小説 | ナノ


  ただ君を守りたいだけ



はあ、とため息をこぼす名前に気付いたのは、ハンジだった。


「どーしたの?」


元気ないね、と名前を覗きこむハンジ。
名前は苦笑を浮かべて、昨日夜遅くまで勉強してたから、と言った。
努力かな彼女ならあり得るだろうが、別に近くにテストなどが控えているという訳でもないのに、そんなに力を入れるようなものだろうか?
これは何か隠してるな、と察したのは、リヴァイほどではないがそれなりの付き合いがあるからだろう。
遠くから「名前せんぱーい!」と後輩に呼ばれてしまった彼女はハンジに手を振り、その場を後にする。
結局名前の悩みの種は分からないままで、ハンジは表情を険しくした。


「(何かあったんだろうけど…リヴァイに聞けばいっか)」


今日も終わった学業。
部活に向かう者、そのまま家に帰る者等様々で、名前はそのまま家に帰る者に分類されていた。
運動神経の抜群な名前は様々な部活に助っ人として参加するため、基本練習などには参加せず、大会などが近くなるとともに練習するのだ。
授業に使った道具を詰め込んでいくが、これからの事を思うとため息が出てしまう。


「深いため息だな」


『っ、リヴァイ…』


「どうした。なんかあったか?」


『…、ううん、何でもないの』


「何でもねえって顔じゃねえ」


じ、と名前を貫く鋭い目をした幼なじみ、リヴァイ。
いつもならば部活終了まで名前が待ち共に帰るのだが、近くに大会を控えているため遅くまで練習が入っているとのことで、最近は別々に帰っていた。
別々に買えるようになり出してから徐々に元気がなくなっていく名前に目ざとく気付いたリヴァイは彼女に詰め寄る。
恐る恐る、といった様子で口を開いた。


『ぁ、あの、ね「部長!顧問が呼んでます!」……』


「先行ってろ!、で、なんだ?」


『ううん、やっぱり何でもない』


エルヴィン先生のところに早くいかないと、と急かされるリヴァイ。
確かに大会も間近で、僅かな時間でも惜しい。
リヴァイは後ろ髪をひかれながらも、ひらひらと手を振って教室を後にする名前の背中を見送った。


『…はぁ』


結局相談、出来なかったなあ…と若干落ち込んだ様子の名前。
一度リヴァイの事を遅くまで待っていて一緒に帰ろうかとも思ったが、部活で疲れているのだから、ということでその考えは名前の中で却下されていた。
スクールバックを肩に提げ、とぼとぼと高校の最寄の駅へ。
部活に入っている生徒がほとんどだからか、乗り込もうとしている学生は酷く少なく、代わりにスーツなどを着た社会人などのほうが多いような気がした。
しかも、男の人ばかり。
嫌なことだから目につくのかな、とため息を吐き出した名前は、到着した電車に乗り込む。
名前にとって、辛い時間の始まりだった。


『っ、』


学生は少ないといえど、電車は満員。
ぎゅ、とバッグの紐を握り、吊革に手を掛ける。
名前が降りる駅まで、この電車には約20分間揺られるのだが、その間、人の流れがあるにもかかわらず名前の後ろにぴったりと張り付くスーツを着た男が最近の悩みの種だった。
相手がどんな人間かなんて、恐ろしくて振り向けないから確認したことはないし、何より自分の自意識過剰だったら、勘違いだったらなんて考えたら言えなかった。

もしかしたら、痴漢に遭ってるかもしれないだなんて。

それでも、体ははっきりとした嫌悪を示す。
耳元にかかる生暖かい息も、電車が揺れるたびに触れる相手の体も、時折肩に載せられる手や太さを確かめるように触れられる腕。
20分がまるで何時間もあるように感じられて、早く着いてと泣きそうになる。
泣かないようになんとか涙を堪えつつ、漸く着いた降車駅。
早く早く、と扉が開き人が流れるのを待っていると、


すり、すり、


『っ!?』


「はあ、かわいい、ね」


お尻のあたりに押し付けられた何か。
恐怖のあまり声が出なくて、頭の中ではひたすらリヴァイの名前を呼び続けていたけれど、そのリヴァイはここにはいない。
いつの間にか名前は、人の流れに押し出されるように駅のホームに突っ立っていた。
自分が乗っていた電車は後ろにあるが、もしかしたらこちらの事を見ているかもしれないと思うと怖くて振り向けない。
足早に駅を後にして、逃げるように家へ向かった。


