小説 | ナノ


  スキンシップじゃなくてセクハラです



『兵長、コーヒーをお持ちしました』


「あぁ、入れ」


今日も今日とて上司であるリヴァイにコーヒーを持っていく名前。
彼女は机の上に積み重なっている書類にコーヒーをこぼしてしまうことがないように、態々リヴァイの隣に移動してから、空いているスペースにマグカップを置いた。
その瞬間。


「ハァハァ…相変わらず撫で心地の良い俺好みの腰だな…」


『あ、あの…』


だがもうちょっと肉がついても等とほざく、リヴァイの武骨な手がさわさわと名前の腰を滑る。
腰骨のあたりも触ってくるものだからくすぐったい…と名前は感じているだろう。
彼女はくすぐられるのに敏感らしく、脇腹あたりも弱いからあまり触らないでほしいと考えていた。
そうは言ってもリヴァイが彼女の腰に触れるのをやめる気配はなく、更に両手で形を確かめるように触ってきたため、さすがに我慢できなくなった彼女がごちんっ、とリヴァイのコーヒーを載せていたお盆で上司の頭を殴る。


『もう、いい加減にしてください!書類もあと少しじゃないですか』


はあ、とため息をつきながら考える。
一体いつからこんなことになってしまったのだろうか…初めて会ったときは潔癖症全開だったはずなのに…。
リヴァイはその潔癖症故、あまり他人との接触は好まない。
それは名前自身も見ているし、もしくは彼女以外の調査兵団の中でも、新兵以外ならばよく知られている事実だろう。
彼女は別にリヴァイに触れられることが嫌だと言っているわけではない…ただ彼の触れ方はほかの人たちの触れ方とは何かが違うような気がしてならないのだ。
お盆で頭を殴られ名前の腰から手を放したリヴァイは、渋々と言った様子で書類に手を伸ばす。
先ほど言った通り、殆どが処理済みのもので、あとはエルヴィンに届けるだけのものだった。
カリカリとペンを走らせているリヴァイにはこのまま書類に取り掛かっていてほしいからと、それらの書類を持って行ってしまおうと考える。
補佐という立場にいるのだから重要書類でも問題はない。


『リヴァイさん、書類持っていきますね』


そう言って机の上の書類に手を伸ばした、ら。
黒の手袋に包まれていた手をリヴァイに掴まれ、速攻で外された黒の手袋が彼のポケットの中に消えていった。
え、ちょっと、返してください、という彼女の言葉を遮るかのように、リヴァイが口を開く。


「そんなことより、俺の膝の上に座って俺を癒せ」


『言っている意味が分かりません…』


リヴァイにこんなことを言われるのは初めてではないし、名前も根負けして彼の膝の上に座ったこともある。
しかしその時は、項に唇を寄せられたり、耳のあたりを舐められたりして、くすぐったさに身をよじれば、離さないと言わんばかりにリヴァイの腕が彼女の体に絡みつく。
その腕がさりげなく胸や太ももに触れていたことに、果たして彼女が気づいていたかどうかは不明だが…。


『あの、手を…』


「名前…」


『っ、』


ぐいっ、と引っ張られる腕。
体勢を崩した名前をいつの間にか立ち上がっていたリヴァイが受け止めたおかげで、彼女がフローリングの床に膝を打ち付けることはなかった。
そのまま滑らかな動作で横抱きにされ、ソファに降ろされる。


『、リヴァイさん…?』


「疲れた…一休みするから抱き枕になってろ」


下した名前の背中を背もたれ側にくっつけるように追いつめると、同じように横になったリヴァイが向かい合わせの体勢になり、彼女の胸のあたりに顔を寄せた。


『ぁ…り、リヴァイさんっ』


「2時間したら起こせ…」


戸惑ったような名前の声など知らぬと言わんばかりに、そのまま胸に顔を埋め、寝息をたてはじめてしまったリヴァイ。
眠っている間に彼女が離れて行かぬようにと回された腕は、がっちりと名前の動きを制していた。
幸い仕事は終わっているが、エルヴィンに提出しようと思っていたリヴァイの処理した書類に名残惜しそうに視線を向けるが、この状況ではどうにもならない。
下手に動けばリヴァイがソファから落ちてしまうかもしれないし、何より彼の腕がそう簡単に外せるとは思えなかった。
自身の胸に顔を寄せているリヴァイに視線を落とせば、気持ちよさそうに瞳を伏せている。
心なしか、目の下の隈が濃くなっているような気がして、寝かせてあげたい、という思いが名前の中で生まれたのもあり、苦笑を浮かべた彼女は自身の腕もリヴァイにまわす。
片手は背中に、もう片方は後頭部に回し、黒髪をさらりと梳いた。


『…お疲れ様です、リヴァイさん』


髪を梳いていた手で額にかかっている前髪を避けて、そこに優しく唇をくっつける。
小さく唸ってぐりぐりと顔を埋めてくるリヴァイがなんだか幼く見えて小さく笑った名前も、リヴァイが起きるまでと、眸を閉じた。


「…兵長、何してるんですか」


「何って、名前の胸の柔らかさを堪能してるに決まってんだろ」


「それってセクもがあっ!!」


「スキンシップだ」


すやすやとすっかり寝入ってしまった名前と、ばっちり目を開け、彼女の胸に顔を埋めながら全身くまなく触れていくリヴァイ。
そして彼の一撃によって屍と化したエレンが、気を失う前に一言残した。


スキンシップじゃなくてセクハラです
(ん…んん…っ)
(ハァハァ…寝てても感じるんだな…厭らしい体だ)
(は…ぁ……んっ)
(……(腰にクるな))
((誰か兵長を止めてええええええ!!!))


 next

[back]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -