小説 | ナノ


  酒は飲んでも飲まれるな



壁外調査を終えて帰ってきて、安心できる壁内で、自身のベッドに転がり込み、泥のように眠った調査兵。
その翌日、書類に追われながらも珍しく、調査兵団内には活気があった。
どこかそわそわとした様子で書類等々を片付けた彼らは、夜になると、一同に食堂に集まった。


「飲んでますかー!副兵長!!」


『ふふ、飲みすぎないでくださいね』


食堂の中でわいわいがやがやと騒がしく過ごしている兵士たち。
そこには部下のモブリットを困らせる勢いで酒を煽っているハンジ、すんすんと鼻をひくつかせながら酒を吟味しているミケ、苦笑を浮かべ、ほどほどにしろとたしなめている名前、汚れていく机を睨み付けながらも酒を口にしているリヴァイ、そんな彼らを見守るかのように目を細めているエルヴィン。
今回の壁外調査では、負傷者はいつものように出たものの、今まで通りの生活ができないほどではなく、死者もぐんと少ない。
これはいつも死と隣り合わせである調査兵団からしてみれば大変珍しいこと、それでも命を落としてしまった兵士たちには悪いが、生き残った彼らにとってはお祭り騒ぎのようなものだった。
初めは一部の兵士たちで集まってお祝いしよう、と言うことだったのだが、いつの間にかその話は調査兵団全体に伝わり、分隊長以上の幹部クラスの彼らをも巻き込んでの騒ぎとなったのだ。
正直なところ気を抜くな、と言いたいところだが、今日ばかりは無礼講ということで大目に見たエルヴィンの一言から始まった宴会。
いつもよりもハイペースでのみ勧めていたからか、それとも、普段滅多に飲めない酒を煽ったからか、既に食堂内には酔いつぶれた兵士たちが積み重なっていて。
きたねえ…と顔顰めたリヴァイの視界に、机に突っ伏している名前の姿が入る。
傍にハンジの姿があり、その手にはジョッキ。
恐らくハンジに無理やり飲ませられたのだろう…名前は酔いつぶれるほど酒を煽るような人間ではない。
はあ、とため息をついたリヴァイは名前の下へ行き、相変わらず軽い彼女を抱えると、自分が元いた場所へと戻り、再び酒を飲む。
硬い椅子の上に寝させるのは忍びないと思い、せめてと思って膝枕をしてやったが、リヴァイの太ももは筋肉でカチカチなのだ。
正直言って椅子と寝心地はあまり変わらないような気がする。
因みにへらへらと笑っていたハンジの頭にきつい一撃を食らわせてやることも当然忘れてはいない。
すうすう、と小さな寝息を立てていたが、場所が変わったことに気付いたのか、ん、と小さな声を上げながら起き上った名前。


「、起きたか」


『リヴァイ、さん…』


「なん、っ!?」


上半身をそちらに向けたら、ゆるり、とした緩慢な動きで名前がリヴァイに縋る様に抱き付いてきた。
いきなりのことに硬直したリヴァイは、がちゃん、と音を立てたものの、手にしていたグラスは倒すことなくテーブルの上に。
明らかにいつもとは違うスキンシップ、友人同士ではなく、まさに恋人同士のものであると言えるそれを、まさか人目のあるところ(とはいえほとんどの人間は酔いつぶれているのだが)するとは。
だがやはり様子がおかしいと、リヴァイは確信していく。


『ん…リヴァイさん…』


すりすり、とリヴァイの硬く鍛えられた胸板に、その柔らかな頬を摺り寄せ甘えてくる名前の声は、いつもよりも舌ったらずで、甘い色を孕んでいる。
まさに男をイチコロにできそうなその仕草、甘い声に、リヴァイがノらないはずがなかった。


「どうした?」


内心くそかわを連発しており今すぐにでも抱き抱えて掻っ攫って自室に戻ってにゃんにゃんしたいと思っているリヴァイだが此処は耐える、まさに男の意地と言わんばかりに耐える。
それは決して酔っぱらっている彼女に無理をさせたくないという純粋な思いからではない。
普段見せないくらい甘えてくるこの彼女がどう自分を誘惑してくるかを存分にこの目におさめたいという、正に下心の塊と言わんばかりの欲望の為だった。
そんな事とは露知らず、いつもと変わらぬ様子のリヴァイに、つん、と唇を尖らせる。
心の中の机を叩き挙句の果てに叩き割っているリヴァイに気付く者は当然いない。


『リヴァイさん…好き、好きなの…』


「どうした、今日は随分素直だなあ?」


『んん…私はいつも、素直…』


意地悪なリヴァイの返答に、きゅ、と眉を寄せ上目づかいに彼を見上げる名前。
いつも大人びているせいか、なんだかそちらの方が年相応に見えて。
ちゅ、と額にキスを落としたリヴァイにもっと密着するように、名前はその太い首に腕を回し、細い足でリヴァイの腰で挟むかのように動かしながら、彼の足の上に乗ってくる。
いつも恥ずかしがって自分からはこんな行動にはでないのに、酒の力は偉大だなんてことを考えながら、名前の腰に腕をまわして万が一にも落ちないようにする。


