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  盗撮が犯罪って知ってます?



「…兵長の部屋って、何も掃除するとこないよな…」


会議に行っている間に部屋の掃除を済ませろと言われたエレン。
触られて困る書類がないのかと思ったが、流石潔癖症のリヴァイといったところだろうか。
書類は乱雑に置かれるだなんてことはなく、全て綺麗にまとめられているし、目に触れないようにすべてファイリングされており、開け放たれた窓から入る風によって吹き飛ばされることもない。
以前に一度見たことの有るハンジの部屋は酷かった。
それはもう、リヴァイとは比べ物にならないぐらい、足の踏み場がないくらいに資料やら書類やらが散らばっていて…その日のリヴァイの機嫌は最悪だったのを思い出す(もちろん名前にくっついたら元通りだが)。
まずは高いところから、と掃除を進め、殆ど終わりに差し掛かったエレンが、ふと、視線を上げた。


「あ…やべ、本棚の中やってねえや…」


普通なら「ああいいよ、それくらい」と笑って見逃しそうなところだが、リヴァイが見逃すはずがない。
彼の徹底ぶりは本棚の掃除にも表れる…本棚の中身全てを出して中を拭かなければならないのだ。
しかも、戻す時は本の並びを元通りに…一度間違えた時は殺されるかと思ったと、エレンは苦い思い出を思い出しながらごそっと本を引っ張り出す。
一冊一冊出すよりもまとめて出して置いた方が間違えないと考えたのだろう。
上から順に掃除を済ませ、一番下の段に差し掛かる。
そこでエレンは何かおかしいことに気付いてしまった。


「なんだこれ…カーテンに…アルバム?」


以前は一番下にも普通の本がびっしり入っていた筈だが、いつの間にか、ご丁寧にほこりがかからないように(とはいえ埃一つない部屋なのだが)簡易カーテンのようなものが付けられており、その奥には見覚えのない本が並んでいる。
その背表紙は皆同じものだが、如何せん、題名を書くべき背表紙には、


「…“名前写真集”…?」


何だか嫌な予感しかしなかったが、背表紙のその文字に酷く惹かれる。


「(名前って、副兵長のことだよな…)」


じゃあもしかして、このずらりと並んだアルバムの中には…


「(名前副兵長の写真が…!!)」


開きたい、ものすごく、でも…!


ぷるぷると震えながらなんとかそのアルバムの軍団を視界に入れないようにしながら掴むと、先ほどと同じようにまとめて引き出し重ねておく。
それなりに重いのできっと中身はすべて埋まっているのだろう…すげえ、めっちゃ見たい…!
ごくり、と生唾を飲み込み、ささっと本棚の中を噴き上げると、恐る恐るアルバムに手を伸ばす。
ちなみの他のところは既に掃除を終えているので問題ないだろう…リヴァイが戻って来た時はちょうど掃除を終えるのを装えば、と考えながら、ぱらり、と表紙を開く。


「ぐはっ…!!」


開けた一番目にあった写真は、背表紙通りに名前のものだったが。
奇声を発して後ろに倒れかけたエレンは鼻を押さえながら、顔を真っ赤にし再び写真をガン見する。


「(い、いやらしい…!)」


お風呂上りなのか、上気した白い肌、僅かに残る水分のせいで艶めかしく光る全身。
その上半身にはシャツが袖を通すだけで、前は閉められていない。
勿論ショーツは履かれているが、それだけで、ズボンは履かれておらず、白く細い足に、立体機動のベルトの痕がうっすらと赤く残されている。
よく見れば、Yシャツのボタンが開けられたところから見える胸元にもベルトの痕、そして胸の曲線とともに、微かに見えるピンク色の胸の頂。
濡れた艶やかな黒髪は髪留で簡単に結い上げられているが、僅かに残った後ろ髪が項に張り付いている。


「…やばい…これはヤバイ…」


一枚目からとんでもない威力をまともに食らってしまったエレンが、その後のアルバムをめくる手を止められるはずもなく。
パラパラと捲っていけば、そこには様々な名前が映されていた。
立体機動装置を駆使して飛び回る姿、教団仕様のアンダーとホットパンツという体のラインが目立つ服、寝間着の小袖、水を掛けられて下着や肌が透けているYシャツ姿、うっすらと桜色の唇を開け、気持ちよさそうに眠る姿、アイスを咥えている顔のドアップ、柔軟をしている姿、ちろり、と赤い舌を出している口元、きゅっ、とそらされ細さの際立つ腰、ボディクリームを塗る姿、着替えシーン…ありとあらゆる様々なシーンが収められている。
しかし可笑しなことに、それらの写真の中で、名前の視線がこちらに向けられているものが一枚もないのだ。
単なる偶然とは言い難いこの自体、まさか、という考えがエレンの頭の中を巡る。


「も、もしかして…と、盗さ」


そう言いかけた瞬間、不穏な足音が背後から響いた。


「よぉ…随分お楽しみだったようじゃねえか…エレンよ…」


「ヒィィィィイイイ!!!!」


エレンの断末魔がリヴァイの部屋から響いた。


『リヴァイさん、エレン見ませんでしたか?』


「…アイツがどうした」


『対人格闘術を見てほしいって言われてたんですけど…』


何処探しても見当たらなくて、とリヴァイから視線をそらし、きょろ、と再び辺りを一瞥する。
その表情は、エレンに何かあったのではないかという不安からか、つん、と唇が若干尖っており、眉は下げられ、憂うように軽く伏せられている眸により、長い睫が強調される。
彼女がこちらを見ていないのをいいことに、リヴァイは懐から素早くカメラを取り出すと、ぱしゃり、とシャッターを切った。


『、?』


「エレンなら医務室だ。午前中に倒れたらしいからな、対人格闘術はまたの機会にと託っていた」


『そうなんですか…』


最近暑いですもんね、と苦笑した名前は、リヴァイにも体調に気を付けるように言って、新たな仕事を貰いにエルヴィンの団長室へを足を進めていく。
もちろん、すらりと伸びた足首から小ぶりなお尻の魅惑的なラインを写真に収めぬリヴァイではなかった。
その後、エルヴィンの執務室へとたどり着いた名前は彼と対面していた。


「?見られている?」


『気のせいなら構わないんですが…最近そんな気がして』


纏めてくれ、と言われ受け取ったファイルの中身を簡単に確認しながら名前が最近の悩みをエルヴィンに打ち明ける。
何かにつけて視線を感じるのだと、そういう内容らしい。
自意識過剰かもしれないと名前は笑うが、それは絶対に違う…いい加減自身の容姿に自覚を持ってほしいものだとエルヴィンはため息をつくが、その願いが叶うのはきっとずっと先の事だろう。


『あ、それじゃあ纏めたら持ってきます』


「あぁ、無理しないようにな」


『エルヴィンさんもほどほどに』


失礼しました、と流れるような動作で部屋を後にした名前。
そんな彼女をにこやかに見送ったエルヴィンは、部屋の天井の一隅に視線を向けると、深い深いため息をついた。


「リヴァイ…君だろう。最近の名前の悩みになっているのは」


「流石俺の嫁だな…気配を消しているつもりだったんだが」


「何時の間に彼女が君の嫁になったんだ…それに、気配を消してもそんな目で見てたらいくら鈍感な名前だって気付くに決まってるだろう」


エルヴィンの見上げた先、そこには部屋の四隅の壁に器用に手足を使い貼りついてカメラを片手に構えているリヴァイの姿があった。
…立体機動装置も使わずにそんな体勢を維持できるのはさすが人類最強と言ったところだろうが、エルヴィンは今だけ彼が人類の希望であるということを全否定したい気持ちに駆られた。


盗撮が犯罪って知ってます?
(…(また視線…?))
(……)パシャパシャパシャパシャパシャパシャ
(リヴァイ…君昨日もご飯食べてる名前撮ってなかった?)
(馬鹿野郎、毎日違うんだから毎日収めなきゃならねえに決まってんだろ。だからてめえはクソメガネなんだよ)
(なんかすごい理不尽な気がしてならないや)


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