小説 | ナノ


  鳴門×海賊 07



ローとペンギンに料理を口に突っ込まれるという地獄の宴会(?)を終えた頃。
甲板は酔いつぶれたであろうクルーたちが、まさに死屍累々と言わんばかりに埋めつくしていた。
彼らは二日酔いなんてものはしないのだろうか…とそんなことを考えながら、ぼんやりと倒れ伏している姿を見やる。
意識があるのは名前、そしてそんな彼女に無理やり料理を食べさせていたペンギンとローの二人だけだった(酒好きの多い北の海出身の中でも二人は酒に強いらしく、いつも最後に残るのだという)。
普段の量を随分超えた食事をしてしまった為苦しく、あまり動きたくはないが、このままでは風邪をひいてしまうだろうと名前は立ち上がり、微かに音の漏れている食堂へと。
因みに無意識のうちに気配を消してしまっていたので、ペンギンとローが彼女の動きに気付くことはなかった。


『えと…コック、さん?』


「うおおっ!?」


びくうっ、と肩を震わせた彼に、そういえば気配消してた、と思い出し驚かせてしまったと申し訳なさそうな顔をする。
そんな彼女を安心させるように大丈夫だと笑い、どうかしたか?と首を傾げた。


『皆さんに、毛布かなにか…』


「そういや、この辺りは冷たい気流の通り道だとかペンギンが言ってたな…」


風邪をひかないように毛布を掛けなければだなんてのは、海の男達だったら考えもしないことだっただろう。
やっぱり女の子っていいわ…と顔を緩めそんなことを考えながら、コックは名前に毛布の仕舞われている場所を教えた。


「あ、そういや自己紹介がまだだったな。俺はクジラだ。宜しくな、嬢ちゃん」


『名前です、よろしく、お願いします』


ぺこ、と下げられた小さな頭をがしがし、と撫でたクジラは機嫌よさげに、毛布の仕舞われている場所へと向かう名前を見送った。
カツンカツンとヒールの音を響かせながら進んでいく船内は、殆どのクルーが甲板に出払っているからか、照明も疎らで少々暗い。
とはいえ、忍である彼女にとっては、少し灯があれば十分なのだ。
最悪、新月の夜にだって任務に駆り出されることもあったのだ(真っ暗で何も見えないから気配や音、その他もろもろに頼るしかない)。
コックに教えてもらった道を進めば、確かに倉庫があり、中には、少々黴臭いものの毛布があった。
恐らく大分使われていないであろうそれを、抱え、甲板へと戻っていく。
細身の体のくせに、抱えている毛布のせいでよろけるこもなく、無事甲板に辿り着いた名前は、それを寝入っているクルーたちにかける前に一度下した。


「名前、毛布持ってきてくれたのか」


『、はい。ここは風、冷たいですから』


名前が毛布を持ってきたのに気付いたペンギンがかぶせるのを手伝うと申し出れば、じゃあ少し待っていてほしいと、名前はペンギンの手を引いて毛布から少し離れる。


「?何かするのか?」


『すこし、』


風遁、と印を組めば、ふわりと巻き上がる毛布たちは、竜巻の中にいるかのようにぐるぐると回る。
どうやら火遁も混ぜているらしく、頬を撫でる風が熱い。
本当ならば洗うなりなんなりするのが一番なのだが、既に寝入っている彼らにはすぐに毛布を掛けてやりたかったらしい。
暫くそれが続き、竜巻が消え、毛布が甲板の上にふわり、と落ちる頃には、持って来た時の黴臭さはなく、感触もふわりとしているようだった。


『もう大丈夫、です』


「すごいな…今のも忍術か」


『風遁の竜巻に、火遁を』


へぇ、と興味深そうにしながらも、毛布を抱えたペンギンは、あっちは俺がやってくるから、ここの奴にかけてやってくれ、と微笑んで向こうに歩いていく。
こくん、と頷くことで返事をした名前は、ペンギンに言われた通りに周辺の彼らに毛布を被せ、腕に抱えていたものを全て掛ける頃には、ペンギンも終えていたらしく。
ちょいちょい、と再び自分を指先で呼ぶローに気付いた名前は、ローの隣に腰掛けた。


「…気配を消すな」


『、すみません、癖で…』


「(癖…)それと、」


ぽす、と刺青の入った大きな手が頭に載せられる。
船長さんは撫でるの好きなのかな…とそんなことを思いながら、その温かさを享受していると。


「敬語もいらねえ。こいつらだってそう思ってんだろ」


『、ぇ…?』


「あぁ、店の時みたいに、敬語が無い方がいい」


『ペンギンさん…』


「“さん”もいらないからな?」


でも、とか、年上なのに、といって、うん、と頷かない名前に、ローが言う。


「お前はもう俺たちの仲間だ。それに、こいつらは上下関係を作らねえしな」


「流石に船長には敬語を使ってるが、それ以外じゃ皆一様に横並びだ」


「まぁ…ベポは一応気にするみてえだが、アイツは“新入り”っていうより、“友達”として見てるから問題ねえだろ」


「そうそう、なんか壁作られてるような気がして寂しいしな」


ぽんぽんと出てくる言葉。
えっ、えっ、と戸惑っている彼女を押し切るような形を狙っているらしく、彼らの言葉が止まることはない。
元々、自分のことに関しては押しに弱い名前が結局折れるのは、目に見えた結果だった。


