小説 | ナノ


  白衣のトラブルメーカー



どうやら、エルヴィンさんの執務室に。


「あははは…どーもぉー!」


新たなお客様が、やって来たらしいです。


『、不審者?』


「あぁ、今地下牢に繋がれてる」


何でも急に現れたんだと、と然程興味なさそうに言うリヴァイ。
名前はそんなリヴァイの態度に苦笑しつつも、不審者って一体…と、エルヴィンから面会の許可が下りるまでいつも通り、淡々と仕事をこなしていた。


『ベレー帽に白いコート、ですか?』


「あぁ、胸に見覚えのあるマークがあってね…もしかして君の関係者じゃないかと思って」


『(…とっても覚えがある)』


こつこつ、と地下牢に続く石の階段を踏みしめながら下りていく。
エルヴィンの後ろには名前、そして彼女に万が一何かあったら、と心配したリヴァイが彼女の隣に並んで歩いている。
暗い廊下は松明の明かりで照らされており、地下と言うこともあってか、若干湿っぽくて、名前は好んで地下に行くことはなかった。
本人に敵意が無く、長身ではあるもののとても戦う人間には見えないということで見張りはつけていないらしい。
地下牢に入れるのはリヴァイ本人がやったので、彼の存在はエルヴィンとリヴァイの2人しか知らないのだという。
階段を下り終え、今度は平坦な廊下を進んでいく。
その不審者が放り込まれている牢に近づくにつれ、ぐすぐす、と鼻を啜る声が聞こえてきた。


「うぅっ、リナリー…僕のリナリィィ…」


……あぁ、間違いない。
どうやら彼にとっては、自分が見知らぬ場所にいることよりも妹の方が重要だったらしい。
相変わらずのシスコンっぷりに少し安心した名前は、廊下に背を向けるように体育座りをして落ち込んでいるその人の牢の鉄格子に触れるくらい近づく。
エルヴィンもリヴァイもあまりいい顔はしなかったが、大丈夫です、と言う彼女の苦笑に見守ることを決めたらしい。


『コムイさん、』


「、…その声は…!」


ぐりんっ、と振り返ったせいか、首から不吉な音を立て、立ち上がろうとした体をもつれさせてその場でこけた不審者。
何をしてるんだ、と言う2人の男の呆れたような視線と彼女の苦笑が向けられている彼の名は、コムイ・リー。
正真正銘、黒の教団本部の室長を担うリナリー命のシスコン男である。


「…こいつが室長?」


ところ変わって。
不審者扱いされていた男が、名前の上司である室長であると判明し、不審者の疑いをはらされたコムイ。
晴れて地下牢から解放され、今度はエルヴィンの執務室へと連れて来られていた。
その場には、先程までそこにはいなかったはずのハンジの姿もある。
因みにコムイはリヴァイからの鋭い視線に、「神田君みたいだねー」と然程恐怖を感じていない態度で対応してみせた。


「エルヴィンとはまた違う種類のトップだねぇ」


確かに、リナリーのことでぐずってたり、リヴァイの睨みを受けてもへらへらと笑っているように見えるコムイは、エルヴィンと言うトップを見続けてきた彼らにとっては、とても上に立つ人間には見えないかもしれない。
しかし、長年彼の命令の下、エクソシストとして活動してきた名前は、小さく苦笑をした。


『…そうでもないですよ』


「え、?」


『コムイさんもエルヴィンさんと変わりません。切り捨てる時は切り捨てます』


まぁ、コムイさんは妹にめっぽう甘いですけど。


そう笑った名前の言葉に嘘はないのだろう。
彼女はあまり冗談や嘘をいう人間ではない…しかしそうは言われても、とても現状ではそうは見えないのが正直なところだ。
さて、これからどうするか。
彼らとともにこれからのコムイの立場を考えよう、としたとき、タイミング悪く名前が訓練兵団に呼び出されてしまった。
後回しにするわけにもいかない、と小さくため息を吐き出した名前は彼のことを任せ、そのままエルヴィンの執務室を後に。
いってらっしゃい、と穏やかな表情で彼女を見送ったコムイの空気は、ぱたん、と扉が閉じられて暫くすると、別の物へと豹変した。


「…成程、名前が言っていたことは本当らしい」


「あはは、これでも一応、“室長”だからね」


「…貴方がここにきてしまったことは名前が戻ってきてからにしよう」


「助かります。…にしても、」


そこで言葉を切ったコムイは、先程彼女が出て行った扉へ視線を向ける。
その眸は、心底安心した、と言わんばかりの優しいものだった。


「…にしても?」


「安心しました。名前が、笑っていられて」


あの子は何でも自分で抱え込んでしまう子だから、千年公の手によって、一人戦争から離脱してしまったような形である自分を責めているんじゃないかと。


「不安だったんです。教団の人間も、一人で泣いているんじゃないかって、心配してました」


「…随分、仲間思いなんだな」


「勿論。教団は、そこにいる全員の“ホーム”ですから」


教団は、エクソシストや探索部隊、その他多くの人間たちが帰ってくる家なのだと、コムイは語る。
ふと、ちらりと、コムイの眼鏡越しの鋭い視線がエルヴィン、リヴァイ、ハンジをそれぞれ一瞥した。


