小説 | ナノ


  己が存在意義を唱える



回を重ねた壁外調査。
辺りに巨人の気配がないことを確認し、兵士たちは休憩に入る。
とはいえ、警戒は怠らない。
いつ何時、奇行種が現れてもおかしくはないのだから。
名前に先に休憩をとるように言ったリヴァイがあたりに視線を走らせたとき、森の奥からリヴァイの耳にかすかな物音と、その眸がキラリ、と何かが光ったのをとらえる。
それは次第にこちらに近づいてくる。
巨人のように重々しい音ではあるが、その足取りは軽いような…だが足音が多い。
もしかしたら何体もいるのでは、と警戒しながら立体機動に移ろうとした彼らの目に映ったのは、巨人ではなかった。


「…なんだこれは」


「へ、兵長…どうしますか…」


「…壊すわけにはいかねぇ」


壁外のものだ、何かの手がかりかもしれない。
そう判断したリヴァイは、突如森の中から現れたそれを警戒しながら、部下にエルヴィンたちを呼んでくるように指示する。
駆け足で去っていったその部下の背を見送ったリヴァイは、大きなそれを見上げた。
機械であろう巨体に、トレードマークですと言わんばかりに乗っているベレー帽。

…なんというか、気の抜ける機械だな。

リヴァイは微妙な表情を浮かべるしかなかった。


「リヴァイ、なにを…」


部下からの知らせを聞いてこちらに向かってくるのは、エルヴィン、名前。
ハンジとミケにはほかの兵士たちの指示を任せている。
馬に乗って駆け寄ってきた2人は目を丸くし、リヴァイの傍にたたずんでいる大きな機械を見上げた。


「大きいな…機械か」


「だろうな。生き物の気配もしねえ」


『……』


話し込む二人の傍で、ぽかん、と呆気にとられたように目を見開いたままの名前。
それに気づいたリヴァイがどうかしたかと声を掛けた。
名前は目の前のそれから視線を外さずに口を開く。


『これ…コムリンです』


「…コムリン、って…まさか、以前言っていた…」


『はい、室長の…コムイさんの作った万能ロボット…デザインとかを見る限り多分Uのほうですかね…?』


リヴァイ達の前に現れてから反応を見せていないコムリンに近づき、こんこん、と足軽く叩いてみる名前。
それが本物の、彼女の言うところのコムリンであるかどうかの保証などないのに、と止めようとした二人に構わず、軽く叩いた位置からコムリンを見上げた。
その小さな刺激のせいか、それまで微動だにしていなかったコムリンが、カメラのついている頭部と思しき部分を名前へと向ける。


≪エクソシスト、元帥、苗字名前と認識≫


「「(喋った!!)」」


機械であり乍ら人間の様にしゃべり始めたコムリンに目を見開く。
名前や寮から向こうの話は度々聞いていて、ここよりずいぶんと文明も技術も発達したところだとは思っていたが。
まさかコミュニケーションが取れるとは、と驚きが隠せない。
対して名前は、それがさも当然であるかのように話し続ける。


『どうしてここに?』


≪リナリー・リーからの攻撃により破壊された後の一切のデータなし。よって回答不能≫


『手がかりなし、か…確かに滅茶苦茶に破壊されてたよね…』


なのに全く傷がない。
バグも起こしていないところを見ると、ますますあの作り立ての状態のように見える。
ううん、と顎に手を当てて考えている名前に、リヴァイとエルヴィンも歩み寄る。
まだ若干コムリンに警戒心を向けているようだが、いくら性能が良くても、機械であるコムリンがそれを察知することはない。


「名前、そろそろ本隊と合流しよう」


『、そうですね。大分時間がたった様ですし』


「どうすんだ、このデカブツ」


「一度ここに置いていこう。帰りに回収していけばいい」


エルヴィンの言葉に頷こうとしたリヴァイだったが、だったら、という名前の言葉に動きを止める。
エルヴィンの視線も名前に向けられていて、2人の視線を一身に受ける彼女は平然と言った。