『えと…ペンギン?』


「あぁ、そっちの方がずっといい」


『で…船ちょ「却下」……』


「くくっ…」


名前の言葉を遮る形で一蹴したロー。
傍に控えているペンギンは、可笑しい、と言わんばかりに肩を揺らしており、ローの鋭い睨みもさほど気にした様子はない。
じゃあ、どう呼べば、と言わんばかりの困り顔をしている名前のさらりとした、痛みの見られない白銀の髪を指に絡ませながらローは言う。


「ロー、でいい」


『…ローさん?』


「“さん”もいらねえよ」


『ロー……さん』


「おい」


ローの声が低くなるが、流石に船長相手に呼び捨ては出来なかった。
ブンブンブンブン!と首を振る名前に、今度は逆にローが折れ、“さん”を付けてもいい代わりに敬語を使わないということを約束させた。
初めは難色を見せたものの、ローに“さん”付けの事をちらつかせられれば、承諾するしかない。
そんな問答を繰り返している2人が面白かったのか、ついにペンギンがぶふっ、と噴き出した。


『ペンギン…?』


「ふっ、悪い悪い…船長が女に対してこんなに必死になるのは初めて見たからな」


「!ペンギンテメェ…」


「自分のものにしたいならちゃんとしてくださいよ?俺らだって名前のことは気に入ってんですから」


な?と言いながら名前の細い体を引き寄せ、そのまま自身の胡坐の上に抱え込んでしまったペンギン。
離さないつもりなのか、いつもより強い拘束。
名前はその細さ故、基本的に力はあまり強くはないが、チャクラによってその力を何倍にも跳ね上げている。
ちょちょいとチャクラを練ってしまえば彼の拘束も簡単に外せてしまうのだが、やはり遠慮の方が大きいのか、無理に抜け出そうとはしない。


『(彼らに安心感を抱いてしまったのも、あるんだろうけど)』


忍は常に周りを疑うものだ。
組織の中に敵国の侵入者がいたり、気付いた時には潜入されているだなんてこともよくあるし、よくやっていた。
それなのに、たった数日で彼らの事を信用してしまうとは。


「Room」


『!』


「シャンブルズ」


ローのその言葉の瞬間、名前の居場所はペンギンからローの腕の中に。
代わりにペンギンの腕の中には、空になった酒瓶が転がっていた。
見上げれば、ローのしたり顔がペンギンへと向けられていて、彼はふぅ、と息を吐き出していた。


「そう言えば、名前の部屋はどうするんで?」


「あ?あぁ、そうだったな」


『部屋だなんて…立ってても、寝られる』


「そんなんじゃ病気になるだろうが」


勿論一度も病気になったことがない、という訳ではない。
ただ、任務という極限状態の中では、攻撃を食らってもさほど痛みは感じないし、寝る場所だって選べないから適当なところで、すぐ臨戦態勢に入れるように眠る。
怪我の手当てだって、出来ないことはないけどチャクラの消費を抑えるために、里に帰ってから医療忍にやってもらっていた。
そんなことを言えば、2人の眸は何かを決心したかのような色を帯びる。


「名前、何かあったら俺たちにすぐ言えよ」


『へ』


「俺と一緒に寝るか。安心しろ、船長室のベッドはふかふかだ」


『え』


「船長ずるいです、けど…仕方ないですね、寝ずの番の時の名前と一緒のお昼寝で我慢します」


『う』


「ふざけんな、昼寝も俺と一緒に決まってんだろ」


決して騒がしくはないけど、静かでどこか威圧感のある押し問答。
初めはローの腕の中でおろおろとしていた名前だったが、朝からいろいろあって疲れた、というのと、延々と続きそうな2人の言い合いになんだかんだで面倒くさくなってしまったということもあり、温かいその場所で、いつの間にか意識を手放していた。


「あ…寝てる」


「…可愛いな」


「船長、可愛い物好きでしたね」


「うるせえ」


「大丈夫です、俺も名前に限っては可愛い物好きですから」


「何が大丈夫だこのけだもの」


「けだものって…アンタに言われたくないですよ…」


***
クジラ
ハートの海賊団コック。精悍な感じのおっちゃん。体術よりもナイフの扱い得意だったりするけど本人は戦うより料理を作ってる方が性に合ってるらしい。名前と一緒にキッチンに立つのが楽しい今日この頃(本人曰く、娘と料理してるみたいな感覚だという)。

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