小説 | ナノ


  目線が変わって見える世界



「あああああ名前さん飲まないでくださいっス――!!!」


『っ、』


響いたリョウの声に驚いて、口の中に含んでいたアイスティーを飲み込んでしまった名前。
ごくんっ、と言う音が耳に届いたのか、リョウはその顔を青くして、「解毒剤作ってくるっス!!」と再び走って去っていこうとしたが、名前のイノセンスによって彼の影が伸び、しゅるり、とリョウの足を絡めとる。
びたんっ、と倒れたリョウと同じ部屋にいるのは、名前と共にお茶を飲んでいたリヴァイ、ハンジにエレン。
ぐすぐすと泣き始めてしまったリョウに対し、ハンジはキラキラとした視線を向けてきた。


「名前!!何か体に変化はないかい!?」


『変化?今のところは』


ないですけど、と言おうとしたのだろうが、その声は、ぼふんっ、という小さな爆発音にかき消され、彼女の姿は黙々とした白い煙に覆い隠されてしまった。
名前の回りにいた彼らは小さくせき込み、リヴァイの指示でエレンが近くの窓を開け放てば、そこから少しずつ煙が外に。
煙が晴れたそこには。


『けほっ…うー…しみる…』


「!?ふっ、副兵長!?」


『へ?』


煙が目に染みたのか、ぐしぐし、と涙の滲む瞳を拭っていた名前を指さしたエレンが大きな声を出す。
リヴァイは声が出ないと言った様子で固まり、ハンジに至っては奇声を発して名前を抱き上げていた。


「うぉぉおおおめっちゃ可愛いいいいい!!!つかすげえ!!ホントに幼児化した!!!」


『…りょう?』


舌ったらずな可愛らしい声が、若き科学班の一員の名を呼ぶ。
目の前でわあわあ騒ぎ立てているハンジから視線を逸らした名前は、未だ倒れているリョウの首根っこをイノセンスで掴み、そのまま猫の様にググッ、と持ち上げる。
自身の力を使っているわけではないために軽々と持ち上がったリョウは、べそべそと泣きながらひたすら弁解を繰り返した。


「ずびばせん…つい懐かじぐなっぢゃっでぇっ」


まさかハンジに持ち出されるとは思ってもいなかったのだと、涙をボロボロと流す。
名前大好きなリョウからしてみれば、彼女に叱られることがいかに辛いことか。
自分の作った薬によって彼女が苦労する羽目になるなんて、と本当に申し訳なさそうに泣き続けている。


『なつかしく?、ってことは…』


もしかして、と顔を引きつらせる名前の言いたいことが分かったのだろう。
リョウはコクリと頷いて見せた。


「教団の引っ越し騒動の時に神田とラビが幼児化したのと同じ薬っス…」


『…はあ、はやくげどくざいつくってきて』


「勿論っス!で、でも、その前に…!」


呆れたような名前の声に頷いたリョウだったが、白衣の中をごそごそを漁ったかと思うと、そこからゴーレムを取り出す。
ぱたぱたと羽ばたき始めたそれは、ぐるぐると旋回した後に名前をまっすぐ見つめるように飛ぶと、ジジッ、という機械音を響かせる。


「さっ、撮影をっ」


バキッ


「あ゛――!!!」


『いいからはやくつくってきなさい』


リョウを下し、床に散らばった破壊されたゴーレムの破片をイノセンスで包み込んでやると、部品をイノセンスで包んだままリョウに手渡す。
大切な部品がばらばらにならないように器用に壊れされたから、復元するのは問題ないだろう。
「ううう相変わらずっスけど名前さんのちっちゃいの可愛いっス、天使…」とぶつぶつ言いながら部屋を出て行ったリョウ。
そんな彼の少し寂しそうな後姿を見送った3人。
ハンジは腕に抱いた名前の頭にぐりぐりと頬ずりする。


「うっはあー!!ほんとにお人形さんみたい!超可愛い!」


『はんじさん、こまりました。わたしこのサイズのふくもってません』


「おっ、俺と一緒に街に買いに行きませんか!!」


『わいしゃついちまいででるのはちょっと…』


薬のせいで幼児化させられてしまったものの、あまり動じていない様子の名前。
教団であれだけ騒いでいればいやでも耐性はつくのだろうし、幼児化したラビと神田を目撃している…むしろ外野であるエレンとハンジが騒がしい。
いつまでたっても名前を離そうとしないハンジから名前を取り上げたリヴァイは、彼女をその腕に抱く。


