った方がいいよ?キャプテンたちも名前の服いっぱい買うと思うし」


『い、いっぱい…どれくらい?』


「うーん、そうだなぁ…10着以上はあった方がいいんじゃないかな?洗濯はするけど、嵐の日なんかは出来ないし」


グランドラインの気候は滅茶苦茶だからねー、なんて呑気に話すベポ。
こちらに来てすぐにかき集めた知識では足りない部分を、ペンギンに教えてもらっていた名前。
確かに、ここからは随分と季節が滅茶苦茶になると言っていた…だとしたら、彼らの服の量は半端なくなってしまうのでないか?


『…ベポ、不安に、なって来た』


「え?なにが?」


『…ローさん、達。無駄に、買ってないかな』


「どんなに買ったって無駄なんてことはないと思うけどなー」


ほら、名前も買っちゃおうよ


ベポのその声に促され、淡い色合いのものを10数着籠の中に放り込む。
サイズはまぁ…今と同じで構わないだろう。
店員に袋に入れてもらったそれは大した重さではなかったのだが、「おれが持ってあげる!」と言うベポの声と共にベポの肩にかけられることに。
それくらい自分が持つと言ったのだが、もっと頼ってほしいという満面の笑みによって却下されてしまった。
代わりに空いた手でベポと手を繋ぎ、先程出てきた服屋へと戻ると。


『!?山、!?』


「アイアーイ、キャプテン、ペンギン、終わったー?」


「あぁ。とりあえずこの店ではこれくらいにしとくか」


「コートも買わなきゃなりませんね」


「俺と同じデザインに仕立ててもらえ」


「じゃあ後で仕立て屋に行きます」


「あぁ」


呆然と積み重ねられた服の山を眺める名前を放置して進められる話。
どうしておかしいと思わない?これが普通なの?
荷物は巻物に収納して任務に臨むとはいえ、基本的に最軽量にして臨むのだ。
こんな、服だけで大量になることなんて今まで一度もなかった。
それに、私服だって数えるぐらいしか外に出ないし、それ以外は暗部の任務の時に着る忍服があれば十分であったし、今思えば自分のクローゼットの中は、カカシが買ってくれた服ばかりだったな、となんとなく思い出した。


「名前、仕立て屋に行こう」


『、仕立て屋?』


「あぁ。コートを作ってもらうんだ。ちゃんと採寸してもらわないといけないからな」


『、ん』


「船長たちはどうします?」


こくん、と頷いた彼女の頭をぽすぽす、と撫でたペンギンは、振り返り支払いをしているローを振り返る。
荷物は次々にベポに預けられるが、平然としてそれらを受け取っている彼はやはり力持ちなのだろう。


「…海軍に見つかってもめんどくせぇしな…船に戻る。帰ってくるときに酒も買ってこい」


「船長専用のですか?」


「あぁ。なんならテメェらだけで酒場に行っても…いや、止めておいた方がいいな。この島にいる間は船の中でやれ」


「下手に巻き込まれるのは勘弁ですしね。分かりました」


「名前」


『、?』


ペンギンとの話を終えたローは、今度は視線を名前に向ける。
彼女はペンギンの手が離れていったあと、大量の荷物を抱えたベポと大丈夫かと話していたのだが、それを中断してローを見た。


「採寸が終わったらさっさと戻ってこい。ペンギンから離れるなよ?迷子になったら大変だからな」


『迷子…』


気配を辿れば大丈夫なのに…


そう言いたげな不満そうな表情を浮かべながらも素直に頷く名前。
船長命令は絶対、というのを何となく察しているのだろう。


「名前ー!早く帰ってきてクジラのおやつ一緒に食べよー!」


『!、うん、』


おやつ、と聞いて思わず緩む頬。
甘いものが好きな名前は、ベポと共にクジラにお菓子を作ってもらって、それを一緒に食べるのが日課になっていた。
料理上手なクジラに作ってもらうことも、同じように甘いものが好きなベポと一緒に食べるのも、彼女にとっては大切な日々。
なにも、元の世界でお菓子が食べられなかったわけではない。
ただ、食事をとる、という概念自体薄かったし、唯一時間を共有したカカシはそこまで甘いものが得意ではなかったからだ。
ベポに約束、と微笑みかける。


「じゃあ船長、なるべく早くに帰るので」


「あぁ。くれぐれも巻き込まれねぇようにな」



(名前のコートって、キャプテンとお揃い?)
(あぁ、そうだな。アイツには黒が似合う)
(髪の毛とか真っ白だもんねー。白じゃあ雪の中で見失っちゃう)
(雪、か…)

(あの、ペンギン…コートのとこ、って、アンダーシャツも、仕立てられる?)
(アンダーシャツか?あぁ、出来ると思うぞ)
(!よかった…あと、もうひとつ、)
(ん?)
(仮面が、欲しい)


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