その翌日。
あんなこともあった手前、一人で電車に乗るのは気が引けた。
使われずに寂しそうに揺れる電車の定期券を見つめながら、名前はバスに揺られている。


『(リヴァイに相談しよう…)』


大会前だから負担はかけたくないけれど、せめて聞いてほしいと思った。
我儘だってことは分かっていても、あの恐怖はあまりにも強すぎた。
幼少期に、その美貌故に誘拐された経験を持つ名前には特に。


『リヴァイ、あの、「ぶちょー、エルヴィン先生がー」』


『今時k「リヴァイー!」…』


『相d「リヴァイ!備品が!壊れたあああ!!」……』


…今日は厄日だ。
そう言わんばかりに遮られる声。
それが何度も繰り返されれば話しかける気もなくなる。


「私でよかったら話聞くよ、名前」


『ハンジ…』


ことごとく玉砕している名前を見ていたハンジが弁当をつつきながら苦笑を浮かべる。
ありがとう、と礼を言ってから、名前は悩みを打ち明けた。
リヴァイと別々に登下校するようになってから、男が背後にぴったりとくっつくようになったこと。
耳元でハアハア言われて気味が悪いこと、肩に触れられて気持ち悪いこと。
そしてついに、昨日はお尻に股間を擦り付けられたような気がした、ということを。
食欲がないと言わんばかりに進まない箸を見つめながらすべてを吐き出した名前は、すっかり反応の無くなったハンジに視線を向ける。
ハンジは今までにないぐらいに目を見開き、ぽろ、と箸で掴んでいたハンバーグを落とし、からんからんっ、と箸までも落とす。
ハンジ…?という名前の声に意識を取り戻したハンジはがたんっ、と立ち上がるとそのまま教室を飛び出していく。
「リヴァイーーーーーー!!」と盛大に叫びながら。


『…次、移動教室なのに』


結局食べられなかった弁当を包み、次の授業の準備を進める名前。
予冷が鳴ってからしばらくして戻ってきたハンジは相当走り回ったのか、酷く息を切らしていた。


「ごめっ…リヴァイ、会場の下見に行っちゃったらしいんだ…」


『明日相談するよ。今日はバスで帰ることにする』


「…ごめんね、気付いてあげられなくて」


『ううん、私が勘違いかもって、自己完結して相談しなかったのが悪いだけだから』


自分の事のように顔を歪めて心配してくれるハンジに幾分か元気を取り戻した名前は午後の授業を乗り切り、ついに下校時間。
生徒会の仕事のため学校に残らなければならないハンジに心配そうに見送られ、バス停に向かったのだが、そこには一枚の張り紙が。


「…え、事故?」


「あぁ。今日はバス走らねえだろうよ」


会場の下見から戻ってきたリヴァイと偶然会ったハンジは「今日の下見どうだったー?」と話しかける。
そうすれば話は下見の話よりも、今日の帰りが散々だったということになり。
帰り道は、事故のせいで渋滞につかまってしまったらしく、恐らくそのせいでバスは走らないだろうと。
あぁ、あの子は何と言っていた?今日はバスで帰ると言っていたじゃないか。
そのバスが使えないとなると、電車を使わざるを得ない。
あぁ、不味い、これは非常にまずい!
そろそろ部活に戻らねえと、と足を翻そうとしたリヴァイの肩をがしっ、と掴み、ハンジは叫ぶ。


「リヴァイ!今すぐ名前を追いかけて電車に乗るんだ!」


「は?」


「あの子電車で痴漢に遭ってるんだよ!リヴァイと別々に帰り始めてから!」


ハンジの言葉に目を見開いたリヴァイの行動は早かった。
今までで一番じゃないかと思うぐらい、早かった。


『(乗りたくないなぁ…)』


念のため、いつも乗っているものよりも3本程時間はずらしたものの、それでも不安は拭えない。
今から引き返してリヴァイと共に帰ろうかとも思ったが、先に約束も何もしてないのだ、いきなりではきっと迷惑になる。
大丈夫、3本もずらしたんだからと自分に言い聞かせ、電車に乗り込んだというのに。


