小説 | ナノ


  その輝きは貴方の眸と同じ色



「女は、男に贈り物をされると嬉しいらしい」


ふと、唐突にそう口にしたリヴァイ。
しかし彼の表情は至極真面目、と言うか追いつめられているように見えて、いつも話題を巨人にすり替えたり、まじめな他人を笑ってしまったりと全く相談相手に向かないハンジも、流石におちゃらけるのを止めたようだが。


「…どうしてそれを私に言うんだい?」


ハンジのその言葉の直後に、リヴァイの拳が炸裂したのは言うまでもない(理不尽!)。


「でも、急に贈り物なんて…」


さすさす、と頬をさするハンジ。
湿布の貼られているリヴァイに殴られて晴れ上がった頬は痛々しいが、本人は痛い、というだけでさほど気にした様子は見られない。
最も、危害を与えた張本人であるリヴァイには、その怪我を心配する様子も全く見られないのだが。


「…そろそろ記念日なんだよ」


「記念日?あぁ!ヘタレなリヴァイが名前にやっとの思いで告白して受け入れてもらったうぼあっ」


「余計なこと言ってんじゃねえ…!」


全くこの人は、学習しないというかなんというか…そう心の中で合掌をする周りは、そろそろ始まってしまいそうなリヴァイの惚気を耳に入れてしまう前にとそそくさと退散する。
別にリヴァイの惚気の中心人物である名前が嫌いなわけではない、寧ろみんな大好きなのだが、悔しくて悲しくて聞くに堪えないために退散するのだ。
ここで104期生の主席がいたならばとんでもない戦いに発展するのだろうが、幸い彼女を含めた彼らは訓練のためにここにはいない。
ハンジはがらりと人のいなくなった食堂を一瞥し、殴りあげられた顎を摩る。
…赤くなってるだろうなあ。


「で、本題は?」


「…名前へのプレゼントが決まらねえ」


「え?もう買ったんじゃないの?」


「まだに決まってんだろうが。目星はつけてあるが、もしそれが名前の好みドストライクじゃなかったらどうすんだクソメガネ!!」


「怒んないでよ!でもやっぱりヘタ「あ゛?」なんでもなーい!」


拳が飛んでくる前に睨まれたハンジはするに謝り、でもさあ、と唇を尖らせる。


「名前の好みなんて、リヴァイが一番分かってると思うけど」


「……」


「(あ、嬉しそう)」


表情が乏しく、一見何を考えているか分からない仏頂面のリヴァイだが、名前のこととなると表情は豊かになるらしい。
とはいえ、エレンのように全力で表現するわけではないが。
ハンジは名前を一目見た時から、この子は愛される子だろうなとは思っていたが、まさか人類最強を骨抜きにするとは。
まあ、名前を守るためにと、より一層の努力はしているし、彼女のおかげで生存率も上がっている、調査兵団内の士気も悪くない。
名前が来てから良いこと尽くしで逆に怖いな、なんてことを考えていたハンジの耳が、リヴァイの声を拾う。


「ハンジ、テメェに頼みたいことがある」


「ん?何だい」


かくかくしかじか、とリヴァイから説明を受けたハンジは、胸ポケットから一枚の紙を取り出して、それに視線を落とし乍ら、食堂から名前のいるであろう、副兵長室へと足を進めていた。
ハンジがリヴァイから頼まれたのは、名前の好みとリヴァイがデザインしたアクセサリーのデザインが一致しているかどうかを確かめる、と言ったものだった。
確かに、いちいち「好きな形は?」だなんて聞かないだろうから、そこらへんの把握が心配だったのだろう。
視線を落としている紙の絵が上手いということは、デザイナーが彼の指示を受けて描いたに違いない。
言っちゃ悪いが、リヴァイの絵は壊滅的だ。
ノックの直後に扉を開けるという不作法、リヴァイなら必ず睨みか拳か蹴りが飛んでくるが、名前は苦笑を浮かべるだけで咎めることはしない。
一度巨人の事を避け、空いたスペースに叩き込んだデザインのことをさりげなく聞いてみる。
一通りの質問を終えたハンジの表情は、どこか生温かいものだった。


