小説 | ナノ


  ちぐはぐな心と身体



頭が痛い、視界がゆがむ、寒気がするくせに、汗が尋常じゃない…着替えたい…


まとまらない思考のまま、ぐるぐるとそれらの言葉が頭の中を回る。
怠いのは日頃の疲れた溜まったせいか、と思いながら、目覚めたリヴァイは隣を見ると、そこにいるはずの名前はおらず、もぬけの殻。
触れてみてももう体温が感じられないほど冷たくなっていて、一瞬で頭が覚めたリヴァイは、ガバッ、と体を起こしたが。


「っ、――〜〜っ」


へなへな、と力なくベッドの中へ逆戻り。
何故だ、昨日の晩、そんなに名前を抱いていなかったはず…(リヴァイの“そんなには”は2回程度)。
年か、年なのか…!とひとり虚しく枕に顔を埋めていると、控えめなノックの後に、これまた控えめな声で聞こえてくる。


『失礼します』


「名前か…」


『あ、リヴァイさん』


目、覚めたんですね。大丈夫ですか?怠いですよね、


心配そうな表情でリヴァイのふせっているベッドに近づいてくる名前の腕には、氷水のいれられた桶と、何枚かの清潔なタオル。
それをサイドテーブルに置いて、うつ伏せになり、枕に顔を半分埋めながらこちらをぼんやりと見ているリヴァイの頬に白い手を滑らせる。


『リヴァイさん、動けますか?せめて仰向けに…』


「名前…俺は…」


『風邪です。昨日、シャワーから戻った後すぐに意識飛ばしちゃったから、疲れてるのかなとは思ってたんですけど…』


気付けなくてごめんなさい、としょぼん、とする名前。
自分のこの倦怠感が年のせいではないと分かったからか、大きく安堵のため息を吐き出すと、突如襲ってくる喉の違和感。
げほげほと繰り返されるそれにおろおろ、とした名前は一通り咳をさせた後、力が入らなくて重いリヴァイの体を支えて仰向けにさせた。


「はぁ…自分の体の管理もできねえとはな…」


『そんな…最近ずっと働きづめだったじゃないですか』


体調崩しても仕方ないですよ、と言いながら、氷水に付けられている布とは別の布を取り出す。
そちらは冷たくなく、少し暖かかった。


『一度寝る前に体を拭きましょう。多分これからもっと汗をかいちゃうと思いますけど、今も多分気持ち悪いだろうし…』


リヴァイが少しでも気分よく寝入るための配慮だろう。
本当に俺のことを良く分かってる、と思いながら、名前の腕を借りてヘッドボードへと体を預ける。
久しぶりに風邪を引いたと思ったら相当酷いものらしく、体がぎしぎしと軋んでいると、ボタン外しますね、という名前の声が聞こえてきた。
普段恥ずかしがるような行為ではあるが、リヴァイは今病人。
名前は真剣な、それでも心配そうな表情を浮かべて、リヴァイの上着を脱がせた。


『リヴァイさん拭けますか?』


「いや…腕が上がらねえ」


『じゃあ私が拭きますね』


痒いところがあったら言ってください、と言い甲斐甲斐しく体を拭き始める。
手加減は手慣れたもので、ちょうどいい力。
吹かれたところが外気に触れ、ひんやりとして気持ちいい。
上半身を終える頃には、先ほどより気分がいい。
流石に下半身を拭かせるわけにはいかないということで、名前がクローゼットからリヴァイの着替えを用意している間に、いつもよりも緩慢な動作で下半身の汗を拭う。
着替えをしている間も同じようにリヴァイに背を向ける。
終わったぞ、と言う弱々しい声に振り返った名前は、ベッドに横にっているリヴァイの傍にある椅子に腰かけた。
ちゃぷちゃぷ、と桶の中の氷水に布を浸して、それを絞ったものをリヴァイの額に。
その際、前髪をかき分ける名前の指先がくすぐったかったのか、リヴァイはわずかに眸を細めた。