「ハンジ、街に服を買いに行け。エレンはエルヴィンにどっかの馬鹿のせいで名前が仕事ができなくなったと報告しろ」


「「ええー!!リヴァイ(兵長)だけずr「あ゛?」いってきます!!」」


指示を飛ばすリヴァイに初めは駄々をこねようとした二人だったが、低いリヴァイの声に態度を一変させさっさと部屋を後にする。
名残惜しそうに何度もちらちらとリヴァイの腕に抱かれた名前の姿を振り返っていたエレンは、結局リヴァイによって扉が閉められるまでその行為を繰り返していた。


「体に異常はないか」


『、だいじょうぶです。いしきもきおくもしっかりしてます』


「…ならいいが」


リヴァイは名前を腕に抱えたまま、床に落ちてしまった名前の隊服を拾い、誰にもすれ違わないようにと細心の注意を払いながら廊下を進んでいく。
名前のことを思っての行動ではあるのだろうが、どうせ誰かに見られてしまうのでは、とリヴァイの部屋についてから彼女はリヴァイに告げた。


「どういうことだ?」


『きょうだんではすでにげどくざいがつくられていたのですぐにもどれましたけど…ここではさいしょからつくらなきゃならないので…』


向こうに比べて、圧倒的に薬品も機材も少ない此処で、どれくらいの時間を掛ければ解毒剤が作れるのか、正直なところ、皆目見当がつかないと言ったところだが、こればかりは致し方ない。
リョウも悪気があって作ったわけではないし、名前にその薬を仕込んだのはハンジの飽くなき探求心のため(だったら自分で試せよ、と言いたいところだが)…幸い事情を話せば理解してくれる人たちが調査兵団には集まっている。
だったら皆に伝えるのは早い方がいいのでは、というのが名前の意見らしい。
対してリヴァイは、小さくなってしまった名前を離さず自身の膝に乗せソファに腰かけたが、無言を貫いている。


『りばいさん?』


大人になった現在でも人形のように可愛らしい顔立ちをしているが、子供のころはそれがさらに顕著に現れている。
肌に触れれば、子供特有のもちもちとした感触。
くりくりとした翡翠は変わらず美しく、膝に乗っても名前のほうが小さいために必然的に見上げる形となるが。


「…(クソ可愛いな…)」


子供なんて煩わしいだけ、第一リヴァイの人相があまりよろしくないため、子供が近づいてくることもまずなかった。
名前は体こそ幼児化すれども、記憶は逆行することなく現在のものを保っているため、恐れることなくリヴァイと接する。
そんな彼女を、調査兵団の面々は普段から慕っている。
もし彼女が幼児化してしまったと知ったら…とんでもないことになるだろう。
仕事が仕事なだけにそう簡単に子供を授かろうだなんて考えられない彼らも、子供が欲しいとは考えているに違いない。
本物の子供の様とはいいがたいが、愛でるには十分すぎるほどだ。
普段の彼女と違って、何でも自分でできるわけではないのだから調査兵団の面々が全員で構いたがるだろうし、そんなことになったら疲れるのは名前、機嫌が悪くなるのはリヴァイ。
こんなことになってしまうのだということを名前に伝えれば、彼女はその愛らしい顔を少し困ったように歪め、眉を下げた。


『それは…すこしこまります』


記憶が逆行していないのだから、精神年齢だって変わらない。
まだ未成年とはいえ、良い年した自分が皆に世話を焼かれるだなんて…恥ずかしすぎる。
きゅ、と名前が唇を噛んだのに気付いたリヴァイが唇をなぞることでそれをやめさせる。


