小説 | ナノ


  気付いたのは貴方だけ



いつもと変わらぬ様子で行動する名前に、誰も違和感など抱かなかった。
ただ一人、人類最強を除いて。


「あそこの新しくできたお店、とっても美味しかったですよ!」


『へえ、あの通りにできたところ?』


「はい!今度一緒に行きましょう!」


『うん、ご一緒させてもらおうかな』


「名前副兵長ー!!」


「待ってよエレンんんん!!!巨人化してよぉぉぉおおお!!!」


『ハンジさん落ち着いて。今日はエレンの実験は無しって予定だったじゃないですか』


「だってソニーとビーンがつれない!」


『巨人につれないなんてあるんですか…』


ある!!と断言したハンジ。
エレンは幸せそうに名前に抱き付き、すんすんと彼女の首筋に顔を埋めていた。


『、エレン、今日わたし汗かいてるから…』


「そっちの方がうれしいです」


『え、いやあの…汗くさいのやでしょ?離れてほしいなって…』


やだやだ、とぐりぐり自身の頭を名前の細い首筋に押し付ける。
名前は困ったような表情を浮かべながらも、酷く幸せそうな様子を見せるエレンを無理やり引きはがせないでいた。


「こらこら、あまり女性にくっつくものではないよ、エレン」


「エルヴィン団長…団長にも名前さんは渡せません」


「私よりももっと手ごわいのがいるじゃないか、」


なあリヴァイ、とエルヴィンが視線を向けた先には、先ほどまで椅子に腰かけ、独特の持ち方でコーヒーを飲んでいたはずの彼の姿はなく。
おや?と首を傾げたが、エレンの悲痛な声に意識がそちらに向く。


「名前副兵長を独り占めなんてずるいです!!」


「うるせえ、クソガキは黙って掃除でもしてろ。命令だ」


「そういうの職権乱用っていうんですよ!」


「いいからさっさと行け。てめえらもだ」


リヴァイの睨みを効かせた視線が部屋の中を見渡す。
かちんっ、と固まった彼らを一瞥したものの、リヴァイはそれ以上何も言うこともなく彼女の腕を掴んでさっさと部屋を後にする。
こつんこつんっ、と足音だけが響く無言の中、足早に歩くリヴァイについていく名前だったが次第にその息は切れ、彼の部屋に連れて行かれるころには顔は赤らんでいた。


「無理すんな、」


『、リヴァイさん?』


「…ここには俺しかいねえぞ」


名前を安心させるようなリヴァイの言葉に、微かに震えていた名前の足から力が抜けた。
彼女が固い床に膝をつける前に抱き支えたリヴァイは、小さくため息をつき、横抱きにするとそのまま自身のベッドに彼女の体を横たえた。
寝かされた名前の顔は、先ほど彼らと話していた平然としていた彼女からは想像もできないくらい赤らみ、汗が滲み、熱のせいからか、眸はうるんでいた。
全身から力が抜けてしまったかのようにぐったりとしつつ、リヴァイに対して苦笑を浮かべた。


『良く気付きましたね…向こうでも滅多に気付かれなかったのに』


「…阿保、いらねえ技術身に着けてんじゃねえ」


『ふふ、すみません』


「(全身から力が抜けちまうなんて…そんなに酷いのか…!?)」


いつものポーカーフェイスで顔に出さないようにはしているが、内心ハラハラしている。
自分はそんな病気にかかったことは殆どないし、風だとしても基礎体力があるからか、そこまで重くはならない。
対して名前の体は見るからに細く、いくら過酷な状況を経験してきたとは言っても女、自分よりも体力が劣るだなんてことは目に見えているし、加えて最近の激務のせいで十分な睡眠もとれていなかったのかもしれない。
い、一体どうすれば、とテンパっているリヴァイには、彼女を医務室に連れて行くという選択肢が現れることはないらしく、その視線は未だ着用されているジャケットに向かった。
着たままでは苦しいだろうと、彼女の上半身を抱き起しジャケットを脱がせ、Yシャツのボタンもいつより2つほど多く開ける。
そのおかげで呼吸が楽になったのか、はあ、と熱い息を吐き出した名前は表情を和らげ、軽く目を伏せた。


「……(まずい)」


呼吸を楽にしようとボタンを外したのはいいが、そのせいで見える白い胸元はわずかに赤らんでいて、まるで誘っているかのように見える。
それを見ないように必死に視線をそらしながら、清潔なタオルと水の入った桶を持ってきてベッドサイドに置くと、水で濡らしたそれを前髪を避けた名前の額に載せた。
水にぬれ冷めた両手を彼女の頬を包むように当てれば、『リヴァイさんの手、気持ちいい』と弱々しく微笑む名前。
彼女を溺愛しているリヴァイにはたまらない顔だったがなんとかこらえ、温くなってしまった手を外し、手の甲で汗ばんでいるなめらかな頬を撫でながら尋ねる。


