あのね
空を見上げては憂鬱な気分に浸る、どういうことなの。鞄を握り直して考える。考えても意味がないことは分かっているけど、考えずにはいられない。
雨は嫌いだ、別に嫌な事があったわけでもないのに気分が落ちるから、本当にたまに、気分で濡れてもいいって思うときもあるのだが、今日は生憎そんな気分じゃない。それにあんなにぴーかんだったじゃないか。
昼間に見た太陽はすっかり顔を隠している。くそう、今日は晴れるって言うから傘持ってこなかったのに、むっすりと自分でもわかるくらい口許が歪んでいる。恨めしそうに空を睨んでみても天候は変わらずザーザーと雨の滴り 落ちる音が当たりに響くだけ。
誰か入れてくれる人はいないかとキョロキョロ当たりを見回すも、剥き出しの下駄箱はどこもかしこも白い靴、所謂上履きだらけ。こんなことになるなら早めに帰るんだったなぁ、今更考えたって後の祭りで。またひとつため息をこぼした。
『今何時よ…』
ぼそりとつぶやいった独り言。鞄の底にある携帯を漁ろうとしたら後ろから 声をかけられた。
「6時半…だよ?」
『え?』
後ろを振り返ると思った以上のその人の高さにギョッとした。うわ、背高っ。見覚えがある。良く私のクラスのエレン君達にちょくちょく話に来る。あ、そう、ベル、?べ、なんだ けっか。
『あ、りがとう?』
「んん、帰らないの?」
『…傘忘れちゃって』
「あぁ、なるほど」
『……』
「………」
会話終了、でも動こうとしない彼に私は困惑する。どうしたらいいのかな、よく見ると彼は若干汗をかいていた。部活帰り?にしては一人だし…?
「えっと、帰りたい、んだよね」
『、え、うんできればだけど』
「…入ってく?」
『え! ?悪いよ!』
なんてお人好しなの!それに相合傘ってことでしょう?この年にもなってあれだけど…気はずかしいっていうか、なぜか気まずくなってしまう。
「でもこの雨明日まで降るんだよ?」
『えっ、そうなの!?』
「天気予報みてなかったの?」
『…今日は晴れてたから、大丈夫だと思ったの』
なんとなく気まずくなって視線をそらした。
「ふふ、」
『…!』
「ごめ、」
すると笑われた。ムスッとなる私に彼は何度も謝った。
「予想してたよりも、あまりに素直な反応見せるから、つい」
『え、予想って、あのね』
「良い意味でだよ。行こう?送るよ」
「ちょっと、え?」
手を引かれて彼の広げた傘に入る。入るとすぐに頭上から傘にあたって弾ける雨音が聞こえて校舎から離れたのがわかった。何も言わずに歩く彼にありがとうと呟くと微笑んでくれた。
「僕の名前しってる?」
『えっと、ベル…、ベル君』
「…だよね。僕はベルトルト」
『ん、ベルトルトね。ごめんね。クラスに時々来てたことは知ってるんだけど』
「そっか。ならいいかな」
『え?』
なんでもないよこっちの話、と返される。チラリと盗み見た彼は遠くで見るよりかっこよかった。何も言わずに車道側を歩いてくれてるし、それに傘がこっちに寄ってる。案の定彼の左肩は若干濡れている、優しく紳士的、ジャンやエレンとは比べ物にならない位高スペックだなぁ。
『ベルトルトって優しいんだね』
「え?そう?」
『だって話したことないのに傘に入れてくれたし』
「…それは」
『女の子は期待しちゃうからあんまりしないほうがいいよ?』
「…うん、」
目を泳がせるベルトルトに名前は首を捻った。
───────────
『ありがとうね』
「うん、あ、アドレス教えて」
『あ、うん、いいよ』
赤外線を介して情報を交換する。ありがとうと言ったベルトルトにこちらもお礼を言った。
「あの、それとさ」
『うん?』
「今日、送ったの…誰でもそうするわけじゃないから」
『え?』
「名前だったから、その、入れたんだ」
『…それは、どういう』
「メールするね」
えっ、と言葉の意味を考える私の頭。 振り返って手を振ってくれた彼の頬がちょっと赤かったのに私も赤くなった。
あのね
こんなことがあるなら雨の日も悪くな いなって思った。
(ちょっと名前!今の子誰!)
(…なんのこと)
(送ってもらってたでしょう!あのイケメンは誰!)
(お母さんうるさい)
(彼氏でしょう!)
(ち、ちがう!うるさいってば!!)
部屋にこもって彼はメールをするといっていたが作成画面を開いて文字を打ち込んだ
─────それから数週間後彼らが付き合うのはまた別の話
***
ひたすら素敵なベルトルトに悶えるばかりでございます<●><●>カッ
ほんとにありがとうございました!
宝物です!大切にします!!
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