小説 | ナノ


  君が笑う、それだけで



名前が訓練兵団の一員になって1か月。
既にほぼ確立したグループの輪が出来ているのでそこに混ざれるか、という心配は杞憂だったようで、彼女の周りには既に何人かが取り囲むように行動するようになっていた。


「すごいなあ、対人格闘術も立体機動術も座学もトップじゃないか!」


はは!と快活な表情を浮かべる黒髪のがっしりとした体つきの男、ヤエス・トライバー。


「フン…貴様も名前を見習ってもう少し座学に励んだらどうだ」


ヤエスと対極に細い、まさに長身痩躯の四文字が当てはまりそうな銀髪の男、ミリッツ・イエッセル。


「そう言うミリッツもいい加減その細い体はどうにかならないのか?ワシはミリッツと格闘術をするたびに折ってしまうのではないかとハラハラしてるんだが」


「貴様に折られるような軟弱な体のつくり方などしていない」


…この二人、実は馬が合わないらしく仲はよろしくない。
そうは言うものの、この101期生の中では飛びぬけて実力が高いものだから、必然的に彼らでペアを組むことが多いのだ。
そのおかげと言ってもいいものか、彼らの馬は合わないもののコンビネーションは教官も称賛するものがある。


「まーま、落ち着いてよお二方」


またかよー、と疲れたような表情を浮かべているのはサケス・サフチェンコ。
体つきはちょうどヤエスとミリッツの間ぐらいだが、身軽さと体の柔らかさに定評のある橙色の髪をした男である。


「騒いでいるならば勝手に騒いでいればいい。私は名前と二人きりで行動したい」


美しい金髪のナイスバディの美女、カルス・ガリアードが「あぁっ、今日もなんて可愛いんだっ」と言いながら名前を抱きしめる。
そのまま名前を軽々と抱えて走っていくカルスに気付いた男3人が追いかけるという、名前が入団した1週間後にはもはや恒例となってしまったやり取りに、周りはほほえましそうに目を細めるだけ。


『か、カルス、私重いよっ』


「そんなことはない、まるで羽の様だ」


もっと食べさせねばと、と内心で決意したカルスに昼食でしこたま食べさせられた名前は、午後の立体機動術の訓練で吐くことはなかったものの、若干死にそうになるのだった。


「そろそろ卒業か…」


夕食の後、外で涼む5人。
101期生の中でずば抜けたセンスを有している彼らは、間違いなくトップ10入りを果たすだろう。
憲兵団でも駐屯兵団でも、調査兵団でも選択する権限が得られる。
名前は調査兵団入りが既に約束されているので悩む必要などなく、ぼんやり、と暗闇に浮かんでいる月を眺めていた。


「名前は何処に入るんだ?」


『、そういうカルスは?』


「私か?…実はまだ決めていないんだ」


彼女の育ての親は言ったらしい。


「じぶんのこころざしにすなおになさい。あなたがまもりたいとおもったものを、まもれるように」


わたくしはいつまでもみまもっていますよ。わたしのうつくしきつるぎ。


「はああんっ、ケシル様ぁぁあっ」


『カルスは本当にケシルさんが好きだね』


「年齢不詳で性別不詳だがな」


「まあまあ」


「仲がいいのはよいことだぞ!」


ケシルの事を思い出しているのであろうカルスを傍に会話を再開する4人。
サケスはあまり街から離れたくないからと駐屯兵団、ミリッツ、ヤエスも王族に知り合いがいるらしく、彼らに誘われたからと憲兵団に入るつもりだという。
皆ちゃんと道が決まってるんだなあ、と緩く笑みを浮かべていた名前にミリッツが尋ねる。


「名前も憲兵団だろう?」


『ううん、私は調査兵団』


名前の言葉に沈黙した一同は、その後目を見開いた。


「「「はぁぁああ!?」」」


「なっ、なんで調査兵団なんかに!」


『え、と…皆だから言うけど…渡した途中入団できたの、エルヴィン団長のおかげだから…』


一刻も早く調査兵団の戦力となるため、3年間もかけてられないからという理由で途中入団させられたのだが、ミリッツたちと出会えたのはその途中入団をさせてくれたエルヴィンたちのおかげだと言っても過言ではない。
途中入団しようがしまいが名前の調査兵団入団は、本人承諾の上決まっていたのだが、どうやら彼らは、彼女が途中入団をさせてくれた恩返しのために調査兵団に入団しようと考えていると受け取ったらしい。


「…可笑しいと思ってたんだ」


ぼそ、とヤエスが呟く。


「残り半年しか残ってない、この101期生に途中入団だなんて。勿論技術も座学もワシたちについてこれてるから、だからかって思ったんだが」


「名前の年齢から考えれば102期生でも全く問題ない」


「エルヴィン団長の狙いは”一刻も早く名前という即戦力を調査兵団に"、ってことだろ?」


ヤエスに続いたミリッツ、サケスの言葉に、うぐ、と言葉を詰まらせる名前。
いつもならば適当に言ってはぐらかせそうなのだが、彼らの鋭すぎる淀みのない視線に何とも言えなくなる。
何より彼らは、名前に居場所をくれた、大切な人に部類される人間だ…そんな彼らに、簡単に嘘はつきたくなかった。
膨張していたカルスが名前の肩を掴んだ。


「そんな思惑のために…!態々死にに行くのか!?」


『カルス、』


「いやだ、私はっ、」


『、カルス』


ぴと、と手袋をしたままの両手でカルスの両頬を包む。
うつむき加減だった顔を上げさせれば、その双眸は涙にぬれて、きらきらと光っていた。
苦笑を浮かべた名前はそれを優しく拭ってやり、額をコツン、と合わせる。


『大丈夫だよ、私は死なない』


「名前…」


『半年間しか皆とは過ごせないだろうけど、ちゃんとみんなのところに帰ってくるから』


「…ふん、半年間だと、何を言っている」


名前のそれ以上の言葉を遮るように、ミリッツが口を開いた。
え、と視線を上げた名前を後ろから包み込むように抱き締めてきたミリッツが、ちゅ、と名前の首筋に口づけた。


「私が貴様を一人で調査兵団などと危険なところに行かせるわけがなかろう。私も行く」


「えっ、ミリッツ!?」


「…ハンス殿たちは良いのか、ミリッツ」


「守るべきものがある…そういえばお二人とも納得してくださるはずだ」


そう淀みなく言い切ったミリッツに、真剣な顔をしていたヤエスはうん、と大きく頷き、いつものように明かるい表情を浮かべた。
どうやらヤエスの意志も固まったようだとサケスはため息つき、もー…しょうがないなあ…とがりがりと頭をかいた。
え、え、と置いて行かれたような状況の名前は戸惑う。


「俺様も入ろっかなー、調査兵団」


「ミリッツが入るならワシも入ろう!ストッパーが必要だからな!」


「黙れヤエス!!貴様など名前の近くにいる価値もない!」


『み、皆…』


このままでは全員調査兵団入りしてしまうのでは、と焦る。
とっさに前を向いた名前の視界に入ったのは、こちらを見つめ続けるカルスだった。
3人が希望していたところから調査兵団へとあっさり変えてしまったのに戸惑っているのか、その眸が揺れているのが分かった。
名前は分かっていた、たとえ駐屯兵団が、上位10位に入っても入らなくても入れる、多くの兵士の希望兵団だとしても。
カルスにとっては、その駐屯兵団に入ることこそが、この訓練兵を志望した理由であることを。


『カルス』


「、名前…すまないっ、わたしはっ」


『うん。分かってるよ、だから、』


君は優しい子だから、どちらともなく選べなくて苦しんでる。
だから一つ、私からお願いがあるんだ。


『私たちを、出迎えてほしいんだ』


おかえりって、言ってほしい


『必ず帰ってくるから、私たちの帰ってくる場所、守ってくれないかな』


「名前…分かった…絶対に守る、守り抜くから…!」


ぎゅう、と痛いほど抱き締めてくるカルスはしばらく泣き続けていたが、疲れたのか、ふらりと立ち上がって先に休むと言って部屋に戻っていった。
それを見送った4人はしばらく沈黙していたが、名前が言う。


『…いいの?自分たちが希望していたところじゃなくて』


「名前を死なせたくない。例え戦闘能力が優れていたとしても、絶対の命が保障されているわけではないのだからな」


「ワシはまだ名前と一緒に居たい。ただそれだけだ」


「駐屯兵団じゃあ、旦那の世話とかしなくちゃいけなさそうだし。調査兵団の方だったら家事とかしなくて済むだろうし」


『皆…ありがと』


へにゃ、と笑った名前に、3人は彼女の頬に小さくキスを贈った。



(あ、あのっ、俺ずっと名前ちゃんのことが好きだったんだ!)
(えっ!?)
(だっ、だから!うぐっ)((ばきっ))
(それ以上口を開くな!ここで刻まれたくなければな!)
(口を開く以前に気絶してるけど)
(はっはっは!相変わらず加減が下手だなミリッツ!)
(この前対人格闘術で相手の腕の骨を折った馬鹿力が言うな)
((だっ、大丈夫かな…))
title:千歳の誓い

訓練兵時代のお話ということで…もっとギャグチックにしようと思ったのですができませんでした…すみません…私が書くとシリアスになっちゃうのはなぜだ…!!
せめてもと想い最後の最後で名前に告白した勇者を沈めるミリッツたちをかかせていただきました←
因みにbsrをご存知の方はきっと彼らの人物像が想像できると思います…関ヶ原組と忍組です…小太郎を出すかとても迷ったけど出せませんでした!
訓練兵時代ということで…一大決心(?)のところも書きたいなと思ったら思いのほかその件が長くなってしまい他のお話がつめ込めなくなってしまいました(自業自得)
オリキャラ多数で申し訳ありません!(キャラが一人も出てきてない)
何かありましたら何なりとお申し付けくださいませ。
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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