小説 | ナノ


  ヤンベルト×無気力主 01



一体いつ、どこで道を踏み違えてしまったのだろうか。
ライナー・ブラウンは自身の幼馴染の事をひたすら考えるが、その答えはなかなか出て来ない。
しかしもう一人の幼馴染、アニ・レオンハートは言う。


「初めて会った時からあんな感じだったけど」


と。


初めての出会いは、よくあるお引越しの後のご近所挨拶だった。


「隣の家に越してきました、苗字と申します」


その家の息子、ベルトルト・フーバーが、両親不在のために代わりに対応をする。
そんな彼の友人である二人も、両親居ないから遊びに来なよ、と言われ集っていたため、彼らもどうせ近所だからと纏めて挨拶してしまおうと玄関に集う。
そこには清楚な女性と、彼女と手を繋ぐ一人の少女。
少女の艶やかな黒髪は肩甲骨のあたりまであり、黒曜石の眸からはあまり生気が感じられず、無気力そうな表情を浮かべる顔は整っているのと相まってまさに人形の様。
手足もほっそりとしていて、年ごろの女の子なら憧れるような全てを兼ね備えているような子だった。
母親に促されて自己紹介をする少女の声は、凛と鈴が転がされているように慎ましやかで上品。


『…苗字名前、です』


よろしくお願いします、と頭を下げればさらりと肩から零れ落ちる黒髪。
ライナーはいつも通りの兄貴肌全開で「おう、よろしくな」と少女と向かい合っていたため気付かなかったのだろう。
ただアニは、反応を見せないベルトルトを不審に思い、彼を一瞥していた。


「…可愛い」


あの時のベルトルトの表情は忘れない、忘れられないと彼女は続けて語る。
一体どんな表情なのか、それは今でも彼女は語ろうとしない。
それからというもの、名前の両親は共働きでなかなか家に帰れないということもあり、少女はよくベルトルトの家に預けられることが多かった。
ベルトルトの両親も娘を欲しがっていたということもあり快く引き受けたし、何よりベルトルトが少女を気に入り、自ら率先してなにかと世話を焼くようになった。
大人しく聞き分けの良い名前の世話に手間がかからないからか、それからもアニとライナーが彼の家を訪れる頻度は変わらず、自然と4人で過ごすようになっていったのだった。


「そういや、名前は友達と遊んだりしないのか?」


今日も今日とて集まった4人。
ベルトルトの胡坐にはまるように座っている名前にライナーが尋ねる。
日中は彼らも小学校があるため、名前と一緒に居てやることはできないから、彼女は幼稚園に預けられているという。
午前中は幼稚園、弁当を食べて午後は家に帰ってきて、ベルトルトたちが帰ってきたら彼らと一緒に過ごす。
これが名前の一日のサイクルだった。
友達がいれば、午後にでも集まって共に遊ぶのだろうが、少女にはその傾向は見られず、いつも自分たちと過ごしている。
そんな彼女の友達づきあいを心配してのライナーの言葉だったが、名前よりもベルトルトのほうが過剰に反応を示した。


「名前…!ぼ、僕よりも友達と一緒に過ごしたいの…!?」


「ベルトルト、さっきのは別にアンタに向けられたわけじゃないんだけど」


そういうアニの言葉も聞こえないのか、ベルトルトはとても悲しそうな顔をして名前を見下ろしている。
対して名前はいつもと変わらぬ生気の感じられない眸のままで、こてん、と首を傾げる。


『ともだち…?』


「ほら、幼稚園とかで一緒に遊んだりするだろ?」


『ううん。いっつもおほんよんでるから、あそばない』


「え?外に出ないのかい?」


『うん。おそとであそぶとおはだヒリヒリしちゃうの』


「室内で遊んでる子は?」


『おべんきょうのときいがいはみんなおそとにいるから。たまにいてもね、「かのじょにしてやる」とか「ちゅーしよう」ばっかりなの』


「「「!!?」」」


なんとませているガキどもだろう。
そういえば名前の組には男の子ばかりが集中してしまったと彼女の母親がぼやいていたのを思い出す。
遊び盛りの子供、しかも男だ。
勉強以外の自由時間を外で遊んですごすのはまああたりまえかもしれないが、名前に獣のように群がるのは頂けない。


「…(とはいえ、)」


男子ばかりの組にこんな美少女がいればそりゃあ群がりたくなる気持ちも分からなくはないが…そう察したライナーは不意にあげた視線を後悔する。
…ベルトルトの無表情を見てしまったのだ。
普段他人に気を使ってまず浮かべることのない無表情、しかもこの無表情はただの無表情ではない。
何か、とてつもなく気に入らないことがあるときの無表情だ。
確かにベルトルトは名前を猫かわいがりしているし、たまに今まで、幼なじみの彼らでさえ見たことのない執着を見せることがある。
…まさか幼稚園児の(冗談であろう)愛の告白まで許せないとは…びっくりである。


『それにね、』


それまで無表情だった名前の表情が、僅かに柔らかなものになる。
初めてあった頃の3人ならわからないであろうその変化は、彼らの中がいかに親密かを教えてくれているようだった。


『べるとらいなーとあにといっしょにいるほうが、たのしいから』


ライナーとアニはその言葉に微笑む。
同学年の中で友人ができないは問題だが、それ以上に自分たちと一緒に居る方が楽しいと、そう言ってくれるのが素直にうれしかった。
対してベルトルトは…


「…おい、無言で泣くのやめろベルトルト」


「気持ち悪いよ」


「何も言わないで2人とも。今僕は幸せの絶頂にいるんだから」


だばだばと滝のごとく涙を流しているベルトルト。
しかしその表情はまさに感無量と言わんばかりで、ライナーとアニはただ言葉を無くしてしまう。
名前は上を向き、ベルトルトを見上げた。


『べる、どうしてないてるの?』


「ううんなんでもないよ、将来結婚しようね」


『けっこん?けっこんってなあに?』


「僕とずっと一緒に居るってことだよ」


『ほんと?わたしべるとずっといっしょにいれるの?』


「そうだよ」


『わかった、じゃあべるとけっこんする』


「だから男の子の彼女に成ったりちゅーしたらダメだよ?」


『ん、しない』


「「……」」


もうなにもいうまい。


ライナーとアニの心が一つに成った瞬間だった。


***
ベルトルトたちと名前の幼少期時代。
名前は幼稚園です。でも今の幼稚園がどんな感じ化はぶっちゃけ知らない←
私の通っていた保育園の隣の有った幼稚園をモデルにしています…あそこ午前中しか子供預かってくれなかったんだよね、うん。
因みに私は保育園でも一番最後まで残ってる子でした(皆4時か5時ぐらいに帰ってたのを6時まで先生と遊んで待ってた子)
今の幼稚園って勉強するんですかね…確か隣ではしてたような気がします。
保育園では全くしませんでした←

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