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  巡ってきた季節が夏だとして



※下ネタ注意

「あ…暑い…」


じわじわと熱気の漂う日。
こんな暑い日にジャケットなんて着てられるか!と言わんばかりにエレンはジャケットを脱ぎ去っている。
他の面々――といってもリヴァイやハンジ、リョウしかいないのだが――も、暑苦しそうな表情を浮かべている。
ただ、リヴァイだけは平然としているが。


「暑くないんですか…兵長…」


「だらしねぇなてめぇら」


「リヴァイは最早人間じゃないのかもいった!!」


ハンジの言葉にリヴァイの足技が繰り出されれば、この人も学習しないな、というエレンとリョウの視線がハンジに向けられた。
そんな感じでぐでぐでと一同がすごしていると、がちゃ、と扉の開く音がして名前が入ってくる。
ただ、その恰好はいつもとだいぶ違っていたが。


「っ、名前副兵長っ…!」


『あぁ、おはよ、エレン…』


あつい、と首筋に滲んだ汗をグイ、と濡れタオルで拭う。
そんな彼女は、教団仕様のハイネックノースリーブアンダー一枚にホットパンツ。
いつもなら履いているオーバーニーやアームウォーマーは暑さに耐えられなかったらしく、その身には着けられていない。
あぁ、と納得したような表情のリョウが口を開いた。


「名前さんは暑いのが苦手なんだよ」


「!そうなんですか…(だ、だからあんな刺激的な格好…)」


「おぉ。だから世界を巡回するときも暑いところには行こうとしなかったし」


『…師匠に引きずって行かれた時は本当に死ぬかと思った』


どうやらその言葉は本当らしく、ふらふらと覚束ない足取りの名前。
彼女は自分と同じようにぐったりとしている面々の中で、平然としているリヴァイを見つけ、僅かに瞳を輝かせた。


『…リヴァイさん、ちょっといいですか』


「あ?」


なにが、とは明言しなかったためリヴァイは首を傾げたが、それを気にすることなく名前はリヴァイに近づき、そのまま、


ぴとっ、


「!?」


『あ…ちょっと涼しい…』


「あああああああ!!兵長ずるい!!」


エレン同様、ジャケットを脱いでいたリヴァイにくっついた名前。
暫く黙っていたが、どうやら今の自分よりはリヴァイのほうが冷たかったらしく、ふにゃ、と気持ちよさげに眸を閉じる。
それを見たエレンは声を荒げ、リョウは「あー」と苦笑を浮かべ、ハンジは「いいな…私も涼みたい」とぼんやりうわ言のように呟いていた。


「名前さん、この時期になると自分よりも体温の低い人にくっつこうとするんだよ」


「、てことは、もしかして…」


「おー、任務中は基本一人だったからくっつく奴はいなかっただろうけど、本部に帰還中は神田とか、あと科学班に入り浸ってたりしてたなあ」


科学班は空調管理が整えられてるから、というリョウ。
あそこには薬品や機械類が集中しているため、それらが異常をきたさないために空調管理は欠かせないのだという。
そうなんですか、とエレンはそういうものの、彼の視線はリヴァイにくっつく名前と、満足げな表情を浮かべているリヴァイの2人に向けられていて。
諦めろ、というリョウの言葉は残念ながら彼には届いていないらしい。


「全員死んでるな」


「エルヴィン団長!」


そんななか、名前同様、がちゃりと扉を開けて現れたのはエルヴィンだった。
暑い外をここまで移動してきたからだろうか、額にはうっすらと汗をにじませている。
そんな彼はぐったりとリヴァイにもたれかかっている名前に近づき、彼女に箱を出しだした。


『、私に?』


「憲兵団の誰かさんからだ」


『?』


憲兵団にそんな親しい人はいないけど、と首を傾げた名前はリヴァイにくっついていた体を起こし、エルヴィンの差し出した包みを受け取る。
なるべくゴミが散らばらないように丁寧に開けた箱の中には、ひんやりとした夏の風物詩が入っていた。


