小説 | ナノ


  晒される誘惑



真夏らしく、辺りを照りつける太陽。
時間が経てば経つほど、ぐんぐん上昇する気温。
そして、


み゛ーんみ゛んみ゛んみ゛ん…


『…蝉の大合唱ですね』


「誰だ、こんなのを夏の風物詩だっつったのは…」


ただうるせえだけじゃねえか、と不満を漏らすリヴァイ。
名前はそんなリヴァイの言葉に苦笑を浮かべながら、食堂から持ってきたアイスコーヒーを彼の机の上に置く。


『そういえば、ハンジさんが巨大樹の森にでっかい蝉がいるんじゃないかって言ってましたよ』


「放っておけ。アイツの奇行は今に始まったものじゃない」


ごくり、とアイスコーヒーで喉の渇きを癒しつつ、机の上の書類を一掴みし、それを名前に差し出す。
それを受け取って、ソファの前のローテーブルの上に置き、自身はソファに腰掛けた。
テーブルの上には、先ほど置かれた書類の他に、ペンにインク、ペン立てと言った、事務処理に必要な道具が一通りそろっている。
本来ならば、各々に当てられた部屋で作業をするのだが、どうやら分別を担当している新兵がミスをしたらしく、兵長であるリヴァイと、副兵長である名前の書類が混在して彼のもとに届けられてしまったらしい。
これではいちいち互いの部屋を行き来しなければならなくなり、結果的に効率が悪くなることは目に見えていた為、こうして名前がリヴァイの部屋にお邪魔して仕事をすることになった。
名前はテーブルの上の書類を分別しつつ、自分のサインが必要なものにペンを走らせる。
そうした作業が暫く続けていると、時間の経過とともに室内の温度が上昇していく。
特に体を動かしているわけでもないのに、額から流れる汗。
弟たちはこんな炎天下の中訓練に勤しんでるのかと思うと不憫でならないが、単純な作業を繰り返すのも中々酷なものがある。
ぐい、と汗をぬぐった名前は、我慢ならないと言わんばかりにジャケットに手を掛けた。


「…暑いのか」


『すみません、我慢できません』


「…いや、構わない」


いつもと変わらない声色のリヴァイを見やる名前。
彼はまるで、この暑さをもろともしていないかのように汗ひとつ流していない。
寧ろ、この暑さよりも窓の外で繰り広げられている蝉の大合唱の方に不快感を抱いているようだ…汗腺がいかれているわけではないんだろうな…明らかに健康体だから。
名前は脱ぎ去ったジャケットを畳んで、ソファの上に置き、長袖のYシャツの袖をまくって肘から下を晒し、再び作業に戻る。
室内に響く音と言えば、紙と紙が擦れ合う音、ペン先が紙を引っ掻く音、インクの水音、そして蝉の煩い鳴き声ぐらいだ。
名前は、少々(?)気が短い、まさに猪突猛進型と言わんばかりの弟であるエレンの面倒をよく見ていたからか、彼とは真逆の性格となった。
何か行動を起こす前は一通りに計画を立て、相手の考えを読み取ろうと神経を張り巡らし、周りの状況をいち早く把握しようとする、どちらかというと、アルミンに近いものがある。
その為、姉弟といえどもエレンなら耐えられないであろう沈黙にも耐えられるし、このクソ暑い中、切れてしまいそうな集中力を何とか繋ぎ止めて仕事に勤しむこともできる。


『これ兵長の分です』


「あぁ、置いておけ」


リヴァイの視線の先にある書類の山に、手にしていたものを積み重ねる。
名前はその隣にある、まだ分別されていないものを手に、再びソファの方に戻っていく。
リヴァイはふと手を止め、そんな彼女の後姿を眺めた。


「……」


『、?どうかしました?』


「…いや」


名前の体に巻き付く立体機動装置のベルト。
夏、ということもあり、恐らくYシャツの下には下着しか着ていないのだろう。
しっとりと微かに汗に濡れた為に、布からわずかに透ける肌の色と、Yシャツの上から全身を締め付けるベルト、微かに見える下着のライン。
あぁ、不味い、と、リヴァイは唾を飲み込む。


「(エロ…)」


自分よりも10歳ほども年下の女に欲情してしまうのは、やはり惚れた弱みというやつなのだろう。
今までもちろん、女を抱いたことはある。
他人の女事情には全く興味はないが、それなりに数もこなしてきているということは知っている。
しかし、自分がこうも翻弄されるのはこいつだけだと、リヴァイの視線は再び名前に向けられた。
自身の上司がそんなことを考えているとはつゆ知らず、書類処理を続けていた名前は、ふと自身に視線が向けられていることに気付く。
じぃ、とあまりにも熱いその視線に全く身に覚えがない名前は心中相当困惑していたが、あの、とようやっと口を開いた。