「あのバカ犬が薬を作れたっつーことは、解毒剤のつくり方も知ってんだろ。その間は俺と一緒に行動すればいい」


『でも、りばいさんにごめいわくを…』


「気にすんな」


寧ろ他人の手に渡ったら俺が心配で仕事に手がつかねえ


そういえば名前は小さく笑って、よろしくお願いします、と頭を下げた。


「リヴァイー!服買ってきたよ!」


「あぁ。ハンジ、てめえこのことは誰にも口外すんな。口外した瞬間手前の命は無いものと思え」


「リヴァイが言うと洒落になんないなー…うん、まあ私の責任でもあるし」


ちら、とハンジの視線が名前に向けられる。
彼女は懇願するような瞳をハンジに向けていて、ハンジは見事それにやられた。
ぎゅうっ、とリヴァイから奪った名前を抱き上げて抱きしめると、もちもちの白い頬に頬ずりする。


「ああん!そんな眸で見られたら従うしかないじゃないか!」


『たすかります、はんじさん』


「その舌ったらずさもいいね!いっそこのまま子供のままでも「ハンジ」やっぱり早急に戻らなきゃね!」


何だか今日は変わり身が早すぎて忙しいな、なんてことを胸中で思いながら、ハンジの買ってきた服を漁り、出来るだけ落ち着いているものを引っ張り出す(ちゃんと幼児用の下着も買ってきてくれたことに感謝しなければ)。
洋服を引きずらないように抱え、とてとてと歩く名前の後姿に悶える2人。
ぴょんっ、と跳ねて器用にドアノブを開けた名前は、脱衣所の向こうに消えていった。


「はあああ可愛いなあああ…」


「エルヴィンが飛んできそうだな…」


「あぁ、一応報告はしてるんだっけ」


「エルヴィンの事だからエレンに口止めはするだろうが…本人がここに来そうで、」


「リヴァイ!名前が天使になったとは本当か!?」


「どっかで伝言ミスがあったみてえだな」


ばたーん!と部屋に入ってきたエルヴィンは息を切らせている…団長室から走ってきたのだろうか…
エルヴィンの後ろからエレンも続いて部屋の中に入って来た。


「エレンよ…お前エルヴィンになんて報告した」


「名前副隊長が天使になってしまったと!」


「グズが」


ばきっ、と蹴り飛ばされたエレンはそのまま部屋の外へ。
彼が再び中に入ってくる前にさっさと閉じ、鍵まで掛けてしまったリヴァイは、部屋の外で「入れてください!名前副兵長に会いたい!!」と叫んでいる彼の声を完全に無視している。
殺気のリヴァイの様子から何かおかしいということを察したエルヴィンが、違うのか、天使じゃないのか、とリヴァイに問う。


「んー、天使は天使なんだけどねー」


リヴァイの代わりに口を開いたハンジ。
2人が話している間に、ドアノブががちゃ、と音を立てたのに気付いたリヴァイが、外側から開けてやる。
そこではハンジが買ってきた服を身に纏った名前が、リヴァイを見上げていた。


『あ、りばいさん…』


「無理すんな」


『すみません、たすかります』


リヴァイはかがんで、名前を抱き上げる。
暴れることなく彼に体を預けた名前は、落ちないようにリヴァイの首に腕をまわした。


「名前…?」


『、えるびんさん』


名前です、と頷いて見せた名前に、エルヴィンの動きが固まる。
暫くはそのままだったが、無言で悶えはじめる…どうやらエルヴィンもこの姿にやられてしまったらしい。


「!!、!!!」


「うんうんわかるその気持ち!」


「…おい、てめえら2人名前がこの姿の間近づくんじゃねえ」


何か危険な臭いを察したリヴァイが二人にそう言い放つ。
が、結局のところ、リョウの解毒剤が完成するまでに何度も彼らは会いに来るし、何処で漏れたかは不明だが、調査兵団内に名前が幼児化してしまったという話が広がってしまった為、名前は自らリヴァイの自室に引きこもることになってしまったのだった。



(んう…、すぴー…)
((可愛い可愛い可愛い可愛い…名前とのガキはこんな感じなのかもな…))
(…りば、…ぃ、さ…)
(!)
(ふふ、………しゅき…)
(……)←嬉しすぎて気絶


い、いかがだったでしょうか…!
もっと悶えさせるはずだったのに…幼児化要素があんまり…ない…だと…!
取り合えずエルヴィンに阿保みたいなこと言わせたかったんです、すみません(でも後悔はしていない)
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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