「名前の様子を見る限り、彼女を道具扱いしているわけでもなさそうだ」


「道具だと?」


「僕より上の人間には、エクソシストを人類救済の道具としか見ていない人間も多いですからね…そうじゃない人間なんだと安心したんです」


「…そうか」


嫌いな人間がいる、と珍しく嫌悪感を表に出していた彼女の言う人間が、コムイの言うその人間なのだろう。
深くは追及しなかったリヴァイ達は、名前がこの部屋にいた頃には全く見せなかった、凛とし、冷静に周囲を把握しているコムイに、内心驚いていたと同時に、感じていた。
彼もまた、変革者の一人。
何かを変えるために、大切な何かを捨てることができる者、


「うぅぅぅっでもっ、でもぉぉおお、リナリィィィィイイ!!!お兄ちゃんはここに居るよぉぉぉおお!!!」


……なのか?


『それで、コムイさんは結局どうなるんですか?』


「あぁ、どうやらハンジの言う研究に興味を示したらしい」


『…巨人の研究ですか』


まぁ、元々科学班で研究漬けでしたしね、と納得したような表情でスープを口に運ぶ名前。
彼女と対面するような形で腰かけているリヴァイは、ハンジが二人になった気分だ、と少々苛立っている様子。
向こうでも寝不足にもかかわらず、テンションが高い時は高い…まぁ、ハンジには劣るかもしれないが、コムリンシリーズの時のテンションは彼女に匹敵するかもしれないな、と2人を見て苛立っているリヴァイが簡単に想像できてしまって小さく笑った。


「、なんだ」


『いえ。後でコーヒーでも差し入れに行こうかと思いまして』


「…俺も行く。エルヴィンもアイツの研究がどういったものか見てみたいと言っていたからな…どうせだから全員纏めていった方がいいだろう」


『そうですね』


聞けば、ハンジもコムイもまだ食堂に来ていないということで、コーヒーのついでに彼らの食事も持っていくことに。
カートに2人の食事を載せ、コーヒーも準備し終えた名前を迎えに来た形で、リヴァイとエルヴィンは、2人がこもっている研究室へと足を向けた、のはいいが…。


ガンガンガンガンッ
ゴンゴンゴンッ
ドガッシャーンッ…
バキッ、バキバキッ…―――


「何の音だ?」


『さ、さあ…』


「…とりあえず、開けてみようか」


扉の向こうから聞こえてくる不可解な騒音。
一体何をどうしたらそんな音が出るのだろうか、と疑問を胸に抱いたまま、エルヴィンが恐る恐る扉に手を掛ける。
がちゃり、とドアノブは動いたものの、何かに引っかかったようで、内側に開くタイプの扉は動いてくれなかった。


『…きっと本とかぶちまけてるんでしょうね』


「クソが…掃除しろと何度言えば…!」


「今まで何度言っても無駄だったろう…諦めたほうが得策、だっ!」


ふんっ、と無理やりに近い形で扉を押し開けたエルヴィン。
リヴァイだったら蹴って扉を破壊していただろうと簡単に予想できるために任せられなかったのだろう。
何ならイノセンスを発動して扉の前の荷物を避けることもできたのだろうが、如何せん、何がどこにあるかを把握していない研究室では万が一、ということも考えられる。
なんとか開いた扉の向こうは、…まぁ、いつも通り乱雑に散らかった資料や本をそのままにしているハンジと、室長室の様に踏み場もないぐらいにぶっ散らかしているコムイの2人の姿が。
隣を見れば青筋を立てているリヴァイ。
あーぁ…と心中で溜息を零した名前は、これから速攻で掃除に取り掛かるであろうリヴァイに特攻される二人の和気藹々とした雰囲気を呆れたような視線で見つめる。


「でねっ!ソニーとビーンが!」


「成程、なかなか興味深いね」


…あまり和気藹々と話す内容でもないのだが。
結局その日は、ハンジとコムイの研究の成果を見る、と言うよりは彼らの見事に散らかした研究室の掃除でその日の残りの時間を全て潰してしまった為、本来の目的はまた後日、と言うことになった。
そんなことがあってから数日経ったある日、名前はエルヴィンに至急見てもらいたい書類があり、執務室に居なかった彼を探し、本部の中をうろうろしていた。
途中、同じようなようでエルヴィンを探していたリヴァイと合流し、彼と共に探すことに。
何処にもいないですねー、と話していたところ、エルヴィンの叫び声が研究室のある方から響いてきた。


