小説 | ナノ


  この世界に生まれたことを



二度目の人生というべきか。
そんなことを感じながら生きてきたけど、この世界も中々悪くないと思っていた。
巨人はいるけど、AKUMAはいないし、向こうほど物は充実していなけど、両親は優しいし、一緒に居てくれる。
向こうのサーカスで培った身体能力も、イノセンスもそのまま持って生まれてしまったけど、両親は受け入れて、変わらず愛してくれた。
幸せな日々、温かい家庭、零れる笑顔。
こんな日々が、ずっと続くと信じていたのに。


『…お父さん…お母さん…?』


頼まれた薪を拾いに行って、いつもと同じぐらい拾い終えてから帰ってきてみれば。
家の中は血まみれ。
横たわっている見覚えのある人。
自分の中の何かが、急速に冷えていくのを感じた。


「っ、おい!ガキがいるぞ!!」


「丁度いい、父親は殺しちまったからな…ガキの髪は真黒だ」


「まだガキだが上等じゃねえか!こりゃ高く売れるぜ!」


高く、売れる…?


家の中にいる4人組の中の一人の言葉にフラッシュバックする、向こうでの人身売買の光景。
向こうでは元帥が助けてくれた、けど、ここでは助けてくれる人はいない。
もし私が冷静だったなら、黒い靴でも発動して逃げれば一発だっただろうに。
多分、酷く許せなかったんだと思う。


『っ、う、あぁぁあぁあああ!!』


イノセンスで刀を創り出して、奴らに斬りかかった。
それでも本能的に人を殺すことを拒絶したのか、急所を狙うことはなくて。
もし、元帥としてAKUMAの討伐をしていた私だったら、その程度で4人ぐらい簡単に伸せたかも知れない。
でも、今の私は子供だった。
体力も力も身長も何もかもが大人の男には及ばない、ただの子供だったのだ。
最後の一人に斬りかかろうとした瞬間、後ろから棍棒のようなもので頭を強く叩かれ、意識を失った。


「いってぇな…!このガキ!!」


「おい殴るな!大事な商品だぞ!」


薄汚れた地下街。
そこの住人である一人の黒髪の青年は、いやに静かな路地に響く男たちの声に耳を傾けていた。


「(…人身売買か)」


この地下街じゃ当たり前、それが子供であるならばなおさら。
誰しも自分の実を守るので必死で、たとえ人身売買の光景を見たとしても見て見ぬふりをする。
それが当たり前、それが常識だった。
そうだった、はずなのに。


「でも本当にきれいな顔してやがる…本当にあの両親から生まれたのか?」


「おいなんだそりゃ、血がつながってねえと言いてえのか?」


「いや、そうじゃねえよ。本当に人間なのかどうかってこった」


「?人間だろ、動いてたんだから」


「…でも、確かに可笑しな能力使ってたよな」


可笑しな能力…?


男たちの足音がやんだ。
立ち止まった場所は、青年からほど近い。
そろそろと足音を立てないように近づきながら、男達を盗み見れば、近くの酒屋に入っていく3人、一人が路地に立っていて、その足元には何かを包み込んでいるような布が1つ、無造作に置かれていた。
おそらくあれが商品、人身売買に連れて行かれる人間なのだろうと理解したリヴァイ。
ふと、もぞり、と布が動くのがわかった。


『ん…?』


男は気づいていないのか、青年の隠れている路地とは逆方向に視線を向けたままぼんやりとしている。
もぞもぞと身じろぎしたせいか、布からわずかに、顔が覗いた。


「!」


白い肌、美しい翡翠色の瞳。
そこしか見えなかったが、その美貌は十分に理解できた。
そこからの青年の行動は早かった。
男が未だに路地の向こう側に視線をやっている隙に、近くに落ちていた棒で男を殴り、気絶させる。
不意を打たれたからか、あっけなく沈んだ男は声を上げることもなく。
足元のそれを抱え、自分が元いた路地へと走る。
あの男たちから逃げるように、誰にも見つからないように。
自身が根城としている場所へと辿り着いた青年は、抱えていたものから布を外した。