『コムリンにも手伝ってもらいましょう、壁外調査』


ヒュンヒュンと立体機動装置で滑空する兵士が風邪を切る音。
ブレードが巨人の肉を切り裂く音、倒れた巨人が蒸発する音。
巨人の足音、犠牲になった兵士たちの悲鳴、叫び。
そんな中、異質な音が混ざっていた。


≪殲滅対象を認識、これより掃討作戦に移行≫


ガー、と開いた、手術中、と書かれたランプの下にある扉の向こうから無数の寄生型エクソシストのための治療道具が現れる。
最も、メスや注射針だなんて生易しいものではなく、ドリルやチェーンソーといった、普通なら考えられないような治療道具、一歩間違えば普通に人を殺す武器にもなるような物ばかりだが。
伸ばした腕で巨人を拘束し、兵士たちのサポートもする。
コムリンのその見た目からは想像できなかった活躍っぷりに、巨人の項を削ぎながらもリヴァイは感心したような声を出す。
因みにコムリンを見た時のハンジの反応は「なにこれなにこれなにこれなにこれ!?すっげー知能!これ本当に機械!?」とだいぶ興奮気味だったが壁外調査中なので割愛させていただく(ミケは匂いを嗅いだ後に小さく首を傾げていた。そういえば初めて名前と会って同じように匂いを嗅いだ時も似たような反応を見せていた)。


「案外役に立つじゃねーか」


『唯一の欠点といったらバグりやすいってことですかね』


コムリンUがこんなにも役に立つとは思いませんでした、とさらりと酷いことを言った名前は、新たな巨人を発見した後素早く項を削ぎ落す。
細く、体重も筋力もない名前は自分の力に頼るのではなく、スピードを武器にして戦う。
その素早さはリヴァイの目にも追えるかどうかのものだが、それは立体機動装置を使用した時のもの。
イノセンスを発動したら彼女の姿をとらえることはできないだろう。
すっかり慣れた様子で巨人討伐に向かう名前を見送ったリヴァイは、派手に暴れまわるコムリンを一瞥し、自身も項を削ぐために木から飛び出した。


「いやあーすごいね!大活躍だったじゃん!」


ばしばし!と遠慮なくコムリンの足(?)を叩いたハンジは、逆にダメージを食らってしまったらしく、奇声を上げながら叩いた方の手のひらを冷やそうと腕をブンブン振り回している。
痛そう…と顔を歪めた名前はコムリンに近づき、ハンジが叩いてしまったところを今度は撫でた。


『ありがとうコムリン、おかげでいつもよりずっと犠牲者が少なくて済んだ』


≪人命第一、我々教団が守るべきもの≫


『…うん、そうだね』


「ところで名前」


復活したのだろうか、手を冷やしていた仕草をやめたハンジは再び戻ってきて、コムリンを見上げる。


「この機械はどうやって動くんだい?あとどれくらいもつのかな?」


『バッテリーっていって、電気を充電してから動かしてるんでしょうけど…このタイプだったら1週間くらいはもつって聞いたことがあります』


「1週間か。壁外に丁度帰れるか帰れないか、微妙なところだな」


「今回はそれなりに遠くに来たからね」


さて、壁内に到着するまでにバッテリーが持つかどうか、という問題が浮上したため、このままコムリンを置いていくか、それとも壁近くまでは何とかコムリン自身で移動してもらい、近くまで来たら分解して中へと持っていくか。
コムリンほどの巨体となると、移動の問題はもちろん、まずその体が壁に設置されている扉を通れるかが問題である。
見た限りはまず無理だろう…普通の機械に比べて頑丈に作られているとはいえ、通れないようなところを無理やり通ろうとすれば何が起こるか分からないし、調査兵団は町中を通って兵舎へと戻っていくから、明らかに目立ってしまうことは必至。
さてどうしようか、と考え始めた一同の思考を区切ったのは、ぽつり、と振ってきた恵みの雨だった。
雨をしのごうとフードを被ろうとした名前は、ふと動きを止める。


『……』


そういえば…コムリンって、液体に弱いんじゃ…


そうだ、教団でバグって大暴れしたあの原因だって、コーヒーを飲んでしまったからだ。
元々コムリンは室内用に開発したとコムイが言っていたから、雨水なんかにも弱いのではないか。
防水加工されていない精密機械が水浸しになれば故障するのは必至。
ざあざあと強まってくる雨に嫌な予感しかせず、ごく、と生唾を飲み込んだ名前は、恐る恐るといった様子でコムリンを見上げる。
見事にコムリンの頭部に、電気が走っているのが見えた。


