小説 | ナノ


  鳴門×海賊 08



久しぶりに寄った島。
ドジを繰り返すたしぎに一瞥もくれぬまま、スモーカーは街を見渡す。
相変わらず賑やか、治安も悪くない。
すぱー、と相変わらず葉巻を銜えて佇んでいるスモーカーに、たしぎがわくわく、と言わんばかりに話しかけた。


「スモーカーさん!折角ですからあの店行きましょうよ!名前さんのご飯が食べたいです!」


「あ?あぁ」


それじゃあ行きましょう!と歩き出したたしぎ。
間隔はあけているものの、何度も足を運んでいる店の場所を忘れるわけもない。
その店の料理と娘を、気に入っているのなら尚の事。
海軍の2人がその店に、この島に来るたびに足繁く通うようになったきっかけ、それは数年前にさかのぼる。


―――数年前。


「食堂のご飯って、なんであんなに美味しくないんでしょうか」


「さあな」


先日、この島に到着した海軍の戦艦。
それに乗っていたのは、正義の名を背負った白髪の強面の男と、その部下である女剣士、彼らの部下である海兵たちだった。
この島にある海軍の基地は小さく、言われなければ小さな自警団の拠点と言われてもおかしくないくらいで、中にある設備と言えば、休憩所や食堂と言った、とても海兵たちが駐屯する場とは思えないもの。
おかげで、この島の一番近く、という訳ではないが、気流や海流の関係で航行に一番時間のかからないローグタウンのスモーカーたちが、時折此処の巡回に訪れることになっていた。
そのこと自体には不満は抱いていない。
自分たちがここに来ることで、海賊たちに対して抑止力が働き、島民が安全に暮らせるのならそれでいいのだ。
しかし、彼らの不満は別にあった。
この島の食堂の飯が美味しくないのだという。
ローグタウンの海軍の食堂も微妙だが、こちらもどっこいどっこい。
態々出張しているのだから、どうせなら美味しいものが食べたい、というのがたしぎ、ひいてはスモーカーの望みだった。
そんな彼らは、街中を巡回するついでに昼食をとる、ということになった。
しかし、ここは彼らの慣れ親しんだ町ではないため、何処の料理がおいしい、だのということは分からず。
たしぎが街の人々に、美味しいご飯が食べられるところはないかと聞けば、皆一様に声を揃えて一つの店の名を言ったという。
聞けば、夜は酒場になるが、日中の間は喫茶店で、様々な料理を提供してくれるらしく、加えてどの料理も一級品で美味しいのだと語る。
折角だから食べていきなよ!という島民に背中を押され、2人はその店へと足を運んだ。


「ここですね」


がちゃり、と音を立てて入った店の内装は、派手すぎず地味すぎず、過ごしやすい雰囲気を醸し出しており、店内にはおいしそうな匂いが充満しており、たしぎは「美味しいご飯…!」と目を輝かせている。
二人が空いているカウンター席に腰を下ろせば、にこにこと愛想のいい中年の男が、お冷とメニューを二人に差し出した。


「お二人さん、初めて見る顔だね。巡回に来てくれた海軍さんかい?」


「あ、はい!」


ちらり、とスモーカーを見たが、隠すことでもねえだろ、と言わんばかりの彼の反応に、たしぎがそう返す。
そうかそうか、と言う男は、どの料理を選んでも外れはないから安心しな、と陽気に笑った。
一通りメニューを攫ったスモーカーとたしぎは、店主のはずれはないという言葉を聞き、各々好きなものを注文する。
はいよ、と返事をした彼は、カウンターの奥の扉を少し開け、厨房にいる誰かに注文を告げた。
それからしばらく、無口なスモーカーは葉巻を吸い、たしぎは店主と会話が盛り上がる。


「人気なんですね、この店」


「あぁ、名前が来てからだなあ」


「名前さん?」


「おぅ、今厨房で料理を作ってる子だよ!」


美人でなあ、話すのはちょっと苦手なんだけど、笑うと可愛いんだ、と締りのない顔をする店主に、ウェイトレスの女の子のお盆がクリーンヒット。
名前をいやらしい目で見ないで!という声が店内に響き、どっ、と笑いが湧き上がる。
みんな仲がいいんだなあ、と顔を綻ばせるたしぎ、スモーカーは煩い、と少し顔を顰めている。
ふと視線をカウンターの奥の扉を開ければ、まるでタイミングを見計らったかのように開けられる。
そこから現れた彼女に、スモーカーの目が見開かれた。


『マスター、出来た』


「お!おぉ、悪いな、持ってきてもらって」


『いい、手、空いてた』


そう言う彼女の両手には、スモーカーとたしぎが注文した料理の載ったお盆が載せられていて。
たしぎの方はマスターが、スモーカーの方は名前が置く。


『ごゆっくりどうぞ』


「……」


『…?』


名前を見つめて動かないスモーカーに首を傾げる名前。
たしぎも首を傾げ、冷めちゃいますよー?と言いながら早速料理に手を付けている。
ただ男だけが、お、とニヤニヤした笑みを浮かべていた。


『…マスター、気持ち悪い』


「んなっ!ひでえな名前!」


『賄い、出来てるよ』


「マジで!」


しょぼん、とした男は彼女の賄いの言葉に顔を輝かせ、今日は何かなあ、と軽い足取りで厨房へと姿を消す。
代わりにカウンターには名前が残り、男のやりかけていたコーヒーやグラスの片づけに手を付けていた。


「この料理、貴方が…?」


『?』


目の前の美しい彼女に声をかけたたしぎは、自身を見つめる、ぱっちりとしているもののどこか鋭い色を宿した金色の眸に、どきどきと胸が高鳴るのを感じる。
まさか先程スモーカーが、同じ感覚にとらわれていたとは微塵にも感じずに。


『、はい』


「すっごく美味しいです!私こんなに美味しいの初めて食べました!」


『!ありがとう、ございます』


たしぎは興奮気味に、大きめの声を出したが、店内の誰かが気にした様子は見られない。
名前は彼女の言葉に、きょとり、とした表情を浮かべたが、照れ臭そうに頬を染めつつ、嬉しそうに顔を綻ばせながら礼を言った。
白銀の髪に金色の眸、美しい顔立ちから、綺麗という言葉が似合うが、その浮かべる表情や仕草は可愛らしい。
その店を訪れた海軍の2人は、見事に彼女に心臓を射抜かれたという。
それからというもの、その島に駐屯している間は、毎日その店に通った。
一度あの店の、名前の料理を食べれば海軍の食堂の料理なんて食えたものではないらしく、その話を聞くたびに、名前は小さくクスクスと笑った。


***
ケムリンが好きなんです…ワンピで一番最初に好きになったキャラはケムリンでした←

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