『薬はハンジさんに頼もうかと思ったんですけど…何をやらかすのかわからないので医務室のものを持ってきました』


「無難だな…」


『出来たら胃に何か入れてほしいんですけど…一眠りして、目が覚める頃に持ってきますね』


薬はその時に飲みましょう、と言う穏やかな声。
あぁ、と返事は返すものの、今にも瞼がくっついてしまうそうだ。
体を拭くのは、すっきりはするものの、代わりに多くの体力を持って行ってしまったらしい。


「食うの…お前が作れよ…」


『!、勿論、美味しいの作りますね』


「楽しみに、してる……」


『…おやすみなさい、リヴァイさん』


完全に瞼が閉じ、小さく聞こえる彼の寝息。
風邪だからだろう、その息は浅く、いつもより間隔が短い。
早く彼が良くなるようにと祈りを込め、瞼に小さくキスを落とした名前は、物音を立てないように、リヴァイの部屋を後にした。


「……ぅ」


ひやり、とした感覚に、意識が浮上する。
朝に目覚めた時よりは軽くなった瞼を持ち上げれば、見慣れた木目の天井が視界に入る。
傍に感じる人の気配に視線を向ければ、ボードを下敷きにして、膝の上で書類を処理している名前がいた。


「…名前?」


『、あ。リヴァイさん、目が覚めましたか』


「あぁ…」


汗をかきながらひと眠りしたおかげか、まだ若干の倦怠感は残っているものの、朝より気分はいい。
が、やはり汗は気持ちが悪い。


『一人で着替えられますか?』


「あぁ」


『じゃあ、リヴァイさんが着替えている間に、作ったやつ温め直してきますね』


何かあったらすぐに読んでください、と名前は、ゴーレム――エクソシストの通信機器――を置いていく。
どうやらリョウから借りたらしく、もう一つは名前が持ち歩くことになっている。
便利だな、と独り言ちながら、温かい濡れタオルを準備してから食堂へと向かう名前を見送った。
リヴァイが拭き終えてから暫くして戻ってきた名前は、大きすぎない土鍋と、水の入ったグラスを2つ、お盆に載せて戻って来た。
それを、サイドテーブルに置こうとしたのだが、残念ながらそこには既に桶などが置かれていて、スペースが無い。
ありゃ、と声を漏らしたものの、イノセンスで机を作り、その上に置く。
使われているところをあまりみられるなとは言われているが、リヴァイが相手なら問題ないだろう。
かたり、と土鍋のふたが開けられると同時に、ふわりと香るいい匂いと、湯気が立ち上る。
朝の時点では食欲などかけらも見せなかったリヴァイの腹が、素直にお腹が空いたと根を上げた。


「……」


『ふふ、食欲が戻ってよかった』


あまりに症状が酷そうだったが、咳はさほど多くないし、鼻水もそこまでではないらしい。
熱と倦怠感、関節の痛みが中心となった症状は、既に終結を見せ始めているものの、まだ油断はできない。


『自分で食べられそうですか?』


「…食わせてくれ」


『、分かりました』


風邪のときは人肌恋しくなると同時に甘えたくなるのだろう。
自分も同じだったと思えば、少々恥ずかしいものの、無理なものではない。
小皿に土鍋の中身を盛り分けて、それを蓮華ですくい、リヴァイがやけどをしないようにある程度冷ましたものを、彼の口元へ。
「あ、」と小さな声を出してそれを口に入れたリヴァイは、もぐもぐ、と口を動かして、それをゴクリと嚥下した。