『…いつも、不安…』


パーティーに行けば綺麗な人が、自分とは違い、戦いの中に身を置かない美しい女がリヴァイに近づいていって、リヴァイを誘惑していること。
経験豊富なリヴァイと違って、リヴァイが初めての人である自分はリヴァイを満足させることができているのかということ。
リヴァイよりも一回りも年下である自分が。果たしてリヴァイとつりあっているのかと言うこと。
上げればキリがないらしく、ぽつりぽつりとその口を突いて出る不安に、リヴァイは小さく笑って見せた。
密着している名前がそれに気づかないわけもなく、こっちは真剣に話しているのに、と不満げな視線をリヴァイに向けた。


「不安になることはねえ…お前に比べたら他の女なんて、ひじきみてえなもんだからな」


『…ひじき、知ってるんだ』


「まぁな(そこか)…それでも不安なのか?」


『…うん、不安』


きゅ、と目を細めたその端正な顔は、やはり酒のせいで赤く染まっている。
眸の焦点は未だ合わず、ぼんやりとリヴァイを視界に入れているのがなんとなくわかった。


『だから…』


私だけを、見て…?


こてん、と首を傾げ乍ら、可愛らしい欲求を言って見せる名前に、リヴァイは心の中で散々転がり回っているがそんなことはおくびにも出さないあたり流石と言うべきか。
普段は名前から迫ってくることが滅多にないからか、この状況を楽しんでいるリヴァイは、彼女を煽るかのような言葉ばかりを口にした。


「名前だけを、か?」


『ダメ?』


「フ…名前の努力次第だな」


『私の…?』


ぼんやりとした頭では思考は働かないだろう。
きっといつもの彼女からは想像もできない行動を起こしてくれるに違いないとそう踏んでいたリヴァイは、次なる名前の行動を待っていた。


『ん…』


リヴァイの首にまわしていた両腕を外し、その厚い肩に載せ、自身はリヴァイの足の両脇に膝たちになる。
そのまま両腕に力を込めて、彼を後ろに押し倒した。


「!」


椅子の上に寝転んだリヴァイの上で、女豹のポーズと言われるそれをしている名前。
名前の柔らかな胸がリヴァイの固い胸板に押しつぶされているが、名前本人に気にした様子はない。


「酔っぱらうとこんなに大胆になるんだな…いいことを知った」


『…酔っぱらって、ない…』


「フッ…そうか」


鼻を鳴らしながら満足そうなリヴァイ。
ここにまともな者が居たら「副兵長に何てことさせてるんですか!」と注意したかもしれないが、残念ながらここには酔いつぶれたものがほとんど、ストッパーのエルヴィンはトイレに行っていて名前がリヴァイに絡みだした辺りからさっぱり戻ってこない。
リヴァイは誰も止めないのをいいことに、きゅ、と持ち上がった小さな尻から、そらされた背中やわき腹を厭らしい手つきで撫でる。
ん…、と甘い声で僅かな反応を示した名前は、耐えるようにリヴァイの首筋に顔を埋め、小さく息を漏らしていた。


「は…くそ…もう食っちまうか」


好きな女の体に触れ、女は甘さを匂わせている。
これはもう、据え膳食わぬは男の恥というやつだろうと判断したリヴァイは、よし、と意気込むが。


『…すぅ』


「…………は、」


耳元で聞こえてきた、安らかな息。
ぴしり、と体が石化したように硬直したリヴァイは、その小さな言葉を吐き出すまでに些かに時間を要し、理解までにはさらに暫くの時間を要した。
規則的に繰り返されるそれは、正に寝息。
酔った彼女は自身に絡み、自身を誘惑してきたにもかかわらず、やり取りの途中で眠ってしまったのだ。


「………生殺しだ…」


目豹のポーズはいつの間にか崩れ、今はリヴァイの上に名前が乗っかって寝ているという状況。
これがハンジならば容赦なく床に落とすのだが、リヴァイは名前にはてんで甘い。
普段名前がリヴァイを怒らせるようなことをやらないということもあるのだろうが、基本的には名前にされるがままだし、リヴァイもそれを受け入れている。
はぁ、とため息をついたリヴァイは遠い目をしたまま、寝返りなど売って名前が硬い食堂の床に落ちてしまわぬように、その細い体に腕を回した。



(おや…リヴァイ…)
(エルヴィン…明日明後日、俺と名前に休みを寄越せ)
(あぁ、2人から報告書は上がってきてるから構わないが…)
(明日はみっちり、こいつを躾けてやらねえとな)
(……程々にな)
((すまん名前、私に今のリヴァイは止められない))

酔った副兵長でした…迫るのって難しいですね←
なんかこう、嫌なキャラが迫ってくるのは簡単に書けちゃうのに思った以上の難産←
贔屓してるからか…そうか…文章滅茶苦茶ですみません!
でも楽しかったです←
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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