小説 | ナノ


  初恋を捧ぐ



イライラ…


「……」


イライライライライラ…


「…ねえ、リヴァイ」


イライライライライライライライライライラ…


「…なんだ、ハンジ」


「そんなにイラつくくらいだったらさっさとくっつけばいだだだだだだっ!!!!頭が!つぶれる!!」


「うるせぇ」


ミシミシ、と不吉な音を立てるハンジの頭を鷲掴みにしている張本人であるリヴァイは、いつも以上に凶悪な表情を浮かべていた。
それがハンジの先程の発言のせいなのか、それともリヴァイの視界に入るやり取りのせいなのか。
そんなことを考えずとも、原因は明確であった。


「名前、ハンス様に教えていただいたのだが…チョコは、好きか」


『これ、内地の高いチョコじゃ…』


「内地に用があったから、な…」


「素直に名前のために買ってきたと言えばいいものを、素直じゃないなあミリッツは!」


「ミリッツの神経を逆なでするようなことをさらっといえるヤエスもどうかと思うけど…」


名前を囲むようにたたずむ、銀髪の長身痩躯の男、黒髪の快活そうな男、橙色の髪の飄々とした男。
彼らは皆、名前と同期の実力者だという。
彼女が訓練生の間は、必ず誰か一人が傍にいるという徹底ぶりだったらしい。
そのせいで、もしかして誰か一人と、いや全員とデキてるのではないかという噂も飛び交っていたが、名前の様子を見る限りそんなことはないだろうと、その噂はすぐに消え去った。
名前が副兵長になり、必然的に一般兵である3人は彼女より下の立場になってしまうのだが、元々名前がそのような立場関係を気にするような人間ではなことも手伝い、4人はたまにこうしてつるむことがあった。
傍から見れば、銀髪の男であるミリッツが名前に向ける感情は明らかで。
黒髪と橙色の髪の男ははっきりとはしていないが、彼女に対し仲間以上の何かを持っていることは確かだ。
そんな彼らがバレンタインデーということもあり、彼女に贈り物をしている。
何もしていないのに申し訳ない、と一度は断っていたようだが、日ごろの感謝の礼だ、今度何か作ってよ、と言われたらそれ以上断ることはできない。
元々甘いものが好きな名前は『じゃあ今度、なんか作るね、』と笑みを浮かべて3人からそれらを受け取り、嬉しそうな表情を浮かべており、周囲にいる面々は、そんな彼女の笑みに悶絶していたのだが。
鋭く響いた男の声に、彼らの表情は固まる。


「名前、仕事だ」


『、リヴァイさん』


「戻るぞ、ついて来い」


『はいっ』


何か手伝ってほしいことでもあるのだろうか、と首を傾げながら名前は3人から離れようとする。
そのままリヴァイのもとに行こうとした彼女を阻んだのは、銀髪の男だった。


『、ミリッツ?』


「おい、テメェ…何のつもりだ」


「名前は今私達と話している。それにまだ昼食の休憩時間は終わっていない」


「そいつは俺の部下だ、俺がどう指示しようと勝手だろう」


「大勢の兵士を背負う兵士長ともあろうものが、自分の身近な者を大切にしないとは…名前、今からでも遅くない。私達と共に憲兵団に来い」


『えっ?』


リヴァイとガンを飛ばしあっていたミリッツが、名前に視線を向けていきなりそんなことを言い放つ。
ヤエスも苦笑を浮かべながらも、ミリッツを止める様子はなく、橙色の髪の男、サケスはあーあ、とどこか楽しげな表情を浮かべていた。


「ハンス様達も是非、と言っておられたのだ。あの方たちの好意を無駄にはできない」


『ミリッツ…私は最初から調査兵団を選んでいたから…』


憲兵団にはあまり興味がない、と言ったが、ミリッツがその手を放す様子はなく。
はあ、とため息をついたリヴァイは背中を向ける。


「名前、お前はそのまま自分の仕事に戻れ。手伝いは良い」


『えっ?リヴァイさん、』


そのまま名前の言葉など聞こえていないかのように食堂を後にしてしまったリヴァイ。
名前は不安そうな表情を浮かべた後、やんわりとミリッツの指を解いて彼らに手を振り、食堂を後にした。
その一部始終を見ていたハンジは、ふう、と苦笑を浮かべながら息を吐き出す。


「全く、人類最強も恋愛事は苦手ってか?」


リヴァイを追いかける形で食堂から出てきてしまった名前。
しかし、先ほど手伝いは良いから自分の仕事に戻れと言われてしまったことを思い出す。
結局どうしようか、とぐるぐる悩むことになり、ミリッツたちからもらったお菓子を腕に抱えながらとぼとぼと廊下を歩く羽目に。
まだ昼食時間のため、廊下に人影はない。
誰もいないなあ、なんてぼんやり考えて歩いていたら、


「やあ、名前」


『、エルヴィンさん』


「如何したんだい、珍しいな一人なんて」


基本名前と一緒に居るはずのリヴァイがいない。
今日はそんな急ぎの仕事がないからてっきり一緒に居るのかと思っていたエルヴィンは、名前の浮かべる不安そうな表情に気付く。
これは何かあったな、と察し、誰もいない廊下で彼女から先程の一部始終を聞き出した。


「…成程」


『私、リヴァイさんを怒らせてしまったようで…』


「大したことじゃない。チョコを渡してあげれば機嫌なんてすぐに治るさ」


『……ぇ』


気付いてないと思ったか?と意地悪く笑ったエルヴィンに、名前の顔が一気に赤らむ。
あの、えと、と狼狽したように視線をあっちこっちに動かす名前の頭をエルヴィンが優しく撫でた。