『ハンジさん?』


「いやあ、邪魔したね!また今度一緒にお茶でもしよう!」


『?はい、喜んで』


何処か釈然としていないようだが、話を切り上げたハンジを引き留めることなく見送った名前。
ハンジはそれに心中感謝しながら、報告を待っているであろう、食堂に残っているリヴァイの元へと向かう(なぜ彼が隣の自身の部屋にいないかというと、微かに聞こえてくる名前の声が否定的なものだったら立ち直れなさそうだからというハンジからしてみればくだらない理由だった)。
先程の名前との会話を思い出しながら歩いているハンジの足取りは自然と荒くなる。
何も彼女に対して怒ったりしているのではなく、リヴァイのとんだ茶番に巻き込まれてしまうという貧乏くじを引いてしまった自分に対して、と自身に言い聞かせていた。


「ぬぁーにがドストライクじゃなかったらどうするー、だ」


見事にドストライク射ぬいてるっつーの、というハンジのつぶやきは、自身の荒い足音にかき消された。


「……」


「…リヴァイ?」


「…なんだ、エルヴィン」


「いや、それはこちらの台詞なんだが……」


何故か自身に与えられている部屋ではなく、エルヴィンの団長室にいるリヴァイ。
名前の部屋ならともかく、何故彼が自分の部屋にいるのだろうか、と思案したエルヴィンだったが、リヴァイの手にある箱を見て、あぁ、と察しの良い彼は悟る。


「成程、隣の部屋じゃ気配も感じるだろうしな」


「……」


「しかし、其れ1週間も前から持ってないか?」


「…うるせぇ」


リヴァイの手の中には、白い包装紙に包まれた正方形に近い箱に、彼女の眸と同じ翡翠色のリボンの巻かれたシンプルなプレゼント。
まさか指輪…!?と目を見開いたエルヴィンだったが、其れに釘をさすようにリヴァイが口を開く。


「指輪じゃねーぞ」


「そ、そうか…(良かった、もう結婚のことを考えられていたらどうしようかと)」


「正直迷ったがな」


「……」


あ、危ねえ!!


普段のエルヴィンの口調は何処に行ったのかと言いたいぐらいだが、所詮は心の声、リヴァイの耳に届くことはなかった。
ならばその箱の中身は一体なんだと気にはなったが、他人のプレゼントの中身を聞き出すだなんて無粋な真似はしない。
まあ、いつまでも団長室のソファの上でそわそわされても、はっきり言って仕事の邪魔(気になって仕方がない)になるので。


「っ、おい、何の真似だ」


「君らしくないぞ、リヴァイ。さっさと渡して来い。名前だって待っているはずだ」


「!」


ぱたんっ。


何か言いたげなリヴァイを遮るような形で扉を閉めたエルヴィンは、速攻で鍵を掛ける。
…とはいえ、人類最強の蹴りが繰り出されれば、この鍵もあってないようなものになってしまうのだろうが。
扉の前に立っていては巻き添えを食らうと少し離れて見るが、なかなか蹴られる気配はなく。
そっと扉に耳をくっつけて廊下の音を聞こうとすれば、コツコツと団長室から遠ざかっていく足音が一つ、リヴァイや名前の部屋のある方向へと向かっているのが分かった。
安堵のため息を吐き出しているエルヴィンとは対照的に、リヴァイは手の中の箱を、握りつぶさない程度にギュッ、と握る。
ハンジには何の心配もいらないからさっさと渡して来いと言われたし、エルヴィンには彼女も待っていると促された。
名前は無欲だ。
何か欲しいものはないかと言っているのに、リヴァイが一緒に居てくれれば何もいらないだなんて可愛いことしか言わない。
今まで女なんて、金目のものを与えればたいていは喜んだし、それを望んでいた。
しかしそんな彼女らは、本気で好きになったわけではないし、体だけの関係、一夜限りの関係なんてものもざらだ。
めんどくさいから縁を切るためのという意味合いを込めて金目のものを与えた。
そんなやり取りしかしてこなかった自分が、本気で好きになった女と結ばれ、その記念日に何かをプレゼントするようになるとは思ってもみなかった。
そう考えれば考えるほど、プレゼントの中身はもちろん、相手の反応も気になり、尻込みしてしまう。
これではハンジの言うとおりのヘタレじゃねえか、とため息をついたリヴァイに、心配そうな声がかけられた。


