小説 | ナノ


  鳴門×海賊 01



ベポは、上陸した島でペンギンに頼まれた買い物に出ていた。
こういうのは別に珍しいことじゃないと気軽に引き受けたベポは、一軒目の店で早くも後悔していた。


「で、出て行っとくれ!くくく熊に売る商品なんかない!!」


明らかに怯えた表情の店主。
精神的に打たれ弱いベポは、その店主に追い出されるように店の外へと。
周りを見れば、自身に向けられているのは恐怖の目ばかりで、気分が落ち込んでいく。
海賊という、長期間海に出ていく彼らが買わなければならないものは多い。
それなのに一件目からこんな調子では、時間がかかろうが掛からまいが、全ての買い物を済ませることができるかどうか。
はぁ、とため息をついた白熊は、気分転換にと、広場に売っているアイスを購入しようとしたのだが。


「ココナッツキャラメルを…」


「ひぃぃぃいい!!」


ここでもか、とバタバタと逃げ出す店主。
周りにいたはずの子供たちも居なくなっており、ベポはその場から逃げるように走る。
こんなことならば誰かについてきてもらえばよかった。
街のはずれの噴水の淵に腰掛けたベポは、ぐすん、と鼻を啜った。


『どうぞ』


「、ぇ…?」


『ココナッツキャラメル、』


ふわりと香った、美味しそうな甘い香りと共に降って来た、凛とした綺麗な声。
ベポが顔を上げれば、そこには白銀の髪に金色の眸をした、美しい女が一人。
差し出されている手には、先ほどベポが頼もうとしていたココナッツキャラメルのアイスがあり、もう片方の手には、彼女が選んだであろう、ストロベリーのアイスがあった。
ぽかん、とした表情を浮かべているベポに、首を傾げた彼女は、『ん、』と再び促す様にアイスを差し出す。


「おれに…?」


『…悲しそうな顔、してた』


放っておけなくて、とそう小さく言った彼女は、ベポが恐る恐るそれを受け取ったのを確認し、そのまま彼の隣に腰掛けた。
人の気配が感じられない街のはずれの噴水広場で、アイスを食べる2人。
もくもくとアイスを食べ始めてしまった隣の彼女に戸惑いつつも、ベポはアイスをつつく。


「あ、あの、」


『?』


「ありがとう、すごく食べたかったんだ!」


『…どう、いたしまして』


すごくおいしい、と言えば、良かった、と声にはしなかったものの、ゆるりと笑みを浮かべる彼女。
島の人々は自分の姿を見てひどく怯えたのに、その様子を全く見せない彼女に気を許したのか(アイスのことが一番大きいのだろうが)、ベポが口を開く。


「ここの島の人たちは、どうしてあんなに怯えてるの?」


『…数日前、サーカス団のシロクマが逃げ出した』


彼女の話によると、そのシロクマが島民を襲ったのだという。
元々芸をするためではなく、世界的に珍しい大きさ、つまり異常に大きいシロクマという見世物としてそのサーカス団にいたため、人間慣れしていなかったのだろう。
見世物として出されるときも、頑丈な檻の中、加えて四肢を鎖でつながれ、決して見物人に危害を加えないようにと厳重に施されていたらしい。
そんなシロクマが檻の外へ出た途端、人間を襲っても何ら不思議ではない。
その出来事のせいで、彼らの中にはシロクマに対して絶対的な恐怖が刻まれたのに加え、そのシロクマの大きさが異常であったのと同じように、二足歩行で言語を喋るベポの奇妙さも恐れの対象になったのだろう。


「シロクマはどうなったの…?」


当然、殺されたのだろうと思っていた。
いくらシロクマの体が大きいからと言って、人間たちには銃火器や刀と言った武器が存在している。
それらの威力は、海賊であるベポが十分知っていた。
彼女から返されるであろう答えの予想がつきながらも聞いてしまうのは、やはりそのかられる対象が、自分と同じシロクマだからかもしれない。


『…逃がした』


「、へ?」


『故郷があると…だからそこに』


ぱりぱり、とコーンをかじる彼女。
ベポの視線が向けられていることに気付いたのか、彼女は視線を上げて、彼の円らな眸を見つめる。
その澄んだ眸を見れば、彼女が嘘なんかついていないことが分かる。
野生の勘というのだろうか、ベポは感じていた。
彼女が、普通の人間とは明らかに違うということに。


「…ありがとう」


『?』


なぜ君が礼を言う?と言わんばかりの怪訝な表情を浮かべながら首を傾げた彼女に、おれと同じシロクマだから、とそう返したベポは、最後の一口を食べて立ち上がった。
名前も知らぬ彼女に元気をもらったベポは、買い物をしようと決意したらしい。
今ならどんなに怖がられても、何とかなりそうな気がしたから、と。


『…付き合う』


「え?」


『…私と一緒の方が、スムーズに済む』


「!ありがとう!!」


リストを見せてと手を出した彼女の小さな手に、ペンギンの筆跡の紙が載せられる。
それを一通り眺めた彼女が、ここから近い場所から済ませようと歩き出し、ベポがそれについていく。
人通りが多くなるにつれて、やはり向けられる視線。
しかし、彼女が隣にいるからか、先ほどよりも気にはならない。
彼女は顔が広いのだろうか、行く先々の店主や従業員、客はベポに驚きながらも、彼女が傍にいるからと買い物を続行したり、ただ奇妙なものを見るような視線を向けても、突っかかったりすることはない。
徐々にベポの腕に積み重なっていく買い物の商品を心配そうに見つめながら、最後の一件に足を踏み入れた。


『…凄い量』


「へへ、島に着いたら一気に買うから」


折角仲良くなった彼女に、海賊だからというのは憚られた。
海賊は一般人には嫌われる存在と知っていたベポは、彼女にそう言って誤魔化し、ローに頼まれた医学書の入った袋を腕に引っかかっていた別の袋に入れてもらった。


『リストも、入れとく』


「ありがとー!ホントに助かった!」


『困ったときは、お互い様』


「何かお礼がしたいなあ…」


そうは言ったものの、日は既に落ちかけており、辺りはオレンジ色に染められている。
彼女はゆるり、と首を振り、小さく笑った。
お礼はいらないと、そう言っているように見える。


『今度は、人と来た方がいい』


「うん!あ、今度いつ会える!?」


『…近いうちに』


ふらりと、踵を返そうとした彼女を慌てて呼び止めて名前を尋ねる。


「おれはベポ!君は?」


『…名前』


そう言って浮かべられた笑みは、今まで見てきたどの女よりも綺麗だったとベポは語る。
島から戻ってきたベポが酷く上機嫌なのに、クルー、もローも首を傾げたのは言うまでもない。


***
やってしまった鳴門×海賊…最初の用はさっぱり鳴門要素は出てこない←

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