『全員早くコムリンから離れて!!』


「は?」


『いいから早く!バグった!!』


はあああ!!?という兵士の声に混ざる、コムリンのバチバチバチッという電気の走る音。
名前が冗談を言うたちではないということを重々承知している兵士たちは彼女の指示に従い、馬に飛び乗ると、まるで巨人から逃れるように馬を走らせる。
名前は全員の兵士が馬を走らせ始めたのを確認して、自身は彼らの一番後ろにつき、コムリンに注意を払いながら馬を走らせる。
その隣にはリヴァイが並走していた。


「なんなんだ」


『コムリンは屋内用に開発されたものだから、防水加工がしてなかったんです。精密機械は水にすぐやられますから…だからバグってしまったんでしょう』


エクソシスト治療用に開発された機械だから、一般兵をターゲットにすることはないだろう…おそらく狙われるとしたら自分であると分かり切っていた名前は、どうしようかと考える。
逃げ切ることも不可能ではないだろうが、可能だとも言い切れない。
兵士も馬も、壁外調査のせいで疲れているはずだ…まずその選択肢は考えない方がいいだろう。
ならば破壊という選択になるが、向こうの世界のものであるコムリンは、名前やリョウにとって、さらにはこちらの世界の技術力の向上にとって重要な意味を持つから、破壊、という選択肢も避けたい。
さあどうするか、とぐるぐる考えていた名前の隣で、リヴァイの耳にコムリンの声が届く。


≪エクソシスト、苗字名前をマッチョに改造すべし!≫


教団でバグった時もマッチョにするって言ったんじゃなかったか…?とコムリンのワンパターンさに呆れながらもどうする、と名前に尋ねる。
リヴァイにもあの機械が重要なものであるということは分かっていたため、安易に壊すという選択肢には至らなかったのだろう。


『出来ればバッテリー切れになってほしいんですけど…多分それよりも先に馬の体力のほうがなくなりますね…』


再びうんうん、と唸り始めるが、なかなかいい案が浮かばない。
はあ、と小さくため息をついた名前は、イノセンスから刀を創り出す。


『仕方ない』


破壊しましょう


そうさらりと言ってのけた名前は馬の背から飛び出してしまう。
重要なものじゃないのか!というリヴァイの心の中の突っ込みなどいざ知らず、名前は持ち前のバランス感覚でコムリンに見事着地すると、


スパンッ


「あああああなんで壊しちゃうの名前ー!!」


『すみません、諦めて巨人の研究に勤しんでてくださいハンジさん』


「そうするね!」


ずしんっ、とそのまま沈んでしまったコムリンの上から降りた名前は、いつの間にか傍に駆け寄っていた自身の馬を撫で、軽やかにそれに跨る。


「…良かったのか、手掛かりなんだろう」


何の、ということは敢えて言わないリヴァイに苦笑を浮かべた名前は首を振りながら馬を走らせる


『一応確認しましたがコムリンにはリナリーに破棄された以降のデータがないらしくて…おそらく自身もどうしてここに居るのかわかっていなかったようですし』


何より、仲間を危険にさらすわけにはいきませんから


そう名前は言って見せたが、その表情はやはり、少し切なそうだった。



(…やっぱりバグるんスね、コムリン)
(しかもまたマッチョだと)
(バグり方もワンパターン!でもあったほうが助かったかもしんないっス。こっちには足りない機材が多すぎて)
(リョウのその言葉のために、次の壁外調査でコムリンを破壊した同じ地点に向かったが)
(そこには、何も無かった)


コムリン出現のお話でした…!
いかがだってでしょうか…コムリンの口調が迷子です。
カタカナにしてやろうかとも思いましたがそれじゃあAKUMAじゃん!となってしまったので…間違ってたらごめんなさい…!
最後あっさりと壊しちゃった名前ちゃんは容赦ないです(笑)
リクエストに添えてるかどうか…!
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

prev next

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -