小説 | ナノ


  融け合う体温



冬が終わり、春になりかけたある朝。
けれども、まだ少し肌寒くて。
いつもならば目が覚めたらするに布団から起き上がるけど、今日は腰が痛くてそれどころではない。
目の前には東亜の素肌。
情事の後は下に黒のスウェットを履くだけで、上半身には何も着ない。
私はいつも意識を飛ばしてしまうから何も着ていないけれど…こればっかりは仕方ないと言い張る。
けれど邪魔する布が無いから、東亜の温かさが直に伝わってくるのは、酷く心地いい。
未だ閉じられている瞼を緩く開いた目で一瞥してから、私は東亜に擦り寄った。


「…猫みてーだな」


『、ごめん、起こした?』


「気にすんな」


ふあ、とまだ眠そうな欠伸が聞こえてきて離れようとしたけれど。
腕枕をしてくれている腕が動いて、東亜の腕に閉じ込められてしまう。
もう一眠りしようかな、何て目を閉じた私に、東亜が可笑しそうに笑ってきた。


「また意識飛ばしてたな」


『…だって、東亜がねちっこいんだもん』


「そうかぁ?」


お前の感度が良すぎるだけだろ、と笑いながら髪を弄られる。
そういえば東亜は何かと私の髪を弄るのが多いような気がする。
流石に髪を結っているときは毛先しか弄らないけれど、こうして髪を結っていないときは、根元から梳く様に弄ってくる。
気持ちがいいから文句は言わないけれど、どうしてだろうと思った。


『東亜、なんで私の髪弄るの?』


「んー?特に意味は無いけど」


『ふーん…』


「ま、強いていうならそうだな」


くるくると指にまいて弄っていた髪の一房が前の方に引っ張られる。
そしてそれはそのまま東亜の薄い唇に当てられて、彼は態とちゅ、と口を鳴らして見せた。
真っ白なシーツに2人で埋まったまま、上半身裸で、ワックスで固められていない髪は枕と東亜の白い肌の上に散らばっていて。
たったそれだけの動作なのに、酷く艶かしく見えて顔が赤くなるのを感じた。


「名前の髪が綺麗だから、だな」


『…そう』


「あとエロい」


『……』


「お前の白い肌に良く映えるんだよ。この黒髪」


『…後者に関してはよく分からない』


「ま、それでいいさ」


そう言ってくつくつ笑う東亜に、私は赤い顔を隠すように埋めるしかなかった。
手持ち無沙汰な腕を東亜の首に回すようにして抱き着けば、腕枕をしてくれていた腕ともう一本の腕を背中に回してくれる。
ごく自然なその動作が何だか嬉しくて、さっきの後者の発言は聞かなかったことにしようかなんてぼんやり考えた。


「なあ、」


『んー』


「誘ってんの?」


『違う』


「胸、当たってんだけど」


『……ヤんないよ』


腰、痛いから。
そう言って私は目を閉じた。
東亜が何か言っていたような気がするけれど、聞かないふりをして。
仕方なさそうな彼の溜息を最後に、私は意識を暗闇に沈めていく。


「…生殺しだ」


起きたら覚悟しとけ、なんていう東亜の呟きは、残念ながら私には届かなかった。



((貴方にくっついているときが))
((一番、心休まるから))
(…お疲れさん、名前)



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