「大丈夫、私しか知らない」


『…そう、ですか』


「早く行っておいで。リヴァイも今日は急ぎの仕事はないから、多分部屋で暇してるだろう」


『はいっ』


ありがとうございました、と頭を下げて駆け足で廊下を進んでいく名前の後姿を、小さく笑みを浮かべながら見送る。
エルヴィンと別れた後、自室に入った名前は、腕に持っていたお菓子を置き、机の上に用意していた蒼の包装紙に白のリボンが綺麗にまかれた一つの包みを手に取る。
名前が用意した、たった一つのバレンタインの贈り物だった。


『…いらないって言われたらどうしよう』


向こうにいたころは、アレンやラビが作ってほしいと自ら言っていたし、大勢に作ってそれをみんなへの感謝に、という意味も込めて配っていた。
それなのに、今回はたった一つしか準備しなかったのだ。
毎年エルヴィンたち全員に同じように配っていたのに、今年は何故変えたのか。
その理由はたった一つ。


名前がリヴァイに恋心を抱いていたということ。


ぶんぶん、と頭を振り、先ほどのエルヴィンの言葉を思い出す。
決してご機嫌取りのために渡すわけではないけれど、好きな人のあんな表情は見たくない。
きゅ、とそれを手に、名前はリヴァイの部屋へと向かった。


コンコンコン


「…入れ」


『失礼します』


「……手伝いは不要だと言ったはずだが」


『あ、あの…手伝いじゃなくて、その…』


「?」


珍しく歯切れの悪い名前に首を傾げるリヴァイ。
いつもすらりと伸びている腕は両脇にある筈なのに、今その腕は両方とも後ろに回されており、顔も若干火照っているように見える。
こつ、と足を踏み出し、机を挟んでリヴァイに近づき、意を決したように、背中に隠していたものを差し出した。


「……」


『いっ、いらないなら捨てていいです!えと、…はい』


捨てるならどうか私の目の届かないところで、と蚊の鳴くような小さな声で言われる。
リヴァイはぽかん、としたままその箱を見つめていたが、なかなか受取ろうとしない彼にその箱をひっこめようとした名前の腕を、がしっ、と掴んだ。


『ひゃっ、』


「…俺に、か…?」


『…リヴァイさんのしか、用意してません』


自分だけに用意されたプレゼント、恥ずかしそうに染まる頬、ちら、とこちらを不安そうに見やる、うるんだで輝く翡翠、緊張からか、震えている唇。
つまりは、そういうことだろう。
それらが一体何を示すのかが分からないほど、リヴァイは鈍感ではない。
差し出された包み受け取ると、名前の腕を掴んだまま立ち上がり、来客用のソファへと引っ張り、そのまま自身の膝の上に載せてしまった。
リヴァイの膝の上に座るような体勢になってしまった名前の頬に手を添え、親指でつつ、と唇をなぞれば、彼女はびくっ、と肩を震わせ、顔を紅潮させた。


「はっきりと言葉にしろよ」


『わっ、分かってるでしょう…!?』


「言葉が聞きてえ」


リヴァイの真剣なその眼差しを受けた名前はその赤らめた顔のまま、リヴァイの耳元に顔を寄せて囁く。
その言葉に満足そうに笑ったリヴァイは、しゅるり、と白いリボンを外した。
因みに名前の顔は恥ずかしさのために上げられず、リヴァイの肩に埋められている。


「おい名前。顔上げろ」


リヴァイのその言葉に、しぶしぶと言った様子で顔を上げた名前の唇に、包装紙まで綺麗に取られた箱の中身――トリュフ――が押し付けられる。
咥えろ、という言葉に従って、歯で軽く噛みトリュフが落ちないようにしていると、


『んんっ!?』


トリュフを名前の唇ごと食らってしまうかのようにリヴァイが噛みついてきた。
唐突な口付けに戸惑う名前だが、完全にリヴァイのペースに流され、びっくりして逃げていた下まで引っ張り出されてしまう。
溶けたチョコが垂れないように器用に動かしながら、名前の口内で暴れまわり。
苦しげな表情を浮かべる名前の頬を愛おしげに撫でたリヴァイの唇が離れるころには、彼女の息は絶え絶えだった。


『、はっ』


「ん。うめえ」


『ふ、普通に食べてください…』


「…あいつらからチョコをもらった罰だ」


ぽそり、とそう呟かれたリヴァイの声は小さかったが、至近距離にいた名前にはしっかりと届いており。
小さくくすり、と笑った名前が、トリュフが無くなるまでリヴァイに口内を嬲られ続けられたのは言うまでもない。



(…惜しいことをした)
(?何がー?エルヴィン)
(いや、リヴァイから離れたら私が貰おうかと思っただけだ)
(リヴァイが手放すとは考えにくいけど)
(いや、あれも中々自分に素直になれないところがあるからね)
(…やあっとくっついたんだから、手を出すのは野暮ってもんだよ)
(大丈夫、手は出さないよ(自分からは、ね))


リヴァイバレンタイン嫉妬夢でした…いかがだったでしょうか…!
すみません、まさかの訓練生同期3人組を出してしまいました…!
そのうち多分設定のところにこいつらが増えると思います、いつになるかは分かりませんが←
実はこれの前に一度没作品が…何故ならリヴァイの出番が本当にちょろっとしかなかったからです!
作品をダラダラ長く書いてしまう傾向があるので…直したいと思ってはいるんですが(これがなかなか治らない)
照れてる名前ちゃんが書けて楽しかったです!
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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