「…珍しいな、エルヴィンが叫び声をあげるなんて」


『そうですね…冷静沈着が売りなのに』


「…まるで他に取り柄が無いみたいな言い方だな」


『あ、すみません』


否定はしない名前に、リヴァイも否定はしない。
エルヴィンに失礼なことを言っている2人が、研究室の中に飛び込むと。


『…ウワァ…』


「…キメェ…」


名前とリヴァイの遠い目の先。
コムイはその足元で鼻が高いと言わんばかりに胸を張り、ハンジはうおーうおーと奇声を上げており。
先程情けない叫び声をあげたエルヴィンは、近くの椅子で真っ白になっていた(何かふよふよとしたものが口元からのびているのは気にしないことにしよう)。


「どーだい!?僕とハンジの自信作だよ!」


「すごくね!?マジこれすげえよ!!巨人とマシンのコラボレーション!!」


確かに、巨人とマシン、というよりはコムリンとのコラボレーションだった。
一体どうやったかは知らないが、首は巨人、体はコムリン、あと所々に不可解な物体と言う何とも訳の分からないものをつくり出したらしい二人。


「ちょっと見た目はあれだけど、コムリンの性能は今まで通りばっちりだよ!」


『あれどころじゃないですよ、アウトですアウト。見てくださいエルヴィンさんびっくりしすぎて伸びてるじゃないですか』


「ありゃ?エルヴィーン、なっさけないなあ」


「確かにエルヴィンは情けねえが何でこんなもの作りやがった、気持ち悪い」


ビキッ、と青筋の立つ音が耳に届き、またハンジは(今回はコムイも共犯だが)リヴァイを怒らせたのか、と頭を抱える。
そして目も当てられない酷い出来のコムリン、巨人バージョンを見上げた名前は、それで、とコムイに尋ねた。


『一体何の役に立つんですか、これ』


「これかい?まあ、今までのコムリンシリーズはさることながら、複雑な計算も何のその!科学班を手伝えるぐらいの頭脳はインプットしてあるよ!どうして頭部が巨人なのかは特に深い理由はない!」


『ないんですか…』


多分巨人の頭は興味本位だろう…まったく、気持ち悪いことをする…。
あうあう、と時折巨人特有のうめき声のような声を上げている目の前の光景に遠い目をする。
クロスの改造悪魔がとても可愛く見えてくるくらい(実際サチコとか可愛かった…滅茶苦茶可愛かった)目の前のコムリンの出来は酷かった。
リヴァイにひたすらボコられているハンジをため息交じりに呆れたような視線で見やった名前は、今度はその視線を目の前のコムリンに向ける。
その何も考えていないような、生気の感じられない眸が、ギラリ、と何かを宿すのを、彼女が見逃すはずもなく。
その様子に全く気付いた様子のないコムイをとっさに抱えて、黒い靴でその場から飛び去る。
コムイがいたところに巨人の頭があり、ぼたぼた、と涎を垂らしているその姿は、まるで飢えた肉食獣の様。
ぎゃあぎゃあと騒いでいたハンジとリヴァイもそれに気づき、視線をコムリンに向ける。


「うわあああ!どうしたんだい!?」


『どうしたもこうしたもありません。今こいつコムイさんを食べようとしましたよ』


「チッ…立体機動装置置いてきちまったな…」


書類処理の仕事の途中にここに来たので、当然のように立体機動装置は倉庫の中。
コムリンに向ける愛情が異常なコムイをリヴァイに抑えつけさせ、先程までじっとしていたのが嘘であるかのように理性を失ったコムリンを見据えつつ、六幻を発動する。


「え…ちょ、名前!?」


『安心してください、切れ味は保証します』


「そんなことわかってるよおおお!」


じたばたと暴れるコムイを羽交い絞めしていたリヴァイだったが、面倒になったのか、今度は関節技を決め始めている。
後ろで不気味な音が上がったのに頭を抱えつつ、こちらへと走ってくるコムリンに向き合った。


『六幻…二幻刀』


イノセンスの力でもう一本創り出された刀をもう片手に握った名前はその場から姿を消し、一瞬でコムリンの背後に回ると、機械部分を傷付けないように気を配りながら、巨人の項を削ぎ落した。
途端にガシャンッと重々しい音を立ててその場に崩れ落ちたそれ。
ハンジとコムイが二人して奇声を上げているのに名前はイノセンスを解除しながらため息を吐き出し、リヴァイはうるせえと言わんばかりに彼らの頭にたん瘤をつくり出した。



(もうちょっとまともなの作ろうと思わないんっスか、室長)
(それじゃあつまらないじゃないかリョウ君!)
(つまらないって…だからコムリン破壊されたんスよ?)
(酷い!酷いじゃないか名前!ジェームズを殺しちゃうなんてえええ!)
(馬鹿なこと言ってねえでまともな研究しやがれこのクソメガネ)
(…はぁ(前よりカオスになった…))

コムイだったらコムリンの部品とかこっちになくても代用品云々でどうにかしてそうだなあ、と…←
室長らしいコムイを出そうとしたら若干シリアスチックになってしまいました…ギャグって難しい!
エルヴィンが最後扱い酷いのはお約束(?)です…巷でヅラヴィン言われてるのでつい←
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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