ポッキーゲーム!
11月11日。言わずもがな、
「ポッ●ーの日、っすね」
『…それは、分かってるけど』
如何したの、その足元。
名前の金色が見たのは、マネージャーであるシカマルの足元。
確か彼は、新しい原稿を受け取りに行くとそう電話越しに伝えてきて、それを待っていた筈なのだが…。
「ファンから、名前さんにプレゼントですよ」
『ファン?』
そんなのいたんだ、と言いたげな表情を浮かべる名前に小さくため息を吐くシカマル。
全く、この人は自分がどれだけ注目されているとか人気だとか、とんでもなく疎い。
まぁ、おかげで回りの言動に左右されることなく彼女の芯の通った、ブレない作品を仕上げてくれるので、そこら辺は助かっているのだが。
『でも…誕生日にも、もらったのに…』
「貰ったもんは受け取っておけばいいんすよ。折角なんだし、」
『…シカマル』
「なんすか?」
『半分、あげる。この間の、ドロップの、お返し』
「…いや、俺ドロップ缶2個しかあげてないのに、これの半分て…」
そう言って苦い表情を浮かべたシカマルは、先程の名前と同じように自身の足元に視線を落とす。
大きめの紙袋に入れられた、ポッ●ーとプ●ッツ、そしてト●ポの山。
4つあるそれの半分といったら、袋2つ分…。
甘いものが然程好きではないシカマルは顔を引きつらせるが、じぃ、と彼を見遣る彼女の視線に勝てるはずもなく。
はぁ、と溜息を吐き出したシカマルは、名前が仕上げた原稿と袋2つを引っ提げて、編集社へと帰っていった。
その夜。
「…随分…大量だな」
『半分は、シカマルに持って行って、貰った』
「(これで半分!?)」
別にバレンタインデーでも、ましてや誕生日でもないというのに。
巷で言う●ッキーの日に贈り物なんてするものなのだろうか…。
病院から帰ってきたローは、ふかふかのソファの隣に置いてあるその紙袋をのぞき込む。
飽きないようにという配慮か、様々な種類があるものの、量が量なだけに被ってしまうのも仕方ない。
いくら名前が甘いものを好むと言っても、そもそも食べる量が少ない。
全部消費するまでにどれくらいかかるんだろうな…と少し遠い目をしたローに首を傾げながら、名前は夕飯の準備を終えた。
「ごちそうさん」
『お粗末様でした』
美味かった、と小さくキスをしてきたローに、くすぐったそうに笑う名前。
ローは食後のワイン、名前は袋の中からポッ●ーをひと箱取り出して、ソファに腰掛けた。
見慣れた赤色の箱を手にしている名前は、ぽりぽり、とそのお菓子を美味しそうに食べている。
ゆるり、と細められたその目は、甘さを堪能しているのがありありと伝わってくる。
「(相変わらず美味そうに食うな…)」
こくん、と口の中のワインを殿へ流し込んだとき、病院でのシャチとペンギンとの会話を思い出した。
「ポッキ●の日か…いいな…彼女欲しい…」
「下心丸見えだぞ、シャチ」
「うるせえやい!良いだろペンギンは彼女いるんだからー!」
「なら彼女のいないお前は一人でポッキーを喰うのか?寂しい奴だな」
「傷口に塩を塗りこむな!」
「おい、テメェらうるせえぞ」
「すいません…てか、そうだ、ロー先輩も彼女いる組だった…!」
「あ?」
「僻んでるんですよ。彼女がいないから」
「僻みもするだろ!?何が悲しくてポッ●ーの日に一人でポッ●ー食わなきゃならねえんだよー!」
「…なるほどな、そういうことか」
「そう言うことです」
シャチが騒いでいた訳。
それは“ポッキーゲーム”とやらができないからだろう。
鏡と向かい合わせにやったらどうだと言ったら泣かれた、それだけはやめてくれと。
まぁ、それじゃあ確かに自分とキスすることになるからな、とローが自己完結する頃には、名前は一袋目の半分ほどを食べ終えていた。
たいして面白い番組もやっていないのか、ニュースをぼんやりと見つめている。
完全に隙を見せている名前の手から、菓子の箱を抜き取った。
『?ローも、食べる?』
「フフ…そうだな。俺も食うか」
じゃあ、と言って袋に手を伸ばそうとした名前を制し、テレビに向けていた体を捻ってローの方へと向けさせる。
彼の手にあったはずのワイングラスは、いつの間にかテーブルの上に置かれていた。
袋の中から一本取りだしたそれを、名前の小さな口に咥えさせる。
手を使わずに器用に食べ始めてしまいそうな彼女を制し、首を傾げているところで反対側に噛り付く。
漸く意味を汲み取った名前は、恥ずかしそうに視線をうろうろとするものの、2人が噛り付いている其れを折ろうとはしなかった。
「ほは、おまへもくへ(ほら、お前も食え)」
『むー…』
むーってなんだ、可愛いだけだから止めろ。
ローのそんな心の声など届いているはずもなく、彼にがっちりと腰を抑えられているゆえに逃げられない名前は、顔を赤くしたままゆっくりと食べ進めていく、のだが。
さく、さく、さく
『!?』
ちゅ
「フフ…遅えよ、もっと早く食え」
『…ローが、早すぎる、の』
「そんなに恥ずかしがるな。キスなんて散々やってるだろ?」
『慣れないものは、慣れない…』
ふい、と顔を背けた名前の顎に指を引っ掻けて、自分の方へと向ける。
ローは楽しげに笑みを浮かべながら、その口にポッキーを咥えていた。
「ほは」
『…ん』
ふりふり、と上下されていたものが唇に押し当てられれば、素直にそれを咥える名前。
手を使わないだけでなんだかすごく恥ずかしい。
それでも彼女の金色を貫くローの灰色に目を逸らすことができず、今度はゆっくりと咀嚼されて短くなっていく菓子に視線を落とすことなく。
折ってしまっても怒らないだろうか、と名前が考える頃には、既に二人の唇は触れあっていた。
『ん、んんっ…』
「…ん、」
『ふぁ、……ん、む…』
ローの大きな手に後頭部を押さえつけられ、顔を動かすことのできない彼女の口内を好き勝手に暴れるローの舌。
ざりざりとしたクッキーの部分は彼の下に持っていかれ、口内に残るのはチョコの甘さばかり。
息をするためにわずかな隙は与えてくれるけれど、息を吸えば再び塞がれ、にゅるりと舌を引っ張り出されて、甘噛みされる。
思わず腰がビクついたのが、腰に当てた手で分かったのだろう。
ローは目を厭らしく細め、ソファに置いていた菓子の箱をテーブルへ放ると、名前の腰をスライドさせて、自身の下へと引きずり込むようにしてそのまま押し倒してしまった。
なんで、という名前の視線の訴えに優しく頬を撫でたかと思ったら、そのまま体のラインを伝っていく。
わき腹を往復すれ度くすぐったくて、体を捩って逃れようとすれば、漸くローの唇が離れていった。
『ぷはっ、は…はぁ、…はぁ…』
「くく…このまま食いながらヤるか?」
『!?』
ブンブンブンブン!
首を必死に降ることで拒否した名前に、残念だ、と笑ったローは彼女を起き上がらせ、今度は自分の足の上に座らせる。
「こっちの方がやりやすいからな、ポッキーゲーム」
『…一回で、終わりじゃ』
「まさか。そんなに沢山貰っといてなあ?」
まずは開けた一箱分だな、と笑ったローに、名前の顔が青ざめたのは言うまでもない。
11月11日にはポッキーゲーム!
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