「…美味い」


『良かった。皆さん、リヴァイさんが風邪だって聞いたら、材料持ってきてくれたんです』


牛乳、卵、僅かながらの肉、その他もろもろ。
それらを上手く利用したものが、リヴァイが今食しているリゾットなのだという。
愛されてますね、と顔を綻ばせている名前に、お前が風邪をひいたときはもっと酷かったぞ、と言いたかったが口を噤んだリヴァイは二口目のそれに口を付ける。
食欲が戻ってきていたおかげか、土鍋の中身は空になり、リヴァイは満足、と言わんばかりの表情だ。
食べてすぐに眠るのは、と言うことで、起きている間に歯磨きを済ませる。
リヴァイは潔癖症と言うこともあって、いつも念入りに済ませる。
朝一番に磨けなかったということもあるのだろう、いつもより時間を掛けているその後ろ姿に、名前は小さく笑ってしまったがリヴァイが気づくことはなかった。
漸くそれを追えてベッドに戻ってきたリヴァイに、名前が薬を準備しながら言う。


『エルヴィンさんが、念のために明日も休んで構わないと言っていました』


「明日も?」


『はい。リヴァイさん随分根を詰めてましたし、既に仕事もしばらく先まで休を急ぐようなものはないそうです』


「そうか」


しっかり休んでくださいね、と言いながら、用意した薬をリヴァイの手に載せた。


「…口移しじゃないのか」


『!?もう!そんなわけないじゃないですか!』


顔を赤くしてそう声を張り上げるものの、リヴァイの頭に響かない程度に抑えられている其れに、リヴァイは小さく笑う。
遊ばれてる、と感じた名前はぷく、と頬を膨らませれば、リヴァイが腕を野張り、つんつん、と優しく頬をつつく。


「んなことやっても可愛いだけだ」


『…もう、』


ぷぅ、と詩文で空気を逃がした名前は、どうしてそんな恥ずかしいこと言えるんですか、と文句を言いながら、水の入ったグラスをリヴァイに差し出す。
お前限定だ、と心の中でそうつぶやいた彼は、手に載せられた薬を口内に、そのまま水で流し込む。
このご時世、砂糖は貴重品であるため、向こうと同じく苦い薬が砂糖などのように、甘いものでコーティングされるだなんてことはない。
良薬は口に苦しを正に再現したかのような薬が常用されており、出来るものならもうここの薬は飲みたくない、注射で済むならそっちの方がいいと名前に思わせるくらいだ。
ごくん、とリヴァイの喉仏が動き、口直しにもう一口二口水を煽れば、グラスの中は空になる。
それを受け取り、お盆の上に載せた名前。
リヴァイは、さっさと治してしまおうとベッドの中に潜り込んでいく。


『何か必要な物とかあったら、言ってくださいね』


リヴァイの食事をしたものを片付け、部屋から出ようと立ち上がった名前。
名前の手はお盆に触れる前に、リヴァイの手に掴まれた。


「…行くな」


ここにいろ


その言葉に名前は動きを止めるが、でも、片づけをしないと、やら、食器を返さないと、と渋る。
片付けたらすぐに戻ってくると言っても、リヴァイが首を縦に降り、彼女の手を開放することはなく。
結局、しびれを切らしたリヴァイが彼女の腕を引っ張り、ベッドの中に引きずり込み、観念した名前は、もぞもぞとブーツとジャケットを脱いで、ベッドの下に落とす。


『十分元気じゃないですか』


「馬鹿言え、名前が軽すぎるだけだ…」


ふあ、と欠伸をしたリヴァイは、彼女が出て行ってしまわぬようにと、その細い体を抱きしめて瞼を閉じる。
もう、と仕方なさそうな声を出して、自身の背中にまわされた腕と、髪を優しく梳く温もりにずぶずぶと引きずり込まれるように、意識を手放した。



(名前さん、食器回収に来ました)
(、ごめんね、ペトラ)
(いえ!名前さんは兵長と居てあげてください)
((普段人一倍頑張っている兵長への))
((ささやかなご褒美ですから!))
title:識別
風邪ひき兵長でした…!
いかがだったでしょうか…でもリヴァイってあんまり風邪をひかないイメージ…鉄人か(笑)
最初に年か…!?ってなったのは普段部下たちに「自分の体調管理ぐらいしっかりやれ」と言っている自分がまさか体調を崩すとは考えもしていなかった結果です。
決してバカではありません←
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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