『っ、…』


「おい、大丈夫か」


『、ん…』


先程よりもはっきりと開かれた目は、やはり美しい翡翠色だった。
男たちの言っていたとおり、およそ人間とは思えないほど整った顔立ちに、均整のとれた美しい身体。
なる程確かにこれはいい商品になっただろうし、買われたとしたら相当の値段がついていたに違いない。
普段ならそういったことを考えるはずであろう青年の頭は、全く別のことを考えていた。


「…お前、名は」


『名前…』


「名前か…俺はリヴァイ」


『リヴァイ、さん…?』


助けてくれてありがとうございました、と掠れた、疲れきったような声でいう名前。
だがその表情は、ゆるやかな笑みを浮かべていて。
ゴロツキでありながら潔癖症のリヴァイは、男たちに乱暴されたせいで薄汚れてしまった名前を優しく抱きかかえた。


「お前、一人か」


『ひと、り…?』


あぁ、そっか、お父さんも、お母さんも、もう―――…


『…ひとり、ひとりぼっち…』


「…俺と一緒に居ろ」


俺も一人だというリヴァイを見上げた名前。
人相はいいとはいえないが、その眸は優しげな色を灯していて、その向こうには、また別の色を灯しているのが見えたが、その頃の名前にはそれが一体何なのかはわからなかった。


『一緒…一緒にいてもいいの…?』


「…あぁ」


名前は自身を抱きかかえているリヴァイの首に、恐る恐るといった様子で細い腕を回す。
密着した体温が、ひどく暖かかったのを覚えている。
名前はそこで、目を覚ました。


『…そう言えば、一目惚れ、だったのかもね』


「?なんだ、急に」


リヴァイに与えられた部屋で過ごす二人。
ベッドに横になり、彼の腕枕に頭を預けていた名前は、ふとそんなことを言い出した。


『夢を見たの…私がリヴァイに助けられた時の夢』


「…ずいぶん懐かしいのを見たな」


何年前だ、とどこか呆れたような声色ではあるが、話には付き合ってくれるらしい。
名前は小さく笑うと、自身の体をリヴァイに更に近づけ、首元に顔を埋めた。


『リヴァイが連れ去って逃げてくれて、初めて顔を見た時に、リヴァイが好きになった』


「!」


『ねえ、リヴァイはいつから?』


「…同じだ」


『、っへ?』


すりすり、と猫のように擦り寄っていた名前の頭を、くすぐってえと笑いながら撫でていたリヴァイの口から出た言葉に、彼女の動きが止まる。


「初めは布からわずかに見えたお前の目にとらわれた。その後、お前を連れ去ったとに布を全部外した時に、な」


『、目?』


「なんでかは覚えてねえがな…」


そう言って、名前の顎に手をかけて上を向かせると、彼女の目元に優しく口付ける。


「…あの時、良かったな。俺と一緒にいることを選んでて」


『?』


どういう意味だと首を傾げた名前の細い体に腕を回し、強く強く抱きしめる。
自身の体全体で感じる柔らかい感触、温かい体温、すべてが自分のものであるということに、とてつもない幸福感を感じた。


「そうじゃなかったら、鎖でも使って縛り付けてた」


『!?』


「それぐらい惚れてたんだよ」


『(一目惚れの衝動ってそんなに恐ろしいものだっけ…)』


リヴァイの腕の中で冷や汗を流しつつ、やはり彼を選んで正解だったと思った。
彼のお陰で、一度はやはりこんな世界、と思ったのを、考え直させられたから。
やっぱりこの世界にうまれてよかったと、思えたから。
そんなことを心中で考えながら、名前は再びリヴァイの首元に顔を埋めた。



(……)
(のんきに寝やがって…さっき言ったこと忘れてんのか)
(…まぁいい)
((俺から逃げられると思うな))
((何処かに逃げようものなら、必ず追いかけて捕まえてやる))

…一目惚って、難しいですね←
もうほっとんど一目惚れ要素出せなくて済みませんでした!!
名前はともかく、リヴァイは恋愛感情とかよくわかんないかなと無駄な考えを巡らせてしまったので…こんな結果に…!
でも楽しかったです…(どうしようもない)
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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