「はあ、はあ…」


『(な、なんで…!?)』


「ひどいなあ…わざと時間、ずらすなんて…」


じゃあもしかして、この男は私が乗り込むまで何往復もしたというのだろうか。
昨日以上の恐怖に襲われ、名前は一気に青ざめる。
唇も震え、声にならない。
そんな彼女をあざ笑うかのように、男の手は名前の太ももに触れ、そのままゆっくりと上に上がって来た。
逃れようにも、この満員電車の中ではどこにも逃げられない。


「泣き顔も可愛いよ…」


この男の言葉に、絶対泣いてやるもんかと意気込むが、それでも怖いものは怖い。
小さくやめてくれと言っても、それはさらに男をかき立てるだけで。
遂にスカートの中に手が入る、というところで、男の手が離れていった。


「俺の女に何してやがるブタ野郎…!!」


「ひぃっ!い、痛いじゃないか!」


「痴漢野郎がナマ言ってんじゃねえ!!」


リヴァイの声が車両内に響く。
それに「痴漢…?」「やだ…もしかしてあの子…」「可哀想に、顔色が悪いな…」「あんな可愛い子に手を出すなんて…」「最低」「女の敵だわ」「人間のクズ」とヒソヒソ囁かれる乗客たちの言葉が、容赦なく男に突き刺さる。
結局次の駅で降り、男を突き出したリヴァイと名前が駅員たちに事情を話し終えるころにはすっかり暗くなってしまっていて。
詫びとして、其処から降りる駅までの運賃をタダにしてもらえた。


「…なんですぐに言わなかった」


ラッシュを過ぎ、ガタンッ、ガタンッとリズムを刻むように揺れる電車の中の人は疎らだ。
名前とリヴァイのほぼ独占状態の車両の中で、リヴァイの低い声が響き、名前は言いにくそうに目を伏せた。


『大会が近かったから…余計な心配、させたくなかったの』


「余計な心配なんかじゃねえよ。何も言わない方が困る」


もしあの時、ハンジが教えてくれなかったら、名前はいったいどうなっていただろうか。
その先を想像するだけで腸が煮えくり返る。
もしかしたら、あの痴漢をした男を殺してしまうかもしれない。


『でも、リヴァイが来てくれてよかった』


「…名前」


『?、んっ…!』


リヴァイの声にこたえ顔を上げた名前の唇を奪ったリヴァイ。
短いそれはすぐに離れたが、何をされたのかをはっきりと理解した名前は顔を真っ赤にし俯こうとするものの、名前の輪郭に添えられたリヴァイの手がそれを許さない。


「名前…これからも俺がお前を守る。だから俺に隠し事なんてするな」


『リヴァイ…』


「…好きだ、ずっと昔から」


幼なじみからの告白。それは名前が長い間望んでいたもので。
私も、と涙を浮かべた名前を強く抱きしめたリヴァイは、そろり、と回された名前の細い腕に満足そうに笑った。


「…今夜、窓のカギ開けとけ」


『え?』


名前とリヴァイの家は、所謂お隣さんというもので、互いの部屋を、窓を開けてしまえば行き来できるという構造になっていた。
最も、名前が万が一窓から落ちたらということを考えて、リヴァイは名前の部屋にやってくるか、もしくはリヴァイは名前を抱えて移動するかの2択だった。


「消毒しに行ってやる」


『?』


消毒?とリヴァイの言葉の真意を察せられなかった名前は、とりあえず彼の言うとおりに窓のカギを開けたままにしておくことに。
そこでいったい何をされるかなど、この時は見当もつかなかった。



(ひっあ、あぁっ)
(ん、じゅ、る)
(そこっは!んっ、さわ、ぁあっ)
(はは、全身べとべとだな、名前よ)
(あっ、リヴァイ、の、んんっ、せ、ひゃあんっ)
(安心しろ…)
((きっちり消毒して、俺だけにしか満足できないような体にしてやる))


ちょい長めになってしまいました…!
両片思いだった幼なじみ設定でお送りしましたが…いかがだったでしょうか…!
丁度テレビで痴漢逮捕の番組がやっていたので…勢いで書き上げた感が否めません←
R15要素があまり入れられなかったので、最後のところで消毒シーンを入れさせていただきました…喘ぎ声ってR15くらいだよね、大丈夫だよね…!という感じです…いやはやまったく裏を書き慣れてないとこういう事態になってしまいます←
何かございましたらお気軽にお申し付けくださいませ!

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