『リヴァイさん、お疲れですか?』


「!、っ、名前…」


『なかなか入って来られないので、』


宜しかったらどうぞ、とリヴァイが通れるように扉を開ける名前。
どうやらぐるぐると悩んでいるうちに彼女の部屋の前まで来てしまったらしい。
はあ、と自嘲する様に小さくため息をついたリヴァイは咄嗟に隠したプレゼントをポケットの中に隠し、綺麗に掃除された部屋の中へと足を踏み入れた。


『コーヒーと紅茶、どちらをお淹れしますか?』


「…いや、どっちもいらねえから、俺の隣に座れ」


『?はい』


首を傾げた名前は、ぽすん、と彼の隣に腰掛ける。
近づく前からなんとなくわかっていたが、今日のリヴァイは何だか落ち着きがない。
そわそわしているというか、視線が泳いでいるような気がして、いつもの彼らしくないな、と名前はそんなことを考えていた。
何か悩み事でもあるのだろうかと思えば、自分の恋人を心配しない人間はいないとばかりに、何かあったのかとリヴァイに問う。


「…いや」


『でも、リヴァイさん、なんだかいつもと様子がおかしいです』


「、そうか?」


『はい。心配なんです、』


何か力になれないかと、一人で抱え込まないでと自分を見る真摯な眸。
リヴァイはその眸を見て、恋人に心配かけてどうする、年分を叱咤し、覚悟を決めた。
ごそ、とポケットの中から箱を取り出し、それを引き寄せた名前の手の上に載せた。


『、ぇ…?』


「…記念日の、プレゼントだ」


『!』


リヴァイのその言葉に目を見開いた名前は、その手の上の箱に視線を落とす。
シンプルながらも色合いの可愛いその箱を胸の前できゅ、と握りしめ、リヴァイに微笑んだ。


『ありがとうございます、すごく嬉しい』


頬を染め、本当にうれしいと言わんばかりの表情を浮かべる名前に、リヴァイの心が満たされていく。
中身を見てもいいですか、と聞いてくる彼女に小さく頷いたリヴァイの耳に、リボンの解かれる音、包装紙の剥がされる音が届く。


『わぁ…!』


中に入っていたのは、雫の様な形で細やかなカットを施された、涼やかな色をした鉱石のピアス。
それは名前の好きな色に一番近い色、寧ろそのものの色だった。
女の子らしいハート形や星形よりも、彼女は流線形のものや、幾何学模様のようなものを好む名前の好みを見事に射抜いたデザイン。
凄く気に入りました!と目を細める彼女に、リヴァイは内心、深い安堵の息を吐き出した。


『あ…でも、私ピアスホール、片方しか開けてない…』


「!」


何たる盲点。
まさか片方しか開けてなかったとは…!と項垂れるリヴァイに、教団から支給された通信機を付けてた方は開けているのだが、そうではない方は開けていないのだと申し訳なさそうな顔をする名前。
暫く逡巡した名前は、いいことを思いついた、と笑みを浮かべた。


『リヴァイさん、片方、リヴァイさんが付けててくれませんか?』


「、俺が?」


『はい。私は右耳に付けますから、リヴァイさんには左耳に付けてほしいんです』


別に耳に穴を開けるのはたいした問題ではないが、名前への贈り物を自分が、片方ともいえども受け取っていいものか。
しかし、ダメですか…?とこちらを見上げる名前にやられたリヴァイは、彼女の言うとおりに片方のピアスを受け取った。


「…このままぶっさせばいいのか?」


『えええ!だ、ダメです!』


ピアスをつけることを了承したのはいいが、リヴァイはどうやらピアスの開け方を知らないらしい。
荒療治に踏み切ろうとした彼を止め、じゃあ名前が開けてくれ、と言ったリヴァイに苦笑した彼女は、リヴァイと共に医務室へと向かった。
それからというもの、片方ずつ、揃いのピアスをしている副兵長と兵長が目撃され、周りがざわつくことになるのだった。



(しかし何で片方ずつなんだ?)
(エレン、あれには意味があるんだよ)
(意味?なんだよそれ)
(左耳は守る人、右耳は守られる人、って意味が込められてるんだ)
(!マジか!ああああいいなあ兵長おおお!!)
((…エレンと、ピアス……))

もだもだ兵長でした!
もだもだしてる間ずっと名前出てきませんでしたね…彼女目の前にして渡せなくてもだもださせようと思ったのに思いのほかハンジとエルヴィンが出張りました←
でもリヴァイってピアスに合わな…←
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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