『何か…?』


「名前、ちょっとこっちに来て立て」


『?はい』


こてん、と首を傾げながらも立ち上がった名前は、リヴァイの指示通りに彼の傍に行き、その場で足を止める。
いつの間にかリヴァイも立ち上がっており、互いに向き合うような体勢になっていた。
名前の身長は、リヴァイとそう変わらないか、寧ろ彼より少し小さいぐらいで、幼なじみ組の中でも一番身長が低い。
しかしその中で、調査兵としては一番の強さを誇る(ただし力はそこまで強くない)のだから、やはり身長とスペックは比例しないのだろう。
名前は最初、なんだなんだとぐるぐる思考巡らせていたが、リヴァイの視線が自分の体を這うように眺めているということに気付くと、途端に顔が赤くなる。


『あのっ、兵長っ』


「なんだ」


『も、もう座ってもよろしいでしょうか…?』


「…仕事はもうほとんど終わっているだろう。まだだ」


…確かに、リヴァイの言うとおり、仕事が早いと評判の名前は既に仕事の終盤に差し掛かっていた。
後ほんの1時間ほどあれば終わってしまうぐらいだが、いつの間にそこまで把握したのかは全く分からない。
嘘をつくと耳が赤くなる、ということを見抜かれてしまっているために嘘をつくことはできず、結局リヴァイの言うとおりにその場に立っていることしかできなかった。


「…前々から思っていたんだが」


『?』


「立体機動装置のベルトは、何かを狙っているような気がする」


『???』


何を訳が分からないことを、と首を傾げる名前には、リヴァイの脳内を知るすべはない。
この人類最強が、この無表情で(名前に関して)どんな如何わしいことを考えているか。
調査兵団団長は、人類の希望を背負う男として全力で隠し通せと言いたいくらいだという。
そんな他人の悩みなど露知らず、リヴァイはその手を名前に伸ばし、くいっ、と指をベルトと彼女の体の間に引っ掛ける。
右手は胸元のベルト、左手は太もものベルトの内側をなぞっていた。


「特に夏はな…」


『ひゃっ』


ぐいっ、と右手を引っ張れば、ベルトに引っ張られるように引き寄せられる彼女の細い体。
リヴァイはそれをもろともせずに受け止め、太もものベルトを這っていた筈の左手は、彼女の背中にまわされる。
ベルトを這うように、Yシャツ一枚越しの名前の素肌に触れるように。
敏感な個所を触られているわけではないのに、厭らしいその手つきのせいで跳ねる体。
リヴァイはその敏感な反応を楽しんでいるかのように、小さく笑った。


「俺以外の前で、ジャケットは脱がない方がいい」


『、へ…?』


「見えてるぞ。下着も、お前の白い肌も…」


『っ!!』


「見るのは俺だけでいい…分かったな」


『え、いや、あの…』


出来たらリヴァイにも見てほしくはないと言いたいのだが、耳元で囁かれる彼の声が、今まで聞いたことが無いくらいに優しくて、くらりと揺さぶられる平常心。
それでもやっぱり、羞恥が勝り、リヴァイの肩に手を置いて距離をとるのだが、それがいけなかった。


『あっ…』


いつも無愛想な仏頂面ばかりが浮かべられているその顔。
しかし、名前を見つめている今の表情は、先ほど掛けられた声と同様に、今まで見たことが無いくらい穏やかに緩められていて。
名前の心臓の動きが早くなる。
…リヴァイが心中で、一体何を考えているのかなど知らぬまま。



(ねぇ知ってるかい、エルヴィン。リヴァイがあのすました表情の下で一体何を考えているのかを)
(…大体予想はつくが一応聞いておこうか)
(「名前の立体機動装置のベルトは俺が外すためにある」だよ絶対!)
((…悲しいかな、一言一句間違えていないとは))
(あの…兵長?)
(なんだ)
(お仕事を…)
(…覚えておけ、お前のベルトをもがっ)
((誰かこの変態を止めてくれ!!))

エレン姉、の要素は出せていたかどうか甚だ疑問です…←
エレンと同じような猪突猛進型にしようかと思いましたが、副兵長なのでそこらへん思慮深くないと務まらないかなと思うとこうなりました…そしてあんまりえろくない←決定的ミス
なんだかんだ言って上半身より下半身の締め付けのほうがエロイよなとか考えてたら完全にオヤジ化してしまったので自重しました…そのうち書きたい←
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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