『!アイス!!』


「まじっスか!?」


ぱあっ、と顔を輝かせた名前に悶絶する一同だったが、彼女はそんなことはお構いなし。
向こうのものと少々外装は違うものの、それはまごう事無きアイス、彼女の夏の必需品と言っても過言ではないそれを嬉々しながら包みから取り出す。


『ちょうど6本入ってるから、皆で食べましょう』


溶けてしまわぬうちに、とそれをその場にいた全員に配る。
バータイプのそれは溶けてしまえば垂れてしまうので、その前に食べてしまわなければ悲惨なことになってしまう。
受け取って早速、彼らはそれを口に運び、はああ、と幸せそうな表情を浮かべた。


「つめてー…」


「生き返るねえ」


「あ、この味名前さんの好きな味っスよ」


『ほんとだ』


向こうで名前は様々な味のアイスを食べていたが、中でも好きなのがイチゴ練乳だった。
その次に好きなのが抹茶味とかいう全く系統のわからない好みだが、そこは気にしないことに。
アイスを口に咥え、側面の垂れそうな部分を舐めとる。
暑さのせいで若干顔の赤い名前とその舌づかいを見て居たエレンは、ごく、と生唾を飲み込んだ。


「あれ、エレン、想像しちゃった?」


「ひょわっ!!」


突然かけられたハンジの言葉に過剰な反応をしてしまったエレン。
リヴァイから向けられる鋭い視線から逃れつつ、隣にいるハンジに小さな声で言う。


「なっ、何言ってるんですかハンジさん!」


「え、だってそういう顔してたから」


「――〜〜!だ、だって!」


「うぅん、でも分かるかなあ」


厭らしい食べ方してるもんね、というハンジの言葉と同時にハンジとエレンの視線は名前に向けられる。
その時、ぽくっ、と名前が咥えていた部分が折れてしまった。
やはり中の部分も軽く溶けてしまっていたらしい。


『ん、』


名前が咥えていた部分と残っている部分を離せば、つぅ、と伸びる練乳。
それに気付いて慌てて口内のアイスと共に、練乳が落ちないように舐めとる。
その一連の動作を見てしまったエレンは顔を真っ赤に、ハンジはニヤニヤと笑い、エルヴィンとリヴァイは硬直、リョウはあああああと奇声を上げていた。


「もー!名前さんそんな厭らしい食べ方しちゃダメっス!」


『ふぁ?(は?)』


「見てくださいよあのエレンの真っ赤な顔!」


「えっ、ちょ、リョウさん!」


リョウの指さした先にいるエレンを見れば彼は顔を真っ赤にしていて。
如何したのだろうか、と首を傾げた瞬間、エレンは若干前かがみになりながらそこから飛び出していく。
あまりに素早いその動作にポカーン、として一同だったが、その沈黙を破ったのは意外にも名前だった。


『急にお腹冷えたから痛くなったのかな』


「ぶふぉっ!」


噴き出したのはハンジ。


「全然違うけどそんなところも可愛いっス!」


ずれてるのはリョウ。


「エレン…後で締める」


「若いんだ、許してやれ」


青筋を立てるリヴァイと宥めるエルヴィン。
各々がばらばらな反応を見せる中、首を傾げた名前が、ぺろり、とアイスを舐めた。



(おい聞いたか?名前副兵長はイチゴ練乳が好きらしいぞ)
(あ?俺は嫌いって聞いたけど…)
(抹茶が好きだそうだぜー?)
(((どれだ…!?)))
それ以降定期的に様々なアイスが送られてくるようになったらしい
(んー…しあわせ…)
(おい、憲兵団からの奴どうにかなんねぇのか)
(どうにかって言われても、捨てるのも勿体ないし)
(何よりあんな幸せそうな顔で食べられてたらねぇ?)
(チッ…)


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