「朝飯は食ったか」


『…食欲がなくて』


「薬を一緒に軽いのを持ってくる…少しでも食えるように寝とけ」


『…すみません…ご迷惑を』


「そう思うんだったらさっさと治せ」


いいな、と言い聞かせるように言えば、名前は小さく笑って頷き、瞳を閉じた。
彼女が眠っている間に軽く掃除をして、終わったらそれらを貰いに行こう。
リヴァイは頭の中でこれからの予定を簡単に立てていく。
自分の部屋の鍵を持ったリヴァイは部屋を後にする前に、名前の頬に小さくキスを落とした。


「ほら」


『り、リヴァイさん…自分で食べられます…』


リヴァイが部屋を出て行ってからしばらく。
トレイの上に味の薄めのリゾットと薬、水を載せて部屋に戻ってきたリヴァイに起こされた名前の顔は未だ赤らんでいたものの、眠り前よりはよくなっているらしい。
食事もとれそうだということで、現在食事中。
もっともそのスプーンは名前の手ではなく、リヴァイの手にあった。


「…落としたらあぶねぇだろうが」


『!、そ、うですね…』


じゃあ、えと、と口ごもった名前は、先ほどから自分に向けられているスプーンの先を視線に入れる。
リヴァイが差し出す前にちゃんと冷やしてくれたので口の中を火傷すようなことはないと思うが、あーんをしてもらうのは抵抗がある(自分がやる側ならさほど問題はないのだろうが)。
おずおず、と名前が小さく口を開ければ、リヴァイがその口の中にスプーンを差し込む。
どうやら彼女には恥ずかしかったようで、もぐもぐと口の中を咀嚼していく間、困ったように眉尻を下げながらリヴァイを見つめていたが。


「(可愛い…)このまま食べられそうか」


『…はい、問題ないです』


口の中の物を飲み込めば、新たなものがリヴァイによって口内に運ばれていく。
いつも以上にゆっくりと食事をとったせいか、リヴァイの持ってきたリゾットも半分ほど食べてしまえばもう満腹になってしまい。
リヴァイから薬を受け取って飲み込んだ名前は、すぐに横にはなれないため暫く体を起こしていると、あの、と少々言いにくそうに名前が口を開いた。


「何だ」


『私、自分の部屋に…ここに居たら、リヴァイさん今日寝るとこ無くなっちゃいますから』


「…いい、ここにいろ」


『、でも』


「近くにいたほうが安心できる」


きゅ、と名前の小さな手に手を重ね、軽く握る。
色は白いのに、やはり熱があるせいか温度は高い。
きょとんとした表情を浮かべていた名前は、くすり、と小さく笑った。


『やっぱり優しいですね、リヴァイさんは』


「優しい?俺がか?」


『はい』


目に見えてわかる優しさではない、少し不器用な優しさ。
潔癖症で、巨人後に汚れることは酷く嫌うけど、血にまみれた仲間をみとるとき、彼ら後にぬれることは、彼らに触れることは決して厭わない。
生きている人々の希望も、死んでいった彼らに託された夢も、全てを背負ってしまおうとするその背中の持ち主。
彼を優しい人と言わず、一体だれを優しい人というのだろう。
そう言って笑った名前は、くすりの影響か、少し眠そうに瞬きを繰り返している。
食事の量もさほど多く取ったとはいいがたいため、もう横になっても問題ないだろうと思い、リヴァイは名前に横になるように言う。
名前は大人しくリヴァイのベッドに横になり、僅かに手を出した。


『リヴァイさん』


「ん?」


『寝るまででいいので…手、繋いでもらえませんか』


「…あぁ、握っててやるから安心して眠れ」


控えめに出された指先を手のひらごと攫ったリヴァイは、きゅっ、と優しい力でその小さな手を握る。
指の一本一本を絡めるように握られたそれに安心したのか、名前は緩く笑みを浮かべて、おやすみなさい、と翡翠を閉じた。



(ん…おはようございます、リヴァイさん)
(……あぁ、もういいのか)
(はい、お陰様で。リヴァイさんは目が真っ赤ですよ…?)
(…気にするな、大したことじゃない)
(いえ、今日はゆっくり休んでてください。私が昨日付き合わせてしまったせいですから)
((言えない…眠ってた名前が色っぽくてひたすらガン見してただなんて))


風邪ひき名前でした!
リヴァイがあんまりテンパってない…もうちょっとテンパらせる予定だったのですが…!
名前ちゃんは基本表情に出るのを隠そうとはしませんが、心配されるようなことは隠そうとします(風邪とか怪我)。
風邪ひいてるときって不謹慎ですけど色っぽいですよね(二次元限定)。
お目汚し